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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第六章 龍と魔物と人間と

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114 魔物の毒

 重苦しい空気の中で、先代夫人が沈黙を破った。


「ねえ砦の騎士。砦にヴィセンテ派はどのくらい生き残っているかしら?」


 3人組の幽霊は顔を見合わせる。


「俺らがお陀仏んなる前までは、半々てとこでしたぜ」

「あら、けっこういるんじゃない」


 先代夫人は嬉しそうにベルシエラを見てきた。ベルシエラは暗い顔である。


「でも、魔物の毒を脅しに使われちゃ、いつエンリケ派に取り込まれるか分かんないわよね。誰だって魔物の餌食になるのは怖いもの」

「そっすね」

「っす」


 3人組も項垂れた。



「ベルシエラさん、急ぎましょう」


 先代夫人がそわそわと出口に向かう。


「こうしちゃいられませんことよ。帳簿係のフェルナンドもいつ何時暗殺されるか分かりませんわ」

「おや、私と同じお名前ですな」


 200年前の薬剤師フェルナンド・デ・ラ・コリナが面白そうに呟いた。先代夫人が振り返って、薬剤師の顔をまじまじと観る。


「帳簿係のフェルナンドに似てる気もするわね」


 先代夫人は、財務担当のフェルナンドの顔をを思い浮かべているようだ。


「子孫かしらね?」

「それが本当なら会ってみたいものです。薬の技は受け継がれず、帳簿係になっているとはいえ」

「ついてくる?」


 先代夫人は気軽に誘う。薬剤師フェルナンドは悲しそうに首を横に振った。



「それが、我らのほとんどはお城に入れないのです」

「あら、何故かしら?」


 3人組が会話に参加する。


「魔法の力が強くなければ通り抜けられない障壁があるんすよ」

「それはそうだけど。通行道具があるでしょう?」


 先代夫人が不思議がる。3人組は説明する。


「幽霊にゃ道具なんて支給されないっす」

「障壁は魔法に反応するもんだから、生身だろうが幽霊だろうが、魔法の力が弱けりゃあ弾かれちまうんす」

「あら、あたくしのネックレス、幽霊になっても魔法媒体として使えるわ。それに通行道具も持っていてよ」

「そりゃ、魔法の力が強いからっす」

「普通じゃそうはいかねっす」

「杖神様と同じすね」


 これは杖神様が否定した。


「いや、我が杖は幽体ではないぞ」


 杖はれっきとして存在する。先代夫人のネックレスや通行の道具は実体を持たない。



 ベルシエラはその会話をぼんやりと聞いていた。


「どうかなすった?ベルシエラさん?」

「お姑様、魔物の毒について詳しく載っている本は、カスティリャ・デル・ソル・ドラドにございますかしら?」

「どうかしらね?お探しになったら?ファージョンほどじゃないけれど、家のお城にはそれなりの蔵書量があるわよ」

「探してみます」

「書庫の場所は分かる?」


 ベルシエラは肯首する。書庫には一周目でずいぶんと通ったものだ。


「利用方法も分かります」

「特別書庫の鍵は貰ったの?」

「ふふふ、鍵を開けるのは得意なんですよ。資格ならございますし。エンリケ一派が私を書庫に入れないようにしたところで、無駄なんです」


 ベルシエラは悪そうにニッと笑った。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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