7話
悪夢を見たーーー。
化け物に変異した僕は、人間の内臓をうまそうに食していた。引き裂いた口には、ベットリと血糊がついていて、赤黒く汚れている。
僕は、その『もう一人の自分』をただ黙ってそばで見ていた。見ていることしか出来なかった。
僕の前に食い散らかした肉片が、飛んでくる。
ピチャッ………。
ピチャッ……。
腐ったピザに見えた。
どうしたら、夢から覚める?
『 夢? バカか、お前。これは、現実だよ 』
振り向いた僕は。
泣きながら、笑っていたんだ。
……………。
こわ…い………。
こわいよ……。
いつか、きっと………。
【 僕は、この手で大切な人を殺すだろう 】
「大丈夫?」
目を開けるとエムが、僕の頭を撫でていた。
「怖い夢見たの?」
「うん。しばらく側にいて。お願いだから……」
「私は、ずっといるよ。だから、安心していいよ」
「…………いつか、エムを襲うかもしれない。恐くて仕方ないよ。こんな不安定な状態の僕といるのは危険だと思う。だから」
ビシィッ!
頭をチョップされた。結構強め。
「バカなこと言ってると一生眠らせるよ?」
「……ごめ…ん」
エムは、もぞもぞと僕の布団の中に入ってくる。首筋からは、甘いシャンプーの香りがした。
ドクンッと心臓が、大きく跳ねる。
「一人で寝るから怖い夢を見るんだよ。だから、ね? 私と一緒に寝よ」
布団の中でエムが、僕の手を両手で握っている。
「……あったかい」
赤ん坊のようにエムの胸に顔を埋めた。それだけで全身を包まれているように安心出来た。
「かなめちゃんは、甘えん坊さんね~。ママに甘えてぇ」
「………………」
「可愛い~。クンクンしてる」
「………………ぅ…」
「あ~ぁ、寝ちゃった。ちょっと残念。まぁ、いいや。良い子でねんねしててね」
エムが、静かに部屋を出ていく。僕は、その後ろ姿を夢と現実の間で見ていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
朝御飯を食べたあと、僕は猫耳娘に謎の男とサラの似顔絵を描いて見せた。
「無駄に絵が上手い………。ってか、えっ!? あなた、この方を知らないの? 王様の側近中の側近、ハウス様じゃん。執事長で、しかもこの国の軍の指揮官でもある。とにかく、あなたとは比較にならないほど凄い人。月とカビだよ」
「軍の指揮官……。ふ~ん。だから、あんなに強いのか。まぁ、他にも秘密はありそうだけど。あのさ、隣に描いた女の人は知らない?」
「知らなーい」
「そっ…か……。これからも色々と教えてもらって良い? 情報の報酬は払うからさ」
「まぁ、気が乗ったらねぇ」
僕とエムは猫耳娘と別れて、城を目指すことにした。城に侵入は不可能でも、近づけばある程度の情報収集は出来るだろう。
ズドンッッ!!
「!?」
大地が揺れた。地震か?
僕とエムは、反射的に建物の陰に身を潜めた。突然、空から人が降ってきた。
見上げると、漆黒のドラゴンが優雅に空を旋回していた。
雲より高いあそこから、飛び降りたのか?
「隠れてないで出てこい。早くしろ! 時間が惜しい」
僕は、謎の男の前に姿を現した。
左手に爪を食い込ませ、無理やり自分を落ち着かせ。
「やっぱり、生きてたか。ハハハ、その眼帯なかなか似合ってるぞ」
「サラは、どこ?」
「まさか、その体で奪いに来たのか? 無謀だろう、それは。相手の力量が分からないほど甘い生き方はしてないはず」
「サラは、どこ?」
隣のレンガの塀をハンマーのように振り回した左手で殴った。ガラガラッと塀が崩落する。
「ハハ。まぁ、まぁ、落ち着け。今は、お前と殺る気はない。こんな場所まで来たのは、お前に良い取引の話を持ってきたからだ。見事達成出来れば、無傷で女は返してやる」
「………取引?」
「一回しか言わないから、良く聞けよ」
その時。無防備な男の背後からエムが攻撃を仕掛け……………られなかった。
「やめとけ。今、俺はコイツと話しているんだ。部外者は、引っ込んでろ」
「エム。今は、耐えて」
「…………分かった」
意外にも素直に従い、その場から姿を消した。謎の男は、再び静かに話し始めた。
相変わらず、あの不思議な蜜の香りを放ちながらーー