11.反乱
「なんで国民がお城に攻撃を!?」
エンジェルベルトは事態が飲み込めず唖然とする。世話役のリカと共に王室へ急ぐ。
バタン。王室の扉を開けると、クラウディオとブリトーが、柱に磔にされた従者を尋問していた。
「なぜ言いふらした!?」
クラウディオが鬼の形相で詰め寄る。その従者は、エンジェルベルト一行が助け出した、スタルケへと向かった使者だった。
「これはまずいことになったね。おわ! エンジェルベルトたん!」
エンジェルベルトに気付いたブリトーが、彼女に抱きつく。彼女はそれを軽くいなしながら、クラウディオに尋ねた。
「これはどういうことですか? 見知った人たちがロンドーテ城に大砲を。それにその使者は?」
「エンジェルベルト。巻き込んですまないね。この使者が、君のことを国民にバラしたんだよ」
「へ?」
エンジェルベルトは短い時間で事態の把握をすることができた。自分の存在がタロイズムの国民に知られる。それはロンドーテ王国が最も恐れていたことであり、それゆえエンジェルベルトの存在の公表は最新の注意を払い機を伺っていた。
何の下準備もしないまま情報が漏れれば、このように反乱が起きるのは必然だ。
「エンジェルベルトの存在がバレたのなら、迅速に経緯を説明するべきではないでしょうか」
リカがクラウディオに進言する。
「分かってるよ。今ハルテンちゃんに原稿を作ってもらってる」
コンコン。扉をノックする音が響く。
「原稿ができました」
王側近のハルテンが原稿を持ってきた。あまりの仕事の早さにクラウディオは一瞬固まる。
「ありがとう。さすがハルテンちゃん。じゃ、これは従者に読んでもらおう」
「え? クラウディオ王は読まないのですか?」
ハルテンがクラウディオに尋ねる。
「うん。ちょっとね、従者には申し訳ないんだけど……」
緊急招集令で、ロンドーテ城前大広場には多くの国民が押し寄せた。厳重な警備体制のもと、大広場から溢れ出た人々は、自宅へ帰し、拡声器からの音を聞くよう促した。ロンドーテ城から遠い地域には、発表の瞬間に号外が配られるよう手配された。
「王はまだか!」
「魔法使いをかくまっているのは本当か!」
「説明義務があるぞ!」
怒号が飛び交う中、クラウディオ王に似た従者は、目元を王冠で隠しその場にいる全員を見渡せる壇上に立った。
「おほん」
一つ咳払いをし、原稿を読み上げる。
「我が国ロンドーテが、魔法使いをかくまっているという噂が現在国中に流れている。そのことについて、報告をする」
「早くしろ!」
「もったいぶるなぁ!」
「おほん」
クラウディオに似た従者の手が震えている。何かを覚悟したように次の一声を発する。
「『格納の魔法使い』は、ロンドーテ王国保護下で生活している」
その瞬間、国民の怒号がピークに達した。偽の王は叫ぶ。
「だが!」
パシュンッ。
次の瞬間、おでこから血を吹き出し、後ろに倒れていく王冠を被った従者の姿が、エンジェルベルトの目に映った。とてもスローモーションに見える。
「きゃああああああ!!!」
パニックになる国民。部屋の奥で深くため息をつくクラウディオ。
「クラウディオ王、予想されていたんですか」
ハルテンはクラウディオの背中をさすった。
「うん。大砲が撃ち込まれた時点で、僕が人前に出ることはできないだろうなと思っていたよ」
クラウディオは肩を震わせる。
「ごめん。ごめんよ。僕が今死んだら、この国はめちゃくちゃになるんだ」
動かなくなった壇上の従者を見て、エンジェルベルトは自分にも非を感じていた。
過激派のタロイズムの反乱が起こってから三日目。王の死をきっかけに、過激派の行動はさらに強まり、二四時間常にロンドーテ城の周りを武装集団が囲むようになっていた。
城中に閉じ込められたエンジェルベルトたちは、作戦本部を立て、城から脱出する気を伺っていた。
「パパが生きていることを公にすれば、反乱も少しは収まるんじゃない?」
王女のパヤノがクラウディオに言う。この現状に全く納得がいっていないようで、早く城から出たがっている。
「広い城だと思っていたけど、閉じ込められると狭く感じるものね。エンジェルベルト」
「え、あ、そうね」
「パヤノさま、緊張感を持ってください」
手で顔を扇ぎ愚痴をこぼしたパヤノに、ハルテンが注意する。
「はーい。ごめんなさい」
「僕が生きていることを公にするとして、過激派は攻撃を強めるんじゃないだろうか。『あいつは影武者を用意してたんだ』って」
「事実じゃないですか」
エンジェルベルトが思わず突っ込む。
「……」
黙っちゃったよ。理論武装を準備していると予想したエンジェルベルトは、肩透かしを食らった。
キィィィィン。
その時、外から拡声器のハウリングが聞こえた。体が痒くなる気持ちの悪い音に、皆一斉に耳を塞ぐ。
「えーと、あ、あー。城の中のみなさん、聞こえますかー?」
誰かがこちらに呼びかけている。
「クラウディオ王……この声って」
「ああ、そうだね。ペレイラの奴、あいつは本当に馬鹿だ」
「ペレイラ?」
エンジェルベルトは初めて聞く名前だったが、彼女以外は知っているようで、訝しい顔をしている。
「お父さーん、ワシはこちら側につくことにしましたー」
ペレイラの響き渡る音は、クラウディオの眉間にしわを作らせた。
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