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【13】思ってたのと違う……




 帰宅すると、デュークは早速ペット用の小屋にシンシアを連れて行ってくれた。

 小屋と聞いていたシンシアはその建物を見た瞬間ポカンと口を開く羽目になる。


「……小屋?」

「小屋だ」

「……」


 明らかに()屋ではなかった。

 公爵家の小屋は庶民の一軒家よりも大きかった。一軒家どころか、庶民の家が数軒は入ってしまいそうな、ちょっとした屋敷だ。

 それだけ中にいる動物が大きいのか、数が多いのか、はたまた一匹当たりの面積が広いのか。だが、シンシアに言えるのはただ一つ―――


 公爵家、半端ないわね……。


 改めて自分の主の財力を見せつけられた瞬間だった。

 ペット小屋なのに木材剥き出しではなくしっかりと塗装されていて、なんなら柱にはオシャレな模様が入っちゃってたりなんかする。


「羨ましい。私も公爵家のペットに生まれたかった」

「? 今は似たようなものだろう」

「……そうね」


 確かに似たような立場だった。

 主人に抱っこされ、好きなだけ寝て、おいしいエサをもらい……うん、恵まれた環境だ。ペット万歳。

 デュークが求めるのならシンシアは「にゃ~ん」と鳴くこともやぶさかではない。……求められることはないだろうが。


 そして、二人は小屋に足を踏み入れた。


 中にいた動物達を見たシンシアは珍しく開いた口が塞がらなかった。

 ポカンと口を開けたままのシンシアが面白かったのか、デュークが口に指を入れてこようとしたので急いで口を閉じる。

 それはあくびをした猫にやるやつだ。


 デュークは若干残念そうな空気を漂わせたが、大人しく指を引っ込めた。


「……あなた、動物って言って誰が魔獣を想像すると思うのよ……」

「? 魔獣も動物だろ?」


 シンシアの言葉にデュークは首を傾げた。心底そう思っているようだ。


 魔獣とは、体内にマナを持っていてスキルを使える獣を指す。普通の獣よりは強力で凶暴なものも多いので騎士団などの討伐対象になることが多い。また、マナを持たない動物よりも飼いならすのは難しい。

 ゆえに、普通の考えしていたら魔獣をペットにしようなどとは思わないはずなのだ。……普通の考えをしていたのならば。


 ―――みんなが微妙な顔をしていたのはこういうことだったのね……。


 デュークのペットを見に行くと伝えたら団長さんやテラーさんが微妙な顔をしていたけど、ようやくその理由が分かったわ。


「触るか?」

「触っても平気なの?」


 ふわふわした魔獣もいるから正直大分心惹かれるんだけど。


「ああ、ちゃんと躾けてるから触っても急に噛み付いたりはしてこない―――」


 デュークが言い終わるや否や、私は動いた。


「ギャウ!?」


 近くにいたホワイトタイガーの魔獣の腹毛に頭から突っ込む。魔獣だけあって普通のホワイトタイガーよりも大きいから、丸まればフワフワのお腹の下に納まれちゃう。

 ああ……極楽……。


 ホワイトタイガーは急に触られてビックリはしていたけど、両手で腹毛を触っても怒ったりはしなかった。

 ……ん? 両手で……?


「あ」


 デュークから完全に離れてしまっていた。

 シンシアは慌てて戻り、デュークの腕を掴む。


「―――って、あれ? 動物達の様子は普通ね?」


 小屋の中に複数いる魔獣は、誰もデュークの威圧にやられた様子はない。のんきにあくびを漏らしているものすらもいるくらいだ。


「ああ、俺の威圧に耐えられるやつしかペットにはしてないからな」

「……それって、結構高ランクの魔獣なんじゃ……。どうやって懐かせたの?」


 そう尋ねると、デュークはスッと胸の前で拳を握った。

 ……ああ、拳で語り合ったのね。


 デュークの威圧をものともしない個体だ。もしかしたら討伐対象になっていた子を連れて帰ってきたのかもしれない。高ランク魔獣は自分よりも強いと認めたものに従う傾向にあるというし。

 ただし、それは単体での話だ。集団で魔獣を倒しても魔獣は従わないし、そもそも高ランクの魔獣は殺す気でかからないと自分達の命が危ない。つまり、大分実力差がないと狙って生け捕りにすることは不可能なのだ。


 自分の主は、思っていたよりもはるかに強いのかもしれないと、シンシアは思い直した。


「ギュゥ?」


 シンシアがデュークの元に戻ると、ホワイトタイガーが首を傾げながら寄ってきた。デュークから威圧を感じないのを不思議に思ったのだろう。

 そんなホワイトタイガーの頭をデュークが撫でた。毛がふわふわなので、デュークの手がモフッと毛の中に埋もれる。

 それを見てシンシアを瞳を輝かせた。


「ふわふわ」


 自分も手を伸ばし、ホワイトタイガーの頭を撫でる。だが、これまでデュークに撫でられて喉を鳴らしていたホワイトタイガーは、シンシアに触られた瞬間、ん? と首を傾げ、喉を鳴らすのを止めた。


 そのことにシンシアは若干のショックを受ける。

 だが、次の瞬間、ホワイトタイガーは前脚でシンシアを優しく引き倒し、自分の腹の下に仕舞った。


「?」


 一瞬の出来事に、シンシアは全く抵抗できなかった。気付けば腹毛の中だ。

 そして、ホワイトタイガーは腹の下に仕舞ったシンシアの頭をガジガジと齧り始めた。もちろん甘噛みだが。


「かじられたわ」

「……おかしいな」


 この場にヘルメスがいたのなら「おかしいな、じゃなくてさっさと助けろよ!!」とツッコミを入れたことだろう。だが生憎、今は二人しかいない。


 甘噛みなので痛くはないが、ホワイトタイガーの涎で白銀の髪がベトベトになっていく。だが涎が付いても風呂に入ればいいだけなので、シンシアは全く気にしていなかった。

 ホワイトタイガーはついにゴロンと横になると、爪を引っ込めた両手でシンシアを抱え込んだ。ペロペロとシンシアの頬を撫でると、再び喉をゴロゴロと鳴らし出す。


「……か、かわいい……」


 猫のようなホワイトタイガーに、シンシアはもうメロメロだ。


「―――ああ、なるほど」


 一人と一匹の様子を冷静に観察していてデュークが、得心がいったように一人頷いた。


「何がなるほどなの?」

「ブランシュの様子がいつもと違うのはどうしてかと思ってな。やっと理由が分かった」

「理由?」

「ああ、ブランシュはお前の事を人形だと思っているようだ」

「……へ?」


 思いもよらぬ言葉にシンシアはポカンとした。


「ブランシュは人形が好きだからな。この対応も納得だ」


 うんうん、と一人満足げなデューク。


「……」


 魔獣に人形と間違えられるなんて、と、シンシアは微妙な気持ちになったが、それでもブランシュに好かれたのは嬉しいのでどちらかと言えば上機嫌だった。




***




 本当は他の子にも触りたかったのだが、ブランシュを触っているうちに時間が過ぎてしまったので今日の所は帰ることになった。

 大満足のシンシアは、必ずまた来よう、と心に決める。

 スッキリとした表情で小屋を出たシンシアは、ブランシュに揉みくちゃにされて全身ボロボロになっていた。普段は絹のようにサラサラの白銀の髪もボサボサで、洋服もシワだらけで所々汚れてしまっている。


「……」


 あまりにもボロボロなシンシアの姿に、流石に止めればよかったかとデュークは珍しく反省していた。

 とりあえず早く風呂に入れようと、興奮冷めやらぬシンシアを抱き上げる。


 早足で屋敷に戻るデュークの腕をシンシアがポンポンと叩く。


「ねぇ、またあそこ行きたい。次はいつ来れる?」

「いつでも来れる」

「それもそうね、敷地内だものね」


 公爵家だけあってかなり広大な敷地だが。




 屋敷に戻ると、テラーがシンシアの格好を見て仰天した。


「―――し、シンシア様!? 何があってんですか? そんなにボロボロになって……!!」

「ブランシュと戯れてきただけです」

「テラー、風呂を入れてくれ」

「あ、そうですわね! すぐに準備いたします!!」


 そう言うと、テラーは風呂の準備をしに走っていった。







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