112 砦の噂話
ベルシエラは、自分のルーツを知るちょうど良い機会だと思った。
「私、小さな頃に春の狩場になる森で倒れていたらしいんです。この石だけが手掛かりで」
「ああ、なるほどそういう訳ですか」
フェルナンドは納得してにっこり笑う。
「とても貴重な石ですから、もしかして、代々受け継がれた髪飾りかもしれませんね」
「ファージョン魔法公爵家に何か記録が残っているかしら?」
「ファージョンは語り部の一族だからな。伝承や伝来の品物の数は膨大だろう」
「杖神様も、そう思います?」
「今一度、ファージョン家をあたってみるのも良いのではないか」
「ええ、手紙を書いてみます」
杖神様は少し考えるそぶりをみせて目を瞑る。ややあって目を開くと助言をしてくれた。
「手紙に詳しくは書かない方が良いぞ?」
「そうですね。見張られておりますから」
ベルシエラも同意した。
「薬の件については、このくらいでしょうか」
「そうね。あとは郵便室を確かめてからね」
「はい。そこはお願い致します」
「ええ、任せて」
一旦話を切ると、ベルシエラはまた幽霊たちを見回した。
「皆さんの中で、いちばん最近に幽霊になった方はどなたでしょうか」
「俺達です!」
幽霊にしては元気の良い返事で、3人組が飛び降りてきた。茎付きのギラソル二輪を交差させたマークを鎧につけている。これはギラソル領の黄金の太陽騎士団のエンブレムだ。鎧はひしゃげて血の跡があり、髪と顔には焦げ跡もある。
「ひっ、何があったんですか?」
明るい声と裏腹に凄惨な姿を見せた3人組に、ベルシエラは短く悲鳴を上げた。ノコギリ鳥やオレンジ色の獣を駆除した経験はある。だが、血塗れの騎士は初めて見たのだ。
3人組は、小づきあいながら手短に語る。
「俺達、下の砦に詰めてたんすけど」
先ずは、兜から薄茶色の髪が覗くヒョロリと長身な男が口を切る。ずいぶんと庶民的な語り口だった。黄金の太陽騎士団には農民や狩人の出身者もいるのだ。
「たまに魔物が出ると退治に出かけんでさぁ」
続けたのは、きょろりと愛嬌のある若草色の眼をした小柄な髭男だ。
「あの日も魔物が出たってんで、仲間と迎え撃ちに行ったんすよ」
3番手は、声が低い小太りの男である。そしてまた、ノッポに戻る。
「けど一緒に行った魔法使い連中が、妙な動きをしてたんでさぁ」
「妙な動き?」
ベルシエラが聞くと、3人はピッタリ同じタイミングで頷いた。
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