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7.臨時使者の派遣

「ブリトー、今回の件、どう考える?」


 クラウディオは玉座のひじ掛けで腕を支え、その腕で頭を支えた。


「僭越ながら、スタルケ王国が怪しいと思います」


 ブリトーは膝を床につけながらそう言い、下からクラウディオを見上げた。クラウディオの眉がピクリと動く。


「……やっぱそうだよねぇ」


 激高するかと思ったが、違ったようだ。隣国スタルケ王国は、ロンドーテ王国と同盟関係にあり、スタルケ王国国王・マーチンはクラウディオのいとこにあたる。仲も非常に良好らしい。つまり二国は、争うことなど決してない大きな一つの国だ。エンジェルベルトはリカからの情報でそう理解している。


「バッキーが現れたのは、ロンドーテとスタルケの国境です。ロンドーテにバッキーの大群が到着するには、スタルケを通る必要がある。正規ルートでバッキーが侵攻してきたとすれば、スタルケはそれに気付きこちら側に情報共有を入れるはずです」

「スタルケがバッキーの被害にあったとか、そういったことも聞いていないもんね。メルピンもあの国が何か隠してるんじゃないかと思うよ」


 ブリトーの予想に、メルピンが重ねた。


「マーチンの奴、何考えてんだか」


 クラウディオが大きなため息をついた。


「クラウディオ王、一つ提案があるのですが」


 黙っていたウェインが口を開く。


「なに?」

「バッキーの情報が確認されてから、スタルケに使者を派遣されたと聞いています。ですがその使者はいまだ帰ってきておりません。もしかしたら何か事件に巻き込まれているかもしれません。追加で戦闘能力に長けた使者をお送りになるのはいかがでしょうか」

「……確かにありだねぇ」


 クラウディオが少しの間思案する。


「でも誰にするべきか。護衛軍は連続で出動になってしまうよ」

「はい。我々としては、重症者も出ており、事の報告などの後始末もございますので、出せる兵士は限られてきます。なので、戦闘能力もあり、国の代表として任せられる、パヤノさまを使者とされるのはいかがでしょうか」


 ウェインははっきりと提言した。




「で、なんで私も行くことになってるんだか」


 エンジェルベルトはニュークの引く車内で揺られながら、不満をたらした。


「私だって疲れてるのに」

「いいじゃない。なかなか外に出られる機会もないでしょう。ピクニックだと思ってさ」


 パヤノの持ち前のクシャっとした笑顔を見て、エンジェルベルトの機嫌は良くなる。

 ウェインの提言の後、初めクラウディオは娘を疑わしき隣国に行かせることを反対したが、政治交渉が起こる可能性も否定できないため、折衝力のあるパヤノの派遣が、半ば押し切られる形で決まった。パヤノは二つ返事で引き受けたが、その条件としてエンジェルベルトの同行を要求した。


「で、なんでメルピンもいるんだ」

「メルピンも分からないよ。一応護衛軍からも出しとこう的なノリじゃないの」


 メルピンは床につかない足をブラブラさせている。

 パヤノ、メルピン、エンジェルベルトの三人は、二国の国境に位置するスタルケ王国の関所に到着した。


「ロンドーテ王国使者代表、パヤノ・ガントラです。クラウディオ国王より言伝を預かっております」


 パヤノが車の窓を開け、門番に顔を見せる。


「これはこれは! 王女さま。ご足労おかけしております。王女さまが来られたともなれば、すぐにでもマーチン王に謁見できるかと存じます。ささ、お通りください」

「その前に」


 パヤノが門を開く音に被せるように門番に質問する。


「今から五時間ほど前にこちらからの使者が来たかと思いますが、その使者は今どこに?」

「ああ、お通ししておりますよ。スタルケ城でごゆっくりされているのではないでしょうか」


 門番の目はなぜか充血している。動揺の色を全く見せないのが逆に怪しい。まるで聞かれることが分かっていたかのような振舞だ。


「そうですか。では、合流するとしましょう。ニューク、進んでいいよ」


 ヒヒーン。パヤノの言葉を聞いて、ニュークはゆっくりとスタルケ領土内に歩を進めた。


「パヤノ、大丈夫なの? なんか門番怪しかったよ」


 エンジェルベルトはパヤノに尋ねた。


「大丈夫よ。どうせ行かなきゃならないんだから。先ほどは少しカマをかけただけ。私、エンジェルベルトが思ってるより強いのよ」

「はは。なんてったって、ロンドーテ三大突起戦力の一人ですもんね。メルピンもパヤノさまみたいに強くなりたいです」

「ふーん。て、え!?」


 エンジェルベルトは急な事実に声を上げて驚いた。こんなに美しい人が突起戦力!? パヤノは、青く澄んだ瞳で、スタルケ城を見つめている。




「お待ちしておりました」


 ニュークと車を城の外に置き、入り口に向かうと、従者が出迎えた。


「こちらの部屋でお待ちください」


 従者に連れられ入った待合室は、三人を入れるにはやけに広い。


「二人とも、準備しておいてね」


 パヤノが小声で呼びかけた。メルピンは当たり前だと言わんばかりに、ウインクをした。エンジェルベルトは不穏な気配なんて知ったことかと自分に言い聞かせるように、鼻歌を歌った。


「しっ」


 メルピンに一言で叱られる。

 カチッ。その時、微かな起動音が部屋に響いた。


 ジャキィィィン!!!


 部屋の各角から、鯨のような八本の強大な槍が高速で迫ってきた。


「おえあぁ!?」


 エンジェルベルトは間一髪で避ける。せっかくの外用に支給された服が破れた。パヤノとメルピンは悠々とかわしている。

 間髪入れずに、槍が出てきた同じ穴から、パチンコ玉ほどの小さな黒いボールが飛んできた。


「いやいや、これは余裕だわ」


 エンジェルベルトは蚊を叩くように、右手でボールを払おうとする。


「気を付けて!!!」


 パヤノの叫びと同時に、エンジェルベルトの体が爆発した。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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