【18】似たもの主従……?
演習先への移動は順調に進んでいった。
そして一行は王都の近くにある魔獣の出る森に足を踏み入れる。
魔獣が出るとはいえ、王都近辺の森なのでそこまで強い魔獣は出ない。よほど油断をしなければ騎士一人でも通れる森だ。
森の中を進んでいる途中、騎士の一人がヘルメスに話かけた。
「ところで団長、夜の間ディアス卿の威圧はどうするんですか? 離れた場所にテント張るんですかね」
「ああ、そう言えばその辺は詳しく聞いてなかったな。デュークの奴が大丈夫だって言ってたからそこまで気にしてなかったが」
いざとなれば日帰りでも帰れる場所なのでそこまで問題ではないが、聞いておいた方がいいだろうと思い、ヘルメスはデュークを呼び寄せた。
「おいデューク、お前夜の間はどうするんだ? テントも一つしか持ってきてないみたいだし離れた場所で寝んのか?」
ヘルメスの言葉にデュークは首を傾げた。
「これと一緒に寝るに決まってるだろ」
これ、とはもちろんシンシアのことだ。だが、常識人であるヘルメスは自分の耳を疑い、デュークに聞き返した。
「ごめん、もう一度言ってくれるか?」
「シンシアと一緒に寝る」
「あ、聞き間違いじゃなかったのか」
聞き間違いであってほしかったとヘルメスは思った。
「嬢ちゃんと同じテントで寝るってことか?」
せめてそうであってくれと願いながら聞き返す。
「? いや、これと同じ布団で寝るが」
「「「!?」」」
さらっと言い放ったデュークの言葉に、聞き耳を立てていた周りの騎士達が一斉に振り返った。
「え? あ? なんでだ?」
口にした後、ヘルメスは我ながら要領を得ない質問だと思った。
「これとくっついていないと威圧が抑えられないんだから当然だろう。それに、これはあったかい」
「「「!?」」」
デューク以外の騎士は全員仰天した。当然、歩みも止まる。
(ディアス卿はなんでこんな平然としてるんだ? 俺達の方がおかしいのか?)
(こんなかわいい子と一緒に寝てるだと!?)
(ディアス卿は一体前世でどんな徳を積んだんだ……)
特に愕然としている独身騎士達にヘルメスは哀れみの目を向けた。そして次にシンシアを見遣る。
「嬢ちゃんは納得してんのか?」
「ん~、まあいいかなと思いまして。抵抗するのもめんどくさいですし」
「いやそこめんどくさがっちゃいけないとこだろ……」
「まあただ抱き枕にされるくらいですし」
そんなに嫌ではないのだから抵抗する意味はないだろう。
そう主張するシンシアに、ヘルメスは奇妙な生物を見つけた時の顔をした。
「……なんていうか、嬢ちゃんもズレてんだな。お前らお似合いだよ」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「……」
もうヘルメスは何も言わなかった。
そこで、大人しく待っていたブランシュがあくびをした。くぁ~と開かれた口の中には鋭い牙がびっしりと並んでいる。この口で噛まれてしまえばシンシアなどひとたまりもないだろう。
だが、シンシアは恐怖を感じるどころか、あくびをするブランシュをうっとりと見つめた。
「かわいい……」
恍惚と呟くシンシアを見てげんなりとするヘルメス。
「主従ってのは感性も似るのか……? まあ、そろそろ進行を再開するぞ。燃え尽きてるそこの奴らも誰か起こしてやれ」
そこのやつら、とは、デュークのことが羨ましすぎて真っ白になった騎士達のことだ。
その騎士達をデュークは不思議そうに見下ろす。
「こいつらはなぜこんなにダメージを受けてるんだ。気配は何も感じなかったが。新手の魔獣か……?」
「そうだな、リア獣って名前の魔獣にやられたんだろうな」
ヘルメスは適当に返事をしておいた。
「てかやっぱり、お前が話すと混乱が生まれるからもうちょっと口数少なく頼む。もちろん必要事項はその限りじゃないが」
「分かった」
連携をスムーズにするために、今回の演習ではなるべく話すようにデュークはヘルメスから頼まれていたのだ。だが、デュークが話すと騎士達が動揺して使い物にならないので、ヘルメスは仕方なく元に戻すようにデュークに頼んだ。
ころころと指令が変わるが、デュークは文句も言わずそれに従う。
そして、ヘルメスはボーっとしているシンシアに気付いた。
「どうした嬢ちゃん」
「リア獣……初めて聞くわ。どんな獣なのかしら。毛皮はあるのかな……」
幽閉されていたシンシアはリア充などという近代の言葉はしらなかった。
未知の生物に目を輝かせるシンシアからヘルメスはそっと目を逸らす。
(ちょっとした冗談だったんだが……なんか、純粋な心を弄んだ気分だ……)
なぜか少しだけ心を痛める羽目になったヘルメスだった。
ちなみに、もちろん俗語とは縁のないデュークもリア充という言葉は知らなかった。だが、デュークは魔獣に関する知識は片っ端から頭に入れているため、かろうじてヘルメスの冗談だと気付くことができた。
「……俺ぁ幸先が不安になってきたぞ」
ヘルメスがボソリと零す。
すると、その原因の主従は目を見合わせた。そしてシンシアはコクリと頷く。
「デュークは、きっと自分が原因だと謝られております」
「違う」
むしろこの変わった少女が原因だとデュークは思っていた。明らかな誤訳だ。
じゃれ合う二人をヘルメスは死んだ目で眺める。
「主従って似んのかねぇ……」
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