10 少女は森番が見つけた
入り口の扉が閉まるなり、アレックスとサラが顔を見合わせる。普段とは違う硬い表情だ。アレックスが目で促すと、サラが一旦夫婦の部屋に下がる。やがて戻ると、その手には丁寧になめした革の小さな巾着袋が提げられていた。
「これを」
サラはベルシエラに巾着袋を渡す。
「これは?」
「開けてごらん、ベルシエラ」
中には、紐に通した小さな金属の球が入っていた。黒っぽい球だったが、ベルシエラが取り出すと透明に変わった。
「え?これは何?」
アレックスは覚悟を決めるように、フーッと大きくひとつ息を吐く。
「ベルシエラを保護した時にな、束ねた髪に付けていた飾りなんだよ」
「保護した?」
ベルシエラは不審そうに眉を寄せる。
「良いものに見えたから。無くしちゃいけないと思ってね。落とさないように、引き出しにしまっといたんだ」
サラは言い訳するように早口で告げた。
「いつかベルシエラが大人になったら、ちゃんと話して渡そうと思ってね」
アレックスも不安そうに付け加える。ベルシエラに嫌われることを恐れているのだろうか。
「それに、髪から外した途端に黒くなったじゃないか。きっと何か謂れのあるものに違いない」
「私たちが触っても透明にはならないんだ」
森番夫婦の話によると、ベルシエラは森で倒れていたのだそうだ。辺りに人影はなく、馬車やロバなどの乗り物も見当たらなかった。うんと幼い女の子が、薄いチュニック一枚でうつ伏せになっていた。
呼びかけても返事はなく、気を失っているようだった。アレックスは、ひとまずその幼児を森番小屋に連れて帰ったのだ。そのまま置き去りにしたら、獣に襲われてしまうから。
どこから来たのか、どうして来たのか、予想できる物は何も無い。髪飾りだけが手がかりだ。森番は町の人に尋ねてみたが、誰もが知らないと言うばかり。巡視隊に聞くのは畏れ多いし、すぐに手詰まりとなった。
「身元が知れようが、知れまいが、ベルシエラは家の子さ」
サラは言った。保護した時には2歳くらいだったのだ。ベルシエラにとっても、家族は森番の家族なのである。もっとも、美空にとっては、数週間を過ごしただけの夢で会った人々なのだが。
「けどな、どっかで生きてんなら、本当の家族にも会いてぇだろ?」
アレックスが優しく言う。ベルシエラは胸の奥が温かくなるのを感じた。
「王宮に行かれるんならよ。なんか解るかも知れねぇぜ」
「そうだよ。この球飾りのこと、偉い魔法使いなら知ってるんじゃないかい?」
父母の励ましに、兄も言葉を添える。
「うん。俺もそう思うよ、ベルシエラ、行ってこいよ」
ベルシエラは涙ぐむ。
(なんて素敵な家族なんだろう)
たとえ夢の中であったとしても、この人たちと出会えてよかったと思えた。
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続きます