9話
倉庫の穴を通り、元の世界に帰ってきた。無事に帰ってこれたのは良かったけど、先ほどからエムが静かで、それが気になっていた。
「どうした? やけに静かだけど」
「………………」
「大丈夫?」
「……………………」
しばらく歩いていると、エムが僕を見つめながら、
「もう、アイツとは関わらない方が良いよ。凄く嫌な予感がする」
「でも取引したから………」
「どこまでお人好しなんだよっ!! 嘘に決まってるじゃん。なんで分からないんだよ。アンタを利用するだけ利用して、最後は躊躇わず殺すよ。絶対」
目に涙をいっぱいため、心配してくれる。
「ありがとう。でも……あの男を信じるよ。今は、その賭けに乗るしかない。それにさ、そう簡単には殺られないよ。僕、強いし」
「………………………勝手にしろ」
エムはそれ以上何も言わず、反対方向に歩いていく。呼び止めたい気持ちはあった。でも僕は、振り返らず前に進む。
いつかあの男に挑戦する時の為にも。今のままでは無理。だから僕は、古巣に戻る覚悟を決めた。
ライブハウス【覇者】
閉店後、深夜二時五分。その時間だけ、勝手に入口が開く。外よりも暗い店内に入った。
フロントのような場所に背の低い中年男が、巨乳の女に抱っこされていた。
「ほぅ……。今日は、珍しい客が来たもんだ。今更、何しに来た? ここは、お前のような堅気がくるような場所じゃないよ。帰んな! 帰んな!」
「もう一度、登録したい。預けた金と武器を引き出したい」
「冗談キッツ~~~」
ゴキッ!
男を抱っこしていた女の首をへし折った。
「早くして。僕には、時間がないんだ」
中年男は、死んだ女の腹の上で波乗りをするように手足を動かし、しばらく遊んでいた。
「………分かった。再登録しよう。ランキングは、前と同じ一位で良いよな。あのさ、ところでどうして俺の女を殺すんだよ。オッパイ返せよな~~、このバカちんが」
「その人が、机の下からベレッタで僕の股間を狙っていたから。だから、殺られる前に殺った。まぁ……どうせ、あんたの命令だろうけど」
「ヒャヒャヒャヒャッ!!!! さっすが。なるほどね~。 二年ぶりに俺達のキングが、帰ってきたわけだ。あ~~~はぁ~~~楽しみ楽しみぃ。帰ってきたのか……。あんたが消えてから、つまらない毎日で死にそうだったぜぇ。今夜は、最高の夜だァーーーーーーーーーーーーーーー!! ヒィャヒャヒャヒャ」
気持ちの悪い笑い声を背にしながら、僕はこの瞬間『殺し屋』に戻った。