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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第六章 龍と魔物と人間と
103/247

103 水薬はどう使われたのか

 テーブルに白い卵の殻が散らばる。先代夫人はその様子を見て微笑んだ。


「あたくしがうんと小さかった頃ね、本家のお城に泊まったことがあるの。その時もこんな感じでした。幼かったあたくしは、怖くて泣いちゃったのよ」


 テレサの昔話によれば、先代の頃までカスティリャ・デル・ソル・ドラドでは全員一緒に食事を取っていたそうだ。先代夫人は末端の傍系だが、何かの行事でその頃に黄金の太陽城で宿泊したのであろう。


 そんな情景を懐かしく眺めながら、先代夫人はふとベルシエラに尋ねた。


「ねえ、ベルシエラさん」

(はい)

「貴女、()()()は魔法酔いにならなかったわよね?」

(それは多分、エンツォが死なずに済んだのと同じ理由じゃないでしょうか?)

「魔法の力が強いから?」

(はい。抵抗出来たんだと思います)



 静かに麦粥を啜っていたヴィセンテは、ここで微かに首を傾げた。


水薬(ポーション)が体調を悪化させる可能性はある。だけど、初めて魔法酔いになった時には、水薬を飲んでいなかったよ)

(原因ではない、ってことね?)

「一周目も今回も、ベルシエラさんは水薬飲んだ?」

(飲んでません)


 ヴィセンテは形の良い銀色の眉を寄せる。


(さっきから、()()()ってなに?「前」と関係あること?)

(あー、後で話すつもりだったんだけど)

「そうね。長くなるから後にしましょ」


 少し不満そうなヴィセンテの口元を、ベルシエラはちょんとつついた。


(ふふっ、可愛い)

(分かったよ、後でいいや)


 ヴィセンテはすっと顔を動かしてベルシエラの指先に唇を触れた。


(またっ!)

(ククク、可愛い)


 ベルシエラは手を引っ込める。上機嫌で目を細める夫を睨みつけながら、胸元に抱え込むようにして手を隠した。



 ヴィセンテが思いの外早く追求も揶揄いもやめて退いたので、話を再開する。


「確かに、あたくしみたいに嫁いで来た人も発病してきましたけど、ベルシエラさんだけ無事なのは不思議ですわね」

(ええ。ですから、水薬が原因かと思ったんです。私は口にしてませんから。でも、発病後に処方されたとなると、水薬は悪化させる薬なのかな、と)

(こっそり食事や飲み物に混ぜたかも知れんぞ?)


 杖神様の意見に、先代夫人とベルシエラは顔を見合わせた。


「それね」

(ええ、それかもしれません。なんで今まで気が付かなかったんだろう)


 ヴィセンテも頷いた。


(シエリータ、これからはちゃんと毒があるかどうか調べてから食べるんだだよ)

(私にも多少の知識はあるけど、知らない毒だってたくさんあると思うわ。なにか道具とか、魔法とか、ないの?)

(お毒味役をつけよう)

(それはちょっと。身代わりで他の人が犠牲になるなんて、嫌だわ)

(えっ、それはそうだけど、でも)


 ベルシエラは庶民である。美空は現代人だ。ヴィセンテとは少し感覚が違った。


(エンツォにはずっと、お毒味役がいたの?)

「ベルシエラさん、仕方ないのよ。貴族ですもの」


 ベルシエラは、毒味役が不用になる魔法道具を開発することを胸の内で誓った。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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