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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第六章 龍と魔物と人間と
101/247

101 有害なもの

 ベルシエラは改めてエンリケ一家を見る。一家は傲然と見返してきた。それを見て先代夫人は呆れたように首を振る。


「ふうん。あなた方は認めない、自分たちが当主だっていいたいのね」

(あら、厚かましい。目の前でエンツォが杖神様をお迎えしたのにねぇ)


 カタリナ叔母とその息子たちが結婚式の後でやって来たのは、ベルシエラへの牽制だったのだ。結婚式を欠席することで婚姻を認めない意思を示した。そして、本家の家紋をつけて乗り込んで来たのは、自分たちの権威を見せつけるためだ。


 わざわざ来客の皆が帰宅した頃合いを見計らって現れ、黄金の太陽城の新しいスタートを台無しにしたのである。



 朝食室で幽霊たちが見えているのはベルシエラだけだ。声が聞こえるのは、ベルシエラとヴィセンテのふたりである。エンリケ一家に杖神様の怒りは見えも聞こえもしていない。


(これ迄長きに渡り、一族の長がわが杖に宿る魔法に耐えきれず倒れてきたが、代理人などという巫山戯た輩は聞いたことがないぞ)

(そうなのですか?)


 ヴィセンテは驚いた。


「そういえば、お(とう)様は寝たきりでしたけど代理人はおりませんでしたわ。そのままレン様があたくしとの婚姻の直前に継承なさいました」

(レン様とはヴィセンテ様のお父様でしょうか?)

(そうだよ!愛称だよ)


 先代夫人は銀盃の儀式を結婚式で終えている。当然、杖神様の声も聞こえる。会話にすんなり入っていた。



「それにしても、エンツォ、杖神様を手にしても具合は悪くない?」


 エンリケ一家と睨み合いながら、新婚夫婦と幽霊ふたりは話し続けた。居並ぶ召使いたちは、いい加減お腹を空かせて落ち着かない様子になってきた。暴食の大地と言われたギラソル領の住民たちである。食事お預けは怒りと憎悪を溜めさせる。


 部屋中で緊迫感が高まる中、幽霊たちはマイペースに浮かんでいた。ヴィセンテも気にせず話し続ける。ひとりベルシエラがはらはらしたが、自分も聞きたい話題であったのでとりあえずは大人しくしていた。



(はい。継承式ではすぐに倒れちゃったけど、今日は少し具合が悪い程度ですから)

(継承式で倒れたの?)

「そうなのよ。エンツォの寝室で済ませたから、倒れても大丈夫でしたけどね」

(そういえば、あの時も次の日は調子がよかったな)


 ベルシエラは、はたと気がついた。少し目が大きくなっている。夜明けの空に太陽が昇るように、ヴィセンテの顔は朝焼け色に染まっていった。


(シエリータ、可愛いなあ。今度は何を思いついたの?)


 ベルシエラは照れて少し伏目になりながら、ひとつの仮説を述べてみた。


(昨日は熱を出して寝ていたから、もしかして水薬は一回分飲んでないんじゃない?)


お読みくださりありがとうございます

続きます

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