4.2魔1布の極秘会議
「わざわざこんな辺境の地下室に呼んで、さぞかし大層な話があるんだろうな」
『規模の魔法使い』ドーラ・グットマンは筋肉質の腕を組み、カッとルナを睨んだ。
「いやだなぁグッドマンさま、怖い顔しないでくださいよぉ」
マキシモ教布教官・ルナは、体全体を横に揺らし、猫なで声でグッドマンに甘える。ルナは、教祖より二つの指令を受けている。一つは、まだ入信していないグッドマンを取り入ること。そしてもう一つは、『格納の魔法使い』を隠しているロンドーテ王国への対応方針を、この場に呼んだ魔法使い二人と決めることだ。
「垂らしの女はどこだ? 俺より遅いなんて、許さねえぞ」
グッドマンが貧乏ゆすりを始めると。
「あら、私のことかしら? 垂らしだなんて失礼ね、乱暴な男はモテないわよ」
胸元まで伸びる美しい金髪の女性が現れた。胸元のざっくり空いた白のドレスを着て、妖艶な雰囲気を醸し出している。
「けっ。うるせぇ」
「ベロアさま、お忙しい中ようこそお越しくださいました」
ルナがベロアの前に飲み物を差し出す。
「グッドマン魔国国王、『規模の魔法使い』ドーラ・グットマンさま。マー諸国連合代表、『操作の魔法使い』ベロアさま、この度はお集りいただきまして誠にありがとうございます。お二方ともお国のトップ。あまりお時間もないかと思いますので、早速本題に移らさせていただいてもよろしいでしょうか」
二人の魔法使いと、一人の布教官が、円卓を囲んでいる。
「最近、ロンドーテ王国が不穏な動きを見せています」
「ロンドーテ? あのボンクラの正人が治めている小国か。その国が何だって言うんだ」
「あら、あなた何も知らないのね。その情報網でよく国を治められているわね」
「うるせぇ! 他国なんかに興味はねえんだよ」
ルナは、二人の魔法使いと同時に会うのは初めてだった。魔法使い同士の口喧嘩がとても新鮮だった。能力を使ったら、世界に甚大な被害が及ぶことをお互い理解した上での、じゃれあいだ。
「ルナ、この規模さんに教えて差し上げて」
「規模さん言うな!」
ベロアは、嫌いな人とは全く関わろうとしない。こうしてグッドマンにちょっかいを出しているということは、気に入っているのだろう。
「はい。かしこまりました」
ルナは縦の長い帽子を、被りなおした。
「ロンドーテ王国内に、『格納の魔法使い』が落ちてきました。能力は、右手で格納したものを左手で放出するというものです。ロンドーテ王国は、この魔法使いと同盟関係にあり、有事の際は王国の戦力として利用する覚書を結んでいるようです」
「はぁ!?」
グッドマンがふんぞり返り、円卓に足を乗せた。
「ありえねえだろそんなこと」
「それがありえるのよ」
ベロアはそう言い、ゆっくりと飲み物をすする。
「いいやありえねぇ。魔法使いが正人と同盟? 対等ってことか? そいつは嘘をついている。きっと魔法なんて使えねえ。いるんだよそういう奴。マキシモ教のせいで魔法使いに憧れる奴がな。俺たちは選ばれた神だ。選ばれてない奴らと対等なんてありえねえ」
「その魔法使いは神って考え、まさにマキシモ教なんだけどね」
「けっ。それならそこだけは同感だな」
「マキシモ教は、『魔法使いによる統治が、世界をより良くする』という考えが根底です。決して正人が魔法使いになれるなどとは謳っておりませんし、魔法使いになれるといううがった考えを持つ異端派と、マキシモ教徒は別物です」
ルナが布教官としてグッドマンの言葉を訂正する。
「けっ。そう熱くなるな。悪かったよ。だがその規模の魔法使いとやらが本物とは認めねえぜ。第一、ロンドーテ王国内の情報がなぜマキシモ教に漏れてる? あそこはタロイズムの国だろうが」
「ロンドーテ王国の幹部にはマキシモ教の内偵者がいます。その方が逐一情報を流してくれるんです」
さらっと言うルナに、グッドマンは唾を飲んだ。
「タロイズムの国の中核にやすやすと入り込んでるわけか。怖い宗教だ」
「いえいえそんなことは」
ルナはニコッと笑い否定する。
「格納の魔法使いが本物であることは間違いないです。名前はエンジェルベルト。銀髪の美しい女性という情報も入ってきています。マキシモ教としては、魔法使いが正人の下についているというこの前代未聞の状況を、対処しなければなりません。今の話を聞いて好ましく思っていないのは、グッドマンさまも同じかと思います」
「だから協力しろってのか?」
グッドマンは頭を掻いた。
「俺は宗教とかどうでもいいんだ。お前らを見てると思想が行動に出過ぎてて気持ち悪さすら感じる。だが、ロンドーテ王国には納得はいかねぇ。入信はしねえが、一時的な協力関係なら考えなくもねえ。どうだ? 譲歩してるだろう?」
「前向きなご返事、ありがとうございます」
ルナは深々とお辞儀をした。教祖からの指令『グッドマンの入信』までは達成できなかったが、叱られる程ではない。及第点だろう。
「これでようやく次の話にいけるわね。」
しばらく黙っていたベロアが、口を開く。
「マキシモ教としてのゴールは二つのどちらか。一つは、ロンドーテ王国を消滅、もしくは壊滅させ、エンジェルベルトを王とする新国家を樹立させること」
「それなら俺も文句はねえな。エンジェルベルトがどんな奴かは知らねえが。もう一つはなんだ?」
「今までの魔法使いと明らかに行動原理の違う異端であるならば、エンジェルベルトを消滅させる」
ルナは、これからの始まるかもしれない大きなうねりに、不安と興味が入り混じった、ゾクゾクとした感情を覚えた。
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