8.救出
ボガァァン!
「……」
爆煙が薄くなると、パヤノは薄黒くなっているエンジェルベルトの姿を確認した。服は一部を残し、ビリビリに破れている。
「エンジェルベルト!」
「……服が、服がぁ!!」
エンジェルベルトは涙目になっていた。痛みは耐えられる。ゴムパッチンを喰らったくらいのもので、我慢すれば大したことはない。これも魔法使いに備わった耐性なのか。それよりも、自身が裸に近い恰好になっているのが、とにかく恥ずかしかった。
「布! 布ちょうだい! 早くっ!!」
「こいつ、やっぱりメルピンらとは全く別の生き物だね」
エンジェルベルトの頑丈さに、メルピンは心配が徒労だったかのように首を振った。
「布!? ええと、はい!」
パヤノは少し焦げたテーブルクロスを渡し、エンジェルベルトはそれを体に巻いた。
「おい! どっかで監視してるんだろ! 私は許さないからな!!」
あるかも分からない監視カメラに向かって、エンジェルベルトは大声で怒った。
「ていうか、格納すればいいのに。なんで手の甲で払うのさ」
メルピンがショットガンを回しながら疑問を投げかけた。
「だって! よく分からないものを格納するなんて! 気持ち悪いじゃん! 未知数すぎる!」
エンジェルベルト以外の二人は、「その能力が一番未知数だろ」というツッコミを喉元で抑えた。
「でも、そうこう言ってられないよね。私は怒ったよ。城もろともぶち壊してやる!!」
エンジェルベルトは、部屋の角から飛び出してきた直径三メートルはある巨大な槍を左手で格納する。
「ぐ、いけるいける」
そのサイズ故、エンジェルベルトは少し気分が悪くなったが、すぐに右手を前に出す。
「どうやってこんな大きさと強度のものを作ったか知らないけど、こんな武器を私に向けてきたことは、悪手だね」
ドガァァン!!
扉に向けて放出した巨大槍は、ものの見事に扉を破壊し、脱出口を確保した。
「もう王に会うのは二の次。どこかで捕まってるであろう使者を探してロンドーテに戻ろう」
エンジェルベルトは二人に提案し、先だって廊下に出た。そこには、スタルケ王国の兵士たちが大量にいた。
「何かおかしいわね。門番も確か……」
パヤノが兵士の異変に気付いた。兵士の目はひどく充血をしている。
「あいつらを捕まえろお!」
号令と共に、襲い掛かってくる兵士たち。
パンパン! メルピンが両手にもったショットガンで狙撃した。見事に頭部を貫通している。凄まじい狙撃技術だ。
大勢で迫ってくる兵士に、エンジェルベルトにも余裕はなかった。王女であるパヤノを守らなければならない。
「岩マシンガン!」
ドドドドド! なんとも不格好な技名を叫び、兵士を一網打尽にする。
姿勢を低くしかいくぐってきた兵士には、左手をポンと肩に当てる。
「うわぁ! なんだ!?」
吸い込んだ兵士を岩に紛らせ放出する。急な人間の弾に、前にいた兵士はなぎ倒される。それでも次から次へと湧いてくる兵士に、エンジェルベルトとメルピンはより一層攻撃を激しくする。
「エンジェルベルト、あれを出して」
二人の背中に隠れていたパヤノが、突如前に躍り出た。
エンジェルベルトは後ろに戻そうとしたが、出発前に、国の従者から有事の際の護衛用にと格納を依頼されたものを思い出す。
「あれって……ああ、これのこと?」
「ありがと」
エンジェルベルトが出した直径二メートルほどの分厚い巨大な盾を、パヤノは悠々と持ち上げ、自分の前にドスンと置いた。
え? え? 華奢な体からは想像できない行動に、エンジェルベルトの脳がショートしそうになる。
「ほれ」
それを見ていたメルピンが、エンジェルベルトに耳栓を渡す。
「鼓膜破れるよ。メルピンは知らないからね」
「はえ?」
パヤノが盾を強く握ると、平面だった盾の表面から窓のようなものが開き、無数の銃口が出てきた。
「時間はかけない。今この瞬間だって、私たちの国の使者が助けを求めているの」
ドドドドドドドドドドドドド!!!
煙が薄くなると、大量の兵士がそこに倒れている。
「……もう私の上位互換じゃん」
あまりの威力に、エンジェルベルトは自身の岩マシンガンが少し恥ずかしくなった。
「まだだぁ!」
死体に埋もれて機を伺っていた兵士が、パヤノに飛び込んできた。
ドゴォン! 盾を下から上に振りかぶり、襲ってきた兵士を吹っ飛ばす。兵士は軽々と遠くに落ち、もう動かない。
「正面からなんて、頭悪いわね」
「戦闘ハイになって口が悪くなってるよ」
エンジェルベルトは、顔を引きつらせながら、普段より目が一回り大きくなっているパヤノに注意した。
「パヤノさまですか!? ここです! 出してください!」
三人で声を出しながら城を探し回っていると、一室から助けを呼ぶ声が聞こえてきた。
「きっと捕まっている使者二人だわ」
パヤノはエンジェルベルトに目配せをした。
「りょ!」
エンジェルベルトは施錠されている扉に手を当て、格納する。
ドルゥゥゥン。 急になくなる扉に、手足を拘束されバタバタと動いていた使者は、驚きからピタリと静止した。
「な、なんですか今のは」
「まあまあ、いいからいいから」
エンジェルベルトは、使者の拘束具を格納し、扉とまとめて明後日の方向に放出する。
「ひぇ」
自由に動けるようになった途端、使者はパヤノとメルピンの後ろに走った。
私の存在は国の幹部しか知らないんだっけ。そりゃこういう反応になるか。エンジェルベルトは両手を大きく広げ、にこりと笑って話しかける。
「大丈夫。私は味方だよ。まあ、ロンドーテのみんなが忌み嫌って恐れている魔法使いではあるんだけど。怖いなら離れてていいから」
「ち、違うんです。魔法使いはその異能を見れば理解できました。なんで、なんで裸で平気なんですか!」
エンジェルベルトはすぐさま体を見る。友好を示そうと両手を広げた拍子に、巻いていたテーブルクロスが落ちていた。
「……見たな」
エンジェルベルトは体を震わせて手首を回した。
「見たなこのやろぉぉぉ!!」
「うわああ! 魔法使いの裸なんて興奮しないです!! やっぱり味方なんかじゃなかったんだぁぁ!!」
子供のように追いかけっこをするエンジェルベルトと使者たちを、パヤノとメルピンは一時の休息がてら、観劇するように楽しんでいた。
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