表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第六章 龍と魔物と人間と

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/247

110 水薬と郵便室

 ベルシエラは、現在もヴィセンテの従者トムが怪しい水薬を飲ませていることを思い出す。


「側近が?」

「ええ。薬湯を出したのは側近です。でも、其奴(きゃつ)は先代の時からの忠臣で、さらに前の側近から受け継いだ慣例でした」

「じゃあ、悪人ではなかったのね」

「はい。それが救いでもあり、また善意故に対応が難しくもありました」


 その側近は悪意で報告しなかったのではないそうだ。そうなると、トムの立ち位置が曖昧になる。トムも案外、ヴィセンテを大切に思う一心だという可能性が浮上した。余所者や未知の療法に過剰反応しているだけなのかもしれない。


 エンリケのことは、外面に騙されて信頼しきっているとも考えられる。


(決めつけるのは良くないわね。本当の悪を見落としてしまう。味方になるはずの人を傷つけたら大変だわ)


 ベルシエラは自分もまた、一周目に城で出会った人々と同じく皆を色眼鏡で見ていたと悟った。ヴィセンテの代になって急に増えた犠牲者たちの幽霊を見上げ、ベルシエラは改めてこの地を守る決意を固めた。



 200年前の薬剤師フェルナンドの証言で、投薬の実情が明らかになった。ルシアの時代から既にヒメネス領から薬が送られていた。歴代従者はそれを当主に飲ませていた。


「郵便室の記録を調べて見ようかしら?トムに話を聞くのはまだ早いですよね?」

「郵便の記録に内容まで記載があるかしら?」

「手紙か包みか箱かの記録はありそうですよ。一周目でアレホが台帳をチェックしてるとこ、見かけましたもの」


 郵便係のアレホは几帳面な性格だ。部下の記入した記録も、必ず全て自分の目で実物と照らし合わせていた。その際、ベルシエラが内容を覗き見た事があるのだ。宛先に差出人、日付けや形状、およその重さや大きさまで事細かに記載された台帳だった。


「今の薬は水薬(ポーション)ですから、記録上は巻紙でも畳んだ紙でもないはずです。エンツォ宛でヒメネス領主からそれ以外の郵送物が送られてくる頻度を調べましょう」

「頻度を調べてどうするの?」

「薬は多分、定期的に補充されていますよね?」


 ベルシエラの推測には、フェルナンドが答えた。


「常識的に考えればそうですね」

「でしょう?だとすれば、記録を見ると次に荷物が来る時期の予想が立てられます」

「ベルシエラさんが中味を確認するの?危険じゃない?」


 先代夫人が心配そうに顔を曇らせた。幽霊なので透けているが、気持ちは充分に読み取れるのだ。


「そこはお姑様、お願いできませんか?」

「あっ、そうね。いいわよ。開けるところ見てやるわ」


 先代夫人は俄然やる気を出した。小説「愛をくれた貴方のために」第二部の探偵パートを書いた人物だけのことはある。どうせ幽霊なので気付かれることはない。思う存分調査が出来るので張り切ったのだ。


「ただエンツォを見守ることしか出来ないと思い込んでたけど、あたくし、あちこち見たり聞いたり出来そうよね?」

「はい。一周目でまじない師やお祓い師を見かけましたけど、このお城には居ないようですし、安全に動き回れると思います」

「民間の拝み屋さんたち?あんまり見たことないけど、あたくしを見たり声を聞いたり出来るひとには会ったことないわねぇ」

「そこはまず大丈夫だろうが、用心はしておくのだぞ」


 杖神様が口を挟む。年長者の言葉、特に魔物が蔓延っていた時代を生きたご先祖の忠告である。ベルシエラも先代夫人も、神妙な顔で頷いた。



お読みくださりありがとうございます

続きます


閑話

郵便制度


紀元前2000年ごろ、バビロニアでは粘土製の封筒(運搬ケース)が使用されていた

紀元前5世紀頃、アケメネス朝ペルシャでダレイオス一世は「王の道」 (環線道路)を通って手紙や小包を配達させた。


この道の調査に関する記事

https://kodokiko.com/persia/

( 最終閲覧日2024/3/1 0:04)



ローマ帝国で整備された道路網 Cursus publicus=公道を利用した郵便制度は、5世紀にローマ帝国が滅びてもほぼそのまま活用された


ヨーロッパでは巻紙に上から紙を巻いて封緘したり、畳んだ紙で手紙を挟んで封緘したり。日本では室町時代、14世紀頃に文箱が実用化されたとか。


文字を書けるのは高貴な人なので、手紙は使者が運びました。


15世紀にグーテンベルク活版印刷所が開業し、大量生産が可能になる。封筒印刷機は専用の機械もあり、木版のグリーティングカードも流行した


この頃も高価なパピルス紙や獣皮紙はあったが、古着をほぐして作る廉価な麻紙が普及した


1510年、イングランド国王ヘンリー( 8世)・テューダーは Master of the Posts( 郵便局長)となり、郵便制度は飛躍的に発展した。

この人、いろいろ困ったことしでかしてますが、覇王タイプなので組織力はあったんですよね。


世界初のノリ付き切手は1840年のpenny blackで、ヴィクトリア女王15歳の肖像画が印刷された

再使用を防ぐために、赤インクで印をつけた( 消印)


使者、伝令、早馬、郵便と形は変われど代理配達システムは文明の曙から存在し続けてきた


ヒストリカルやファンタジー好きは、羽ペンにスイングする吸い取り紙、そして巻紙に真っ赤な封蝋と封緘の印章に、一度は憧れるのではないでしょうか


そして、相聞歌を入れて贈り合う文箱もときめきアイテムだと思います

文香もぜひ燻らせてください

箱は蒔絵も螺鈿も捨てがたい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ