【11】騎士団の眠り姫
今日もデュークは眠っているシンシアを腕に抱いて出勤してくる。ここ最近は毎回このスタイルだが、野次馬の数は減らない。
野次馬の騎士達は隠れているつもりなのだろうが、なにぶん人数が多すぎて隠れる場所が足りていない。つまりはただの出迎え状態だ。
デュークの出勤時、シンシアは基本寝ているので自分達の出勤姿を騎士達が見に来ていることなど全く知らない。騎士団内で時々視線を感じることはあるが、ただ騎士団内では女子が物珍しいから見られていると思っている。
デュークに至っては見られていることには気付いても全く気にしていない。
騎士達が二人を見に来る理由は単純に物珍しさと目の保養だ。意外とミーハーが多いのだ。
また、帰宅する際にも二人を見に来る騎士はしばしばいる。理由は、シンシアが起きている姿を高確率で見られるからだ。
訓練が午前中にある場合、ほぼほぼシンシアは寝ている。午後の訓練の場合は起きていることが多いが、自分達も真面目に訓練をこなさなければならないため二人を眺める暇はない。座り仕事の場合は相変わらずデューク専用の部屋でしている。つまり二人の姿を観賞するには出勤時、帰宅時を狙うのが最善なのだ。
シンシア単体でも十分に目の保養になるのだが、デュークと共にいるとその破壊力は倍増する。要するに、絵になるのだ。
シンシアがデュークの出勤に同伴するようになってから二週間が経つ頃には二人のファンクラブのようなものまでできていた。今二人が出勤してくるのを待っているのもファンクラブのメンバーが大半だ。
「あ! 来たぞ!!」
一人が小さく声を上げる。
「「「ディアス卿! おはようございます!」」」
「ああ」
さらりと挨拶を返すと、デュークはスタスタと自分の執務室に歩いて行ってしまう。もちろんまだ午前中なのでシンシアは起きていないし、騎士達が通る声で挨拶をしても起きることはない。
デュークの後ろ姿が見えなくなると、集まっていた騎士達は各々解散していく。
「―――はぁ、今日もシンシアちゃんかわいかったな~」
「あれで本当に人形じゃないのがビックリだよな」
「俺、最初は本気でディアス卿が人形連れて来たんだと思ってた」
「最初は?」
「いや、今も若干疑ってるな。だってシンシアちゃん全然起きないし」
このようにそこかしこで何人かの仲のいい騎士同士での会話が盛り上がっているため、騎士団の入り口は俄かに騒がしくなる。
「あ~、ディアス卿うらやまし~」
「それな」
「でもシンシアちゃんの主がディアス卿だから許せるよな。あんだけ顔が整ってて武功も残してる完璧人間だからな。リアム殿も当てはまるけど、あっちは性格があれだし」
「お前本人に聞かれたらまたしばかれるぞ」
リアムとは、騎士団の有名人の一人だ。デュークより年は一つ上で、こちらもかなり剣の腕が立つ。
「でも確かにディアス卿以外の人があんな美人さんに常時べったりしてたら嫉妬が収まらねぇだろうな。あと美形じゃねぇと単純に見ててキツイ」
「「だなぁ」」
ちょうど騎士達が解散していく場面に遭遇したヘルメスは微妙な顔をするしかなかった。
―――とりあえず反感は買ってねぇようだな。しっかし、あの二人のコンビがこんなに人気になるとは予想外だ。騎士団内にあまりにも娯楽がねぇのも考えもんだな。
ついこの間、騎士団内にファンクラブができていると副団長から聞いた。その時、ヘルメスは自分の耳を疑ったものだ。
しかもファンクラブ結成にあたって提出された書類のタイトルには「ディアス卿と『眠り姫』を愛でる会」との記載。
「眠り姫」ってなんだ。しかも、騎士団内にファンクラブってどういうことだよ。
「眠り姫」の由来はまだ分かる。シンシアがいつも寝ているからだろう。しかし、そんなファンシーな名前の書かれた書類が騎士団の野郎共から上がってきたことにヘルメスは頭を抱えた。
人気の騎士には貴族の令嬢や庶民などから成るファンクラブが出来るものだが、騎士が誰かを応援するためにファンクラブを作るのはヘルメスが知る限り初めてのことだ。どんな美人のご令嬢にも騎士団内でファンクラブができたことはない。
まあ、貴族の令嬢の誰よりもシンシアの方が容姿は優れているのだが。
めんどくさいことになりそうだからファンクラブの存在は対外的には隠しておこう―――。
とりあえず、ヘルメスは何も問題が起こらないことを祈るばかりだった。
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