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【5】流されるままに……

ブクマ、評価ありがとうございます!

励みになります!




 髪の毛の水分を取ってもらうと、私は再びデュークの膝に乗せられた。年頃の女子としては動揺すべきかと思うけど特に恥じらいの感情は浮かんでこない。いずれも若くして死んだとはいえ、今までの人生全部足したら精神年齢はそこそこいってるしね。

 そういえば、布越しでも触れていれば私の『無効化』は問題なく発動するらしい。新たな発見だ。毛布でくるまれて塔から飛び降りた時には着地をするのにスキルを使っていたはずだから、一定以上の分厚さがあるとダメなんだろうけど。


 私を膝に乗せると威圧が消えたのか、テラーさんが近付いてきた。


「―――そういえば、私もデューク様とか坊ちゃまって呼んだ方がいいの?」

「別にいい」


 一応メイドという立場に納まったからと気を遣ってみたけど一秒で断られた。


「でも、いちいちフルネームで呼ぶのは長いし一介のメイドに呼び捨てされるのは体裁が悪いのではなくて?」

「……じゃあ外では適当な呼び方で呼んでくれ。プライベートな場では呼び捨てでいい」

「了解」


 どうやらデュークはきっちりと公私を分けられるタイプの貴族らしい。

 そして会話が一段落したところでテラーさんが口を開いた。


「お二人とも、そろそろ夕飯のご用意ができる頃ですがお召し上がりになりますか?」

「!」


 夕飯! 

 前回生きてた頃よりも食は進化してる筈だし、ここは(多分)貴族のお屋敷、ごはんはかなりおいしいはず!


「いただきます」


 即答すると、後ろの男が「さっきあれだけ菓子を食べたのにまだ食べるのか……」と呟いたので、余計な発言をした後ろの男を睨み付ける。


「何か?」

「いや、ただあまり太られると長時間膝に乗せるのがきつそうだと思っただけだ」

「貴方ってほんとうにデリカシーがないわね」


 今までは極力話さないようにしてたからなんとかなってたんだろう。ある面ではスキルに救われてたんじゃないだろうか。

 この男の前でお腹の音なんか鳴らそうものならどんな失礼発言をされるか分かったもんじゃないわね。





 暫くすると夕飯が部屋に運ばれてきた。

 部屋までごはんを運んできてもらえるなんてさすがお坊ちゃん。あ、私も幽閉部屋まで毎食運んでもらってたか。


 膝に乗ったままだと私はともかく、デュークが食事をできないから一旦別々の椅子に着く。テラーさんや食事を運んできてきてくれた人は退室し、部屋には私達二人だけになった。

 テラーさんが出ていく直前に、デュークが「今日は大分無理をしただろうからもう休め」と声を掛けていて、ちょっとだけ見直した。そしてテラーさんはまた感動に打ち震えて涙を流していた。

 きっと、あのテラーさんでさえあまりデュークの側には長時間いないのだろう。たかだか威圧と言えども、強力なものはそれだけで魔獣を倒せてしまうこともあるのだから。もちろん強い魔獣は無理だけど。

 デュークと触れていない時、私は私の所まで届いた『威圧』を無効化してるから平気だけど他人に向かった『威圧』を無効化することはできない。だからこの時間は退室するというのは正しい判断だと思う。

 でも、この人の威圧がどの程度のものかは分からないけど小さい頃からずっと一人で食事をしているのなら可哀想ね。  


 そんなことを考えながら皿の上に被せられた蓋を取ると、湯気と共に香ばしい匂いを放つステーキが姿を現した。


「ふゎぁ」


 ステーキが輝いて見えるわ。こんな分厚くて大きいステーキ初めて見た。固くないのかしら。

 試しにナイフを入れてみると、スルリと一口大の大きさに切れてしまった。それを口に運ぶ。


「!!!」


 おいしすぎる。

 食の価値観が一瞬にして変えられたわ。同じようなものばかり食べていたこの十五年間、私は何食分無駄にしてきたのかしら。もっと早く逃げ出していればおいしいものが沢山食べられたはずなのに……。

 幽閉されていたことをここまで悔やむとは思わなかったわ。


 ステーキを一口食べて固まる私を見るデュークのお皿には、私のよりも大きなお肉が載っていた。男性の方が胃袋が大きいから当然だけど、普通に羨ましすぎる。

 ジィっと自分の皿を見る私に気付いたのか、デュークもこちらを見てくる。


「……俺の分を少し分けるか?」

「!!」


 デューク様は神様でした。





 そして食事が終わり、寝支度を整える

 ……あれ? 私ってどこで寝ればいいんだろう。多分住み込みだと思うけど、部屋って案内されてないわよね? 

 テラーさんが忘れてたんだろうか。


 どこで寝よう……と思案していると、後ろからヒョイっと担がれ当たり前のようにデュークのベッドに連れ込まれた。

 後ろから私を抱き込むと、反論する隙もなく寝息を立て始める暴君。私は安心毛布かなにかかしら。

 思わず遠い目になった。


 ここから抜け出してどこか寝る場所を探すか迷う。


「……」


 うん、めんどくさいわね。ここでいいや。

 後ろに引っ付いてる大きな赤ちゃんはともかくベッドの寝心地は最高だし。流石お金持ちのベッドだ。



 ―――ただ、この男はやっぱりデリカシーがないわね。さっきこれを神様だと思った自分が恥ずかしいわ。










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