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2.『格納の魔法使い』エンジェルベルト

「メルピンさん、お待ちしておりました」


 ハルテンが静かに会釈をする。


「おうおうおう、かわいそうに牢屋に入れられて、よくもメルピンの狙撃を格納しやがったな。メルピンは怒ってるよ」


 メルピンは八重歯をきらりと光らせ、紫の長い髪をなびかせた。エンジェルベルトをおちょくるように、人差し指で牢屋をコンコンと叩いている。


「あんた、私を撃ったでしょ。ひどくない? 状況も飲み込めないうちにいきなりあんなこと。ほんとに恐ろしい世界だ」

「でも、格納したじゃん」

「だから、さっきから格納ってなに!? この国は懇切丁寧の概念はないの?」


 メルピンが、クラウディオとハルテンに目を移す。

「説明してないの? メルピンが言わなきゃいけない感じ?」


 クラウディオが首を縦に振る。


「お願い。僕は長々話すのは面倒なんだ」


 このおっさん、本当に国のトップなのか? エンジェルベルトは呆れたが、正直、説明してくれるなら誰でもよかった。


「魔法使いはそれぞれ異次元の能力を持つ。あなたの場合は、左手でどんなものでも吸収し、右手で吸収したものを放出する力。それをメルピンたちで格納と呼んでいる。だからあなたは『格納の魔法使い』ね。あくまでこの国での呼び方だけど。まだ他国にはあなたの存在を公表していないからね。どう? メルピンの説明分かりやすい?」

「うーん」


 勝手に名付けられたことは理解したが、格納……。なんだかただの掃除好きみたいでかっこよくはないな。エンジェルベルトは自分の能力に少し不服な表情を浮かべた。


「なんか、こう、例えば『炎の魔法使い』とか『雷の魔法使い』とか、そういういかにもな異名と能力はないの?」


 興味本位で聞いてみる。


「メルピンは知らないね。最近動きが激しいのは、グッドマン魔国のドーラ・グットマンかな。彼は『規模の魔法使い』だね」


 エンジェルベルトは噴き出しそうになった。彼女の感性の中では、その異名はダサいものだった。そんなものか。自分だけダサくなくてよかった。


「ん? もうそろそろ来るね」


 メルピンが耳を澄ました。


「え? 誰が」


 エンジェルベルトが尋ねようとしたその時。


「はわわわわ! カワユスですなぁ!!」


 背の高い細身の、眼鏡をかけた男性が、部屋の外からエンジェルベルトに近付いてきた。


「いやっ! なに!? キモいんだけど!」


 つい本音が飛び出る。


「キモい! エンジェルベルトたんにキモいと言われましたぞ! 光栄すぐるっ!ハスハス」


 男は鼻息荒く、牢屋の鉄格子の間に顔を挟み込んでくる。


「助けてください! 誰か! 誰かぁ!!」

「ブリトー軍長、そのあたりで」


 涙を流すエンジェルベルトを黒い影が覆った。それ程までに、ブリトーと言われた男の首根っこを掴んだ人の体は大きかった。


「あぁ! エンジェルベルトたぁぁん!!」


 ブリトーは部屋の角まで投げ飛ばされる。


「軍長が大変失礼いたしました。わたくし、ロンドーテ王国護衛軍副長・チャーン・ウェインと申します」


 エンジェルベルトは呆気にとられ見上げる。二メートルはあるであろう身長に、横幅は相撲取りにも引けを足らない。


「護衛軍……、はぁ、まあそんな組織もありますよね」


 エンジェルベルトはもう大して驚かなくなってきた。


「メルピンは護衛軍の参謀です。昨日の急な狙撃、どうか寛大な心でお許しください」


 メルピンはテヘッと舌を出している。こいつ、牢屋出たら格納してやる。


「クラウディオ王、われわれ護衛軍としての見解をお伝えします。『格納の魔法使い・エンジェルベルト』を、ロンドーテ王国保護下に置き、有事の際の兵器として活用するのはいかがでしょうか」


 ウェインがクラウディオに前で膝をつけ、斜め下を向き進言した。


「あーやっぱりそっち側かぁ、うーん、あー悩むなぁ」


 クラウディオは眉間にしわを寄せながら、王冠を外し頭をボリボリと搔いている。


「前例がないんだよねぇ。正人せいじんが魔法使いの上に立った前例が。グッドマン魔国も、マー諸国連合も、結局魔法使いがトップに立ち、正人たちは半ば奴隷のように扱われているという噂も聞く。ロンドーテ王国国王として、やはりこの国は正人統治国家でありたいし、あるべきだと思うんだよ」

「そうですか……」


 いやいや、もうちょっと粘れよ! ウェインの急なトーンダウンに、エンジェルベルトは目を見開いた。


「クラウディオ王、私は正人? の上に立ちたいとか、そんなこと微塵も思っていないです。前例がなんだって言うんですか! 魔法使いだって一人一人意思があり思考があります。全員が全員悪者なんて決めつけないでください! 私は融通の利く、柔軟で優しい女です!」

「そうだ! エンジェルベルトたんは清い美少女。消滅させるなんて有り得ない。護衛軍は動きませんからね!」


 眼鏡の割れたブリトーが瓦礫から出てきて、声高らかにエンジェルベルトを擁護した。今はこいつの力も借りるのが得策だろう。


「ほら、軍長のブリトーさんもこう言ってます! 多分国でも幹部クラスでしょう? 軍長の意見は聞かないと! クラウディオ王!」


 エンジェルベルトは両手を重ね合わせ顔の前に持ってきた。目はうるうると潤み、懇願の姿勢を見せている。


「うーん、ハルテンちゃん、どう思う?」

「早くこの時間が終わってくれないかなと思っています」


 側近のハルテンは、ブリトーを見て眉間にしわを寄せている。


「パパ、この騒ぎは何?」


 青色の長い髪をなびかせた、c可愛らしい女性が部屋に入ってきた。


「パヤノ、来たのか」

「パヤノさま!」


 皆が一斉に女性の方を向く。どうやらクラウディオの娘らしい。


「この方は?」


 パヤノがエンジェルベルトを指さす。


「ロンドーテ王国に史上初めて落ちてきた魔法使いなんだ。今ちょうど処遇を決めているところだよ。困ったものだよ」


 クラウディオの顔が今までで一番朗らかになり、娘仕様になっている。パヤノはエンジェルベルトに近付くと。


「魔法使いさん、仲良くしましょうね」


 そう一言言って、ニコッと笑顔を振りまいた。

 その瞬間、ロンドーテ王国によるエンジェルベルトの消滅という選択肢は、無くなったのだった。




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