114 魔物の毒
重苦しい空気の中で、先代夫人が沈黙を破った。
「ねえ砦の騎士。砦にヴィセンテ派はどのくらい生き残っているかしら?」
3人組の幽霊は顔を見合わせる。
「俺らがお陀仏んなる前までは、半々てとこでしたぜ」
「あら、けっこういるんじゃない」
先代夫人は嬉しそうにベルシエラを見てきた。ベルシエラは暗い顔である。
「でも、魔物の毒を脅しに使われちゃ、いつエンリケ派に取り込まれるか分かんないわよね。誰だって魔物の餌食になるのは怖いもの」
「そっすね」
「っす」
3人組も項垂れた。
「ベルシエラさん、急ぎましょう」
先代夫人がそわそわと出口に向かう。
「こうしちゃいられませんことよ。帳簿係のフェルナンドもいつ何時暗殺されるか分かりませんわ」
「おや、私と同じお名前ですな」
200年前の薬剤師フェルナンド・デ・ラ・コリナが面白そうに呟いた。先代夫人が振り返って、薬剤師の顔をまじまじと観る。
「帳簿係のフェルナンドに似てる気もするわね」
先代夫人は、財務担当のフェルナンドの顔をを思い浮かべているようだ。
「子孫かしらね?」
「それが本当なら会ってみたいものです。薬の技は受け継がれず、帳簿係になっているとはいえ」
「ついてくる?」
先代夫人は気軽に誘う。薬剤師フェルナンドは悲しそうに首を横に振った。
「それが、我らのほとんどはお城に入れないのです」
「あら、何故かしら?」
3人組が会話に参加する。
「魔法の力が強くなければ通り抜けられない障壁があるんすよ」
「それはそうだけど。通行道具があるでしょう?」
先代夫人が不思議がる。3人組は説明する。
「幽霊にゃ道具なんて支給されないっす」
「障壁は魔法に反応するもんだから、生身だろうが幽霊だろうが、魔法の力が弱けりゃあ弾かれちまうんす」
「あら、あたくしのネックレス、幽霊になっても魔法媒体として使えるわ。それに通行道具も持っていてよ」
「そりゃ、魔法の力が強いからっす」
「普通じゃそうはいかねっす」
「杖神様と同じすね」
これは杖神様が否定した。
「いや、我が杖は幽体ではないぞ」
杖はれっきとして存在する。先代夫人のネックレスや通行の道具は実体を持たない。
ベルシエラはその会話をぼんやりと聞いていた。
「どうかなすった?ベルシエラさん?」
「お姑様、魔物の毒について詳しく載っている本は、カスティリャ・デル・ソル・ドラドにございますかしら?」
「どうかしらね?お探しになったら?ファージョンほどじゃないけれど、家のお城にはそれなりの蔵書量があるわよ」
「探してみます」
「書庫の場所は分かる?」
ベルシエラは肯首する。書庫には一周目でずいぶんと通ったものだ。
「利用方法も分かります」
「特別書庫の鍵は貰ったの?」
「ふふふ、鍵を開けるのは得意なんですよ。資格ならございますし。エンリケ一派が私を書庫に入れないようにしたところで、無駄なんです」
ベルシエラは悪そうにニッと笑った。
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