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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第六章 龍と魔物と人間と
107/247

107 ベルシエラは洞窟に着く

 一行が動き出すと、監視役の1人が距離を保ちながら付いてくる。ひとりは報告に走る。そしてベルシエラは、ヴィセンテに心の声を送る。


(エンツォ、具合はどう?)

(あっ、シエリータ!熱はまだあるんだ。時々目は覚めるんだけど、起き上がれそうにないや。今日もお散歩は無理そうなんだ。ごめんね)


 しょぼんと肩を落とす様子が手に取るように分かる。


(お夕飯はお部屋で摂る方が良さそうね)

(うん。そうするよ)

(なるべくなら水薬は避けてね?)

(大丈夫。起き上がれない時には無理に飲まされることないから)

(良かった)


 ベルシエラはひとまず安堵した。


(ゆっくり休んで。私は杖神様の洞窟に集まってる幽霊たちに会ってくるわね)

(幽霊?)

(明日全部話すわよ)


 ヴィセンテは不安そうだ。


(今夜は?話せる?)

(少しだけよ?また熱をだすから)

(分かったよ)

(いくら水薬を避けられるからって、しょっちゅう熱を出していたら体力が持たないわよ)

(うん。今度こそ本当に寝たきりになっちゃうよね)

(気をつけてね?)

(うん、分かったよ。もう寝るよ)

(それがいいわ。おやすみ)

(おやすみシエリータ)


 ヴィセンテが大人しく休んだ気配を確認して、ベルシエラは幽霊たちに意識を向けた。



 足場の悪い禿山の道を降りて氷の洞窟に到着する。禿山と言っても、疎な草木は生えていた。長らく人跡が絶えていたらしく、所々で灌木の小さな茂みが邪魔をする。洞窟の入り口は半ば崩れて狭くなっていた。


 幽霊たちはすいすい通り抜ける。ベルシエラは屈んでどうにか中に入った。そのまま昔月の民が集落を作っていた最奥へと降りる。杖神様の台座も昔のままだ。ここには魔法が満ちていて、開祖の時代から変わっていない。人々が洞窟を出て広野や森で暮らすようになった以外は。



 元集落は、今や幽霊集落になっていた。ベルシエラは驚いて集落の入り口で立ち止まる。その空間には、幽霊たちがひしめいていたのだ。


(フェスかってくらい騒がしいな)

「まあ、本当ね。たくさんいらっしゃるわ」


 先代夫人は呑気に見回している。彼女は電脳世界を通じて美空=ベルシエラの世界を知っている。ベルシエラが美空の時に覚えた言葉を使っても通じていた。



 聞けば夫が継ぐ時も息子が継ぐ時も、寝たきりの寝室で継承式を行ったと言う。


「私もここに来るのは初めてなのよ」


 半透明な水色に見える壁は、全て氷である。遥か天井に僅かな穴があるらしく、いく筋かの細い陽光が差している。そこから落ちてきたのか、氷で覆われた床には虫や木の葉や鳥の羽が散らばっていた。


「害のないものは落ちてくるのだ」


 杖神様が教えてくれた。この地に有害な物は魔法障壁に阻まれるのだそうだ。障壁は杖神様の幽霊が維持している。



「さて、皆の衆。ちょっとお耳を拝借するよ」


 杖神様の一声で、騒がしかった幽霊たちが一斉にこちらを向いた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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