6話
店長らしきオヤジに飲食代金分を働くように言われた僕達は、閉店後に店内の掃除をしていた。
「あのさぁ、そこまだ汚れてるんですけどぉ。適当にやらないでくださぁい」
ベチィ!!
さっきまで愛想の良かった猫耳娘が、今は女王様のように『僕にだけ』あたりが強い。細い鞭でことあるごとに尻を叩かれた。
「痛っ……。はい。分かりました。ってか、エムはどこですか? さっきから姿が見えないけど……」
「今、姉さんはまかないを食べてるよ。人の心配は良いから、お前はまず手を動かせ」
姉さん?
「は…ぃ……」
この世界は、女尊男卑なのか? よく分からないけど。
一時間後。
ようやく掃除が終わり報告に行くと、エムと猫耳娘は仲良く談笑していた。
「掃除終わりました。エム……。そろそろ帰ろう」
「うん。分かったぁ」
「えぇ!? 姉さん、もう行っちゃうんですかぁ?
もう少しゆっくりしていけば良いのに」
エムにくっつく猫耳娘。本当の猫のように喉奥からゴロゴロ甘えた声を出していた。
「ん?」
なんだ……。
やけに外が騒がしい。様子を見に行くと店の扉をどんどん叩きながら、わめき散らしている近所迷惑な男が二人いた。
柄の悪そうな連中だった。どこの世界にも似たような奴はいるらしい。
走ってきた猫耳娘は、陰から眺めていた僕を突き飛ばし、彼らに頭を下げて必死に何かを謝っていた。
話している内容から察すると、どうやら彼らは金貸しで集金に来たみたいだ。金がないことが分かると、古臭いやり方なんだけど。猫耳娘を連れていこうとしている。………時代劇じゃあるまいし。
別にそこまで恩があるわけじゃない。放っておこうと思った。それに下手に目立ちたくもないし。
「どぅりゃあぁあ!!!」
走ってきたエムが、男の一人に飛び蹴りを派手にくらわす。小さなエムだが、力比べなら大の大人三人分はある。
エムに投げ捨てられ、ぼろぼろになった男達は、慌てて逃げていく。
「………あまり目立つなよ。ここは、僕達の住む世界とは違うんだから」
「はいはい。分かりましたよ。でも、殺さないだけマシじゃん」
猫耳娘と別れた僕達は、今夜泊まる宿を探すことにした。
「なら、私の家に来ませんか? 狭いですけど姉さん一人なら何とかなりますし」
いや、僕は?
「いいの? 助かるよ。ありがとう、ネコちゃん」
僕達は、猫耳娘の家に泊まることにした。ちゃんと僕が寝る場所も用意してくれた。トイレ横の床に。かなり薄い布団も貸してくれた。
日付が変わる頃ーーーー。
僕とエムは、猫耳娘を起こさないように静かに部屋を抜け出した。
「考えることは一緒か……」
「要のそういうところ好きぃ!」
「し、静かに。起きちゃうよ」
子悪党のアジトへGO!!
灰色の建物に侵入し、腐った魚を一匹ずつ処理する。確実に。
「またお前らかっ!!! いったい、何しに来たっ!! こんなことしてただで済むと」
うるさいな、コイツ………。背中の光る刺青が良く見えるように首を曲げてあげた。
静かになったアジトを漁り、借用書他すべての記録をその場で燃やした。建物も含めて。
「猫への恩返し、完了っ!!」
「ぁ~眠い。帰って二度寝しよう」
「要とくっついて寝たいな。ギュッ、ギュッ~てしながら……。ダメ?」
「ダメ」
「お前のそういうところ死ぬほど嫌いだよ」
そんなこんなで異世界一日目が終了した。