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12.親子喧嘩

「ペレイラ! お前ってやつは!」


 クラウディオが城の窓を開け、ペレイラを睨む。


「あ、お父さん、お久しぶりです」


 ペレイラが目線を少し上げ、会釈をする。


「クラウディオ王には息子がいたんだ?」


 部屋の中で、エンジェルベルトがリカに聞いた。


「そうなの。あまり仲は良くないんだけどね。クラウディオ王はパヤノさまを溺愛していて、長男のペレイラさまには昔から冷たかったの。だからペレイラさまは家を出てって、そこからほぼ絶縁状態になっているんだよ」

「ふーん。そうなんだ」


 エンジェルベルトは自身も両親と仲が悪かったことを、ぼんやりと思い出した。


「魔法使い騒動で困った人たちがわしに助けを求めてきたんだよ。求められちゃあ仕方ない。これで断ったら男がすたるってもんよ」


 ペレイラはフンと鼻息を出した。


「ペレイラ、父に刃を向けるということが、どういうことか分かってる? これ以上ことを荒立てるなら、もう僕はペレイラを息子だとは思わないよ」

「元から思ってないでしょうが」


 ペレイラがペチンと両手を一度叩くと、過激派が構えている大砲からドカンと弾が放出される。


「迎撃!」


 ロンドーテ城の小窓から小型の銃口が出ており、そこから出た小さな銃弾は、大砲の弾を爆散させるには十分だった。


「おお」


 エンジェルベルトは感嘆の声を漏らす。さすが国の中枢は所有している武器の質が違う。


「威嚇射撃で、城にぶつける気なんてなかったのに。放物線で分からない? お父さん目が鈍ったね」

「うるさいな」


 クラウディオが腕組みをして苛立っている。


「弾がもったいないでしょう? わしらはいくらでも補充できるけど、お父さんたちは籠城ろうじょう状態。いつか武器が底を尽きるよ。お父さん、わしらはね」


 ペレイラが諭すように語りかける。


「魔法使いを処分してほしい。それだけなんだ。護衛軍だけでそれが無理ならば、もちろん協力する。手を取り合おうよ。この国はタロイズムじゃないか。こんなの、おかしいよ」


 ペレイラの言い分は最もだ。エンジェルベルトは自身の命に関わる話が目の前で行われているにも関わらず、俯瞰的ふかんてきにそう思った。


「……それは無理だ」


 クラウディオは数秒の間のあと、断った。


「魔法使い・エンジェルベルトは、我が国の重要な戦力だ。覚書をかわしており、我が国にエンジェルベルトからの直接被害が及ぶこともない」

「でも、間接被害は起きてるよね? 魔法使いがロンドーテにいることで、何やら魔国から攻められているみたいじゃん?」

「なぜそのことを!?」


 クラウディオの慌てふためく姿に、エンジェルベルトは呆れた。露骨に態度に出すぎだ。


「まあまあまあ」


 ペレイラは含みのある返事をしたあと、声を大きくした。


「あと三日。あと三日待ちます。それでも歩み寄りが見られないようであれば、本気で潰します。新生ロンドーテ王国の誕生です。もちろん国王はわしで」

「ちょっと待ってください!」


 気が付けば声を発していた。エンジェルベルトは何を言うかまとまっているわけではない。


「エンジェルベルト、今は出てくるんじゃないよ」


 クラウディオは静止したが、もう自身の存在はバレている。エンジェルベルトはクラウディオを振り切り、窓から顔を覗かせる。


「おお、あなたが悪しき厄災ですか。よくもまあこの国に降り立っていただいたこと」


 ペレイラが皮肉たっぷりにエンジェルベルトに挨拶をする。


「どうもどうも、私が巷で噂のエンジェルベルトですよ。以後お見知りおきを」


 エンジェルベルトは青く澄んだ目で、タロイズム過激派御一行を見下ろす。


「お見知りおきをって。わしらはあなたに消滅してほしいんです」

「そんなの、嫌だよつ!」


 エンジェルベルトはまるで子供のように、大声でただ否定した。


「んえ?」


 ペレイラはあまりの純粋な否定に、変な声が出る。


「嫌だって言ってるの! 死ぬのはこわい! だから嫌だ。あなたも分かるでしょう? 死への恐怖は王子だろうが魔法使いだろうがおんなじ! 私は死にたくない! 静かに暮らしたい。願いはそれだけ!」

「……」


 ペレイラは眉を曲げて頭を掻いている。


「仲良くしようよ! 私は友好的で可愛い魔法使いよ!」


 ブンブン。後ろで強く頷く空気摩擦が感じられる。絶対にブリトーだ。


「どう? 今の話、そして実物を見て」


 ペレイラが、周りの過激派に回答を促す。

 唖然とする者。何か思いはあるものの、口に出していないであろう者。いずれにせよ、誰一人反応は示さなかった。


「ええい! もういい! 魔法使いは魔法使い! その事実は変わらん! 三日後に城もろとも消滅! わしがそう決めた! オッケイ?」


 そう言ってペレイラは合図をし、一旦その場にいる過激派を引き上げさせた。入れ替わるように変わりの過激派が城の周りに整列する。


「じゃ、また!」


 声の勢いに任せ、ペレイラは姿を消した。


「なんで出てきちゃったの」


 クラウディオがエンジェルベルトに声をかける。


「なんだが体がむずむずして。私の話をしてるんだから、私も輪に入れてほしいなと」


 エンジェルベルトはまた子供のような発言をする。


「でも、実際に過激派をこの目で見て、私思いました」

「何を?」

「きっとあの人たちとは争わないですみます。私に任せてください。私がこの国を立ち去るとか、そんな苦渋の選択ではなくて、もっと良い方法で、ロンドーテをまた一つにしてみせます」


 エンジェルベルトは強気に胸を張り、周りの注目を集めさせた。


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