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【16】かわいいのを拾った sideデューク





 休日、いつものように遠出すると奇妙な塔を見つけた。

 とりあえず登ってみることにする。


 さっき遭遇した魔獣の返り血で体は血塗れだが、どうせこんな年中猛吹雪が吹き荒れる極寒の地にある塔に人間などいないだろう。

 かわいい魔獣なら頑張ってペットにするが、凶暴な上にかわいくない魔獣など興味はない。


 どんな目的でこんな場所に塔が建てられたのか、純粋に気になった。

 入口らしき所はあったが、そこから入ったのではなんとなく風情がない。とりあえず遥か上に窓が見えたので、そこまで外壁を登ってみようと思うのは至極当然のことだろう。


 地道に登り進め、漸く窓がある所までやってきた。そして躊躇なく窓を割る。どうせ人なんかいないんだからいいだろ。

 そう思って塔の中に侵入したら、まさかの人がいた。

 いや、もしかしたら人ではないかもしれない。だって人間だと称するにはあまりにもかわいすぎる。

 こんなに整った人間がいるはずない。妖精とかの類いだろう。

 あんまりにもかわいいからついついじっくり見つめてしまった。俺が窓を割って入ったせいか、かわいいのが寒そうに身を縮こませている。

 すぐに死んでしまいそうだ。

 ……ん? 寒そうにしてるだけだな。

 もう一度かわいいのを観察する。寒そうに毛布にくるまってはいるが、俺の威圧に怯えたり苦しそうにはしていない。

 ……もしかして、威圧に耐性があるのか? 戦闘経験があるようには見えないから、そういうスキルを持っているのかもしれない。


 ところで、なぜこれはこんな所にいるのだろう。

 珍しい生き物だから閉じ込められているのか? なんにしてもきな臭いな。


「……お前、親は?」

「???」


 かわいいのが首を傾げる。親が何かを知らないのか?

 そう思ったら、かわいいのが口を開いた。


「いないけど」


 かわいいのは声までかわいかった。

 どうやら親が何かはちゃんと知っていたようだ。だが、親がいないということはやはり自然発生の何かなのだろうか。


 まあ、親がいないのだったら持って帰ってもいいだろう。こんな場所に閉じ込められていたら可哀想だし。


 ああでも、こいつの寝床はどうしよう。人型だし、他のペットと同じく飼育小屋に住ませるのでは環境が悪そうだ。

 見た感じ人間と同じような生活環境のようだし、屋敷の中の部屋を一つ用意するか。


 さて、そろそろ帰るか。

 かわいいのを持ち上げる。


「ねぇ、ちょっと……」

「舌を噛むぞ」


 かわいいのを担いだまま窓枠を蹴り、銀世界へと飛び出す。

 肩のあたりから「ふわっ」と、小さな声が聞こえた。これがこのかわいいのの鳴き声だろうか。


 スキルを駆使して雪の上に着地する。あ、冷気も遮ってやらないとな。自分達の周りに障壁を展開する。

 数歩歩くと、かわいいのがダランと脱力した。

 ……俺が言うのもなんだが、警戒心がなさすぎないか? 初対面の男に担がれて一度も抵抗しないんだが。てか既に寝てないか?

 すぅすぅと小さな寝息が聞こえてくる。

 ……警戒心が欠如してるな。案外塔に閉じ込められていて正解だったのかもしれない。一人で街なんか歩かせたらあっという間に攫われそうだ。






 屋敷に帰ってかわいいのをベッドに寝かそうと一旦毛布を取ると、驚くべきことが起きた。

 フッとマナが減る感覚が消え、『威圧』が発動しなくなったのだ。それは、生まれて初めての感覚だった。全く疲れないというか、倦怠感がないというか。俺はそこで初めて、スキルを常時発動することで、俺にも常に疲労感が伴っていたのだと気付いた。

 全くスキルを発動していない状態というのはこんなにも快適なものなのか。

 俺はある種の感動を覚えた。こんな感覚、一度知ったらもう元には戻れない。

 どうしたらこれを常に側に置けるだろうか。……専属メイドにするか? ……うん、それがいいかもしれない。



 そして、目覚めたかわいいのはテラーが持ってきた茶菓子をがっつくように食べていた。今までよほど粗末なものしか食べていなかったのだろう。可哀想に。

 これからはたくさん美味しいものを食べさせてやろう。

 そして、このかわいいのはこれまで粗末なものしか食べていなかっただけあって、甘味でつれば簡単に俺の専属メイドになることを承諾した。

 それは喜ばしいことなんだが、さらにこのかわいいのが心配になった。こんな簡単に契約を承諾するなんて、すぐに詐欺に遭いそうだ。

 俺が見張ってやらなければ。

 ただ、この家にいれば美味しいものが食べられるということは既に分かっているらしい。それくらいの知能はあるようだ。




 かわいいの―――シンシアは、俺がべったりとくっついても特に抵抗しなかった。普通は男女問わず、初対面の人間にべったりとくっつかれたら嫌がると思うんだが。ただ、俺もあまり他人との接触が多い方じゃないから案外普通のことかもしれないが。


 シンシアは条件付きでスキルを無効化するスキルを持っていた。かなりレアで価値の高いスキルだ。もしかしたら、このスキルゆえにシンシアはあんな場所に閉じ込められていたのかもしれない。

 他にどんなスキルを持っているのかはかなり重要な情報ゆえに、自分から聞くことはしない。ただ、あそこから自力で逃げようとしなかったことや、俺に対した抵抗もしなかったことから、他に大したスキルは持っていないのではないかと思う。

 無効化のスキルだけでもこれの価値ははかり知れないが。


 ただ、シンシアの『無効化』も常時発動型のスキルらしい。俺はシンシアのおかげで安寧を得たが、シンシアはそうではない。だからできる限り、シンシアには快適な空間で過ごさせてやろうと思った。

 これの世話もその一環だ。


 このかわいいのは朝が弱いらしく、驚くほど寝起きが悪い。朝が弱いというか、もはや起きるのは昼だ。

 シンシアが起きなくても俺は仕事に行かないといけない。寝たまま連れて行くとしても、さすがに出歩くのならば身支度は必要だろう。

 だから寝ているシンシアの身支度を整えてやるのだが、これが意外にも楽しかった。人形遊びの楽しさってこんな感じなのだろうか。それとも、手のかかるペットの世話をする感覚なんだろうか。

 そういえば、俺のペット達は元野生なだけあって手がかからないからな。手のかかるペットは初めてだ。



 ぐーすこと寝ているシンシアの髪を櫛で梳かす。


 うん、今日もいい毛並みだ。









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