表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/33

【2】幽閉の次は誘拐された




 男の紫紺の瞳と目が合う。


「……」

「……」


 ヒュォォォォ


 寒い。吹雪がもろに当たって一瞬で凍えた。鼻の頭は既に赤くなってるだろう。

 男はなぜか窓枠に立ったまま微動だにしない。どうせそこに立ってるんだったらもうちょっと風遮ってくれないかしら……。


 ……あ、そっか、せっかく思い出したんだからスキル使えばいいんだ。

 私はスキルを使って自分の前に障壁を展開した。すると一瞬で冷気と風が遮断される。スキルって便利。これまでの十五年間知らなかったのが悔やまれる。

 自分に余裕ができたので再び男の方を見ると、なぜかクワッと目を見開いたまま固まっていた。なまじ顔が整っているから銅像のようだ。


「?」


 なにしてるんだろう。というか、ここかなり地上から離れてると思うんだけどどうやってここまで来たんだろう。

 そんな疑問を浮かべながらベッドに向かい、自分の体に毛布を巻き付ける。この少しの間で私の体は芯まで冷え切ったものね。

 ああ、あったかい……。

 ぬくぬくと布団に埋もれてベッドに横になっていると、男がすぐ側まで来ていた。なんだろう。あんまり近付かれるとベッドに血が付きそうで嫌なんだけど……。

 これ以上近付くなという意味を込めて布団の隙間から男を見上げる。


「……」

「……」


 男は何もしゃべらない。そろそろ一言くらい発してもよさそうなものだけど。まあ、殺気も感じないし私を殺しに来た暗殺者とかではなさそうだ。


 男は暫く私をガン見したかと思えば、ついに口を開いた。


「……お前、親は?」

「???」


 なぜ今その質問……。謎だ。

 まあ、ここは素直に答えてみよう。


「いないけど」


 記憶がある限り一度も会ったことないし。例え生きていても会うことがないならいないのと同じだろう。

 私がそう答えると、男は満足そうに一つ頷いた。

 そして―――


「!?」


 男は俄かに私の体を布団ごと担ぎ上げると、そのまま割れた窓の方まで歩いて行く。それはもう、迷いのない足取りで。

 この先の展開が読めた気がして、さすがに私も抗議の声を上げざるを得ない。


「ねぇ、ちょっと……」

「舌を噛むぞ」


 そう言った男は次の瞬間、窓枠を蹴って銀世界に飛び出した。


「ふわっ」


 心地の悪い浮遊感に包まれ、私と男は地面に向かって落ちていく。きっと男は上手く着地するんだろう。まあここで死んだらそれまでの人生だ。

 この状況で下手に暴れるのは得策じゃないと判断し、私は脱力して男に身を任せた。




 予想通り、男は何事もなかったかのように着地し、吹雪の中を歩き出した。男も私と同じように障壁を展開して冷気を遮っているようだ。

 今まで自分がいた塔を見上げる。

 吹雪の隙間から、自分がいた部屋の窓が小さく見えた。あんな高い所にいたんだ……。


 十五年間もあそこにいたのに、出る時は意外とあっさりしたものだ。特になんの感慨も浮かばないけど。思い出なんかないし。

 だらんと力を抜いて全体重を男に預ける。

 あの無味乾燥な日々よりは、この男について行った方が楽しそうだ。しょうがないから無抵抗で連れて行かれてあげよう。

 そう思ってだらんと脱力しきった私は、いつの間にか眠りについていた。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ