113 暗殺
発言するのはヒゲである。
「いえね、大昔からこの辺りに巣食ってやがるトゲの魔物野郎共が出たんすけどね」
コデブが後を引き取る。
「そいつらにゃ、大昔っからの決まった攻略法があるんすよ」
エルグランデ王国建国秘話にも出てきた戦法のことだろう。
「トゲの魔物に限った話じゃねぇんすけどね」
またノッポが話す。3人組は発言の順番が厳格に決まっているようだ。次は当然ヒゲである。
「どのみち魔物は魔法でトドメを刺さねぇと、いっくらでも生き返って来やぁがんでさ」
「それで?妙な動きって?」
ベルシエラは先を促す。コデブが答えた。
「魔法使い連中がトドメを刺すとき、繁った枝や霧ん中に突っ込んでくんすよ」
「え?遠くから炎を放つんじゃないの?」
「おっ、流石はご当主夫人、よくご存知で」
ノッポが誉めると、3人はまた全く同じタイミングで頷いた。その後も順番を守って3人は語る。
「そんで、砦じゃ噂になってんす」
「魔法使い連中はトドメを刺す前に何かしてんじゃねぇか、って」
「魔物の血を飲んでるとか、肉を食らってるとか」
「まさか!魔物はどんな種類でも毒が強すぎて、触ることすら出来ないって聞いたわよ?」
ベルシエラの背中には、ゾクリと冷たい汗が伝う。
「そうなんす」
「そこなんす」
「奴等、普通じゃねぇんすよ」
「連中の魔法が何だかドス黒いって、旅の魔法使いが言ったらしいんす」
「そんでもって、その魔法使いも、その噂を聞いたもんも、みんな魔物の棘にやられちまいました」
「え?」
ベルシエラの目が恐怖に見開かれた。
「炎に隠して魔物の棘を飛ばしてきやがんすよ」
「魔法使いが?」
「そうっす」
「奴等、気にいらねぇ人間は炎に巻き込みやがんす」
「元々そうだったんすけど、最近は魔物の棘抜いて飛ばしやがる」
「ダメ押しってヤツでさぁ」
「何てこと?そんなこと出来るの?」
3人組はまたもや同時に頷く。
「俺らも噂しちまって」
「炎に巻き込まれて魔物の群れにぶち込まれたんでさぁ」
「毒の棘まみれにされながら見ちまったんすよ」
「奴等は魔法で毒の棘を魔物から引き抜いて、筒に入れて持ってったんす」
「何ですって?」
ベルシエラは思わず顔を顰めた。
「俺らは魔物の群れに投げ込まれたんすけど」
「棘が刺さっておっ死んでる騎士や魔法使いが、討伐現場でもねぇ道端だの建物の陰だの、あっちこっちで見つかったって」
「集めた棘を使ったのね」
3人組は同時に頷く。ベルシエラは幽霊に負けないくらい蒼白になった。
「それも噂なんすけどね」
「そいつら、別の噂もしてたんす」
「ご当主様も魔物の毒を盛られてるって」
3人は少し溜めてから、声を揃えて締めくくる。
「ヤツら人間じゃねぇ」
氷の洞窟はしんと静まり返った。幽霊たちが恐怖の色を浮かべている。
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