【1】気付けば幽閉されていた
シンシア、十五歳。ベッドから落ちて頭を打ったら前世の記憶を思い出した。
「……いたい……」
ぶつけた頭をさする。前世の記憶を思い出すくらい痛かったけど、どうやらコブはできていないようだ。そして、前世の記憶を思い出すと同時に自分が今置かれている状況を全て正確に把握した。
まあ、正確には前世の記憶というのは正しくないけれど。私はこれまで三回の人生を繰り返しているのだから。そして、今世は四周目だ。
これまでの三回は非業の死を遂げ、もしまた生まれ変わるなら次こそ幸せになるぞと心に決め、前世の私は息絶えた。
―――そのはずなんだけど。
「……」
私は改めて周りを見渡した。
広さはあれど、最低限のものしかない部屋。外から固く施錠された扉。そしてなにより―――。
窓に歩み寄り、硝子越しに外を見た。外は一面の白銀の世界で、ビュウビュウと吹雪が荒れ狂っている。しかも、土地柄的に年中だ。おかげで下を向いても地面が見えない。それは、ここが雪山の中に建てられた塔の最上階だからというのもあると思うけど。
まあ全て見慣れた景色だ。なにせ、今世の私はこの場所しか知らないのだから。
―――そう、私は幽閉されている。
今自分が置かれている状況を再確認した私は床に座り込み、窓枠に肘をついて外を眺めた。
「……もしかして、今世ももう詰み?」
ヒュォォォォ
私の呟きに答えるのは吹雪の音だけだった。
「……いえ、今世はまだ死んでないんだから、諦めるのは早いわね」
三回も死んでると諦めが早くていけない。ちゃんと毎日三食でるのだし、外への交通手段はある筈だ。前世三回分の能力を使えばここから脱出するのはそう難しいことではないはず。
じゃあ、なぜ今まで外に出ようとしなかったのかといえば、単純に外の世界を知らなかったからだ。
今世ではなぜか今までの三回分の人生の能力を引き継いでいた。かなり無敵な状態だが、今世の私は生まれた瞬間からこの場所に幽閉された。なので、今まではこの塔以外にも人が住んでいることも知らなかったのだ。なんなら、教えてくれる人がいなかったからろくに言葉も話せなかったし。幸い、前世までと同じ世界に転生したようで、今は問題なく言葉を話せるし、理解できる。
前世たちの記憶に感謝ね。まあ、力はいらなかったけど。
この世界の人間はスキルという特殊な力が使える。
スキルは生活に役立つものから戦闘に役立つものまで様々だ。
使えるスキルの種類や数は各々のポテンシャルに依存している。そして、私はこれまでのどの人生をとってもかなりポテンシャルが高い方だった。
どの生を取ってみても神童だなんだと言われた私だ。生まれつき、その三回分の能力を全て持っていたらまぁ、危険視されるのも無理はない。
今までは記憶が引き継がれることも、能力が引き継がれることもなかったんだけどな……まあ、この不思議現象に法則性を求める方が無理な話かしら。
そこまで考えた所で、邪魔な髪をかきあげる。だけど白銀の髪はサラリと、すぐに元の位置に戻ってしまった。
「……髪も切りたい……」
十五年間、一度も切られることのなかった髪は地べたに座っている今、余裕で床について散らばっている。幸い痛んではいないけどここまで長いと邪魔で仕方がない。
「自分で上手く切れるかしら……」
この部屋に刃物は置かれていないからスキルで切らないといけない。
街に行った時、ものすごく髪の毛が長いのと髪の毛がガタガタなの、どっちが不自然だろうか……。
「う~ん……よし、」
自分で上手く切れることを信じて髪を切ろうとしたその瞬間―――。
バリィィィィィンッ!!!
私がいるのとは反対側の窓が勢いよく割れた。
「!?」
今世で使うのは初めてだからスキルの威力を間違えた? いえ、まだスキルは発動していないはず……。
「うっ、さむい」
窓が割れた瞬間、冷たい空気が一気に室内に入り込んできた。さむい。
そして、割れた窓から入ってきたのは寒気だけではなかった。
「ええ……」
想定外にも程がある状況に、私はただ声を漏らすことしかできなかった。
だって、誰も予想しないだろう。
―――幽閉されている自分の部屋の窓から、血まみれの男性が入ってくる状況なんて。