5話
三日後、アイツは退院した。たった三日で完治するわけもなく、変態医者はもちろん反対した。が、アイツを止められなかった。
久しぶりにボロアパートに帰ると、部屋の中には、まだ謎の男にボコボコにやられた跡がそこらじゅうに残っていた。アイツは、散らかった部屋を歩きながら何かを探している。
「どうした?」
「きっと、あるはずなんだ。手がかりが。サラは、僕とは違ってバカではないから」
「ふ~ん。まぁ、でも。私は、もう諦めた方が良いと思うけどねぇ……」
倒れたタンス。そのすぐ近くに写真立てがあった。周りのフレームは壊れていたが、中の写真は何とか無事で。私は、彼の横から写真を盗み見した。
「これさ、二人で旅行した時の写真なんだ。最初で最後の旅行になっちゃったけど」
「あぁ、あの時ね。温泉卵も最高に美味しかったよね~」
「えっ? なんで、エムが知ってるの?」
「いやぁ…………んっ……とぉ。ちょうどあの時、仕事だったんだ。同じ場所で」
「そうなんだ……………。あっ!!」
写真の裏側に小さい字で住所が記載されている。サラが、コイツだけに残したラストメッセージ。
私達は、その住所が書かれた場所に行った。
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…………………………。
………………。
貸倉庫の一つ。その中にエムと二人で入る。中はマネキンとか、使わなくなった巨大な水槽とか、そういうゴミで溢れていた。倉庫の一番奥。人一人がやっと通れるくらいの穴が床に不自然に空いていて、そこから微かに甘い風が吹いていた。穴の中は、真っ暗で先が見えない。
「きっと、サラはこの中にいる」
「どうして分かるんだよ。ヤバさが、スゴい!!
この穴、地獄まで続いてるんじゃない? ちょっ……えッ!?」
僕は、躊躇わず中に入った。穴に入ると体が勝手に向こう側から引き寄せられる。それでも不安は全くなかった。しばらく、身を任せる。
数分後、知らない場所に立っていた。小高い丘。少し先にポツポツと外国風の建物が見える。さらにそのずっと先。第二の太陽のように眩しく光る白亜の城があった。
「……………ふぅ」
殺し屋時代に世界各国を訪れたけど、こんな風景は見たことがなかった。
「ハハッ」
空を見上げて、さらに笑いが込み上げた。
【 空に月らしきものが、大小三つもある 】
明らかに地球とは違う場所。漫画で言うところの異世界? 確か、こんな感じ。
拳を握りしめ、自分の今の力を正確に把握した。まだまだあの謎の男には、敵わない。ただ、近いうちに必ず奴は倒す。
町らしき場所に入ると、派手な民族衣装のような服を着た町人に会った。
「あっ………。こんにちは」
「あぁ、はいはい」
何でも受け入れてくれそうな町の雰囲気が心地良い。少し小腹がすいたので、先ほどから良い香りを放っていた食堂に入った。メニューを見ても異国の言葉で読めない。可愛いリボンを着けた猫耳? の看板娘にオススメを持ってきてもらうことにした。
しっぽまである。コスプレではないみたいだ。
「なぁに、女の尻を見てんだよ。いやらしい」
僕の前にドカッとエムが座った。
「早かったね。やっぱり、ここって異世界なのかな。スゴいよね、漫画の中に入ったみたいだ」
「あのさぁ……そんなに呑気なこと言ってて良いの? お前、この世界の金を持ってないだろ。食い逃げする気かよ。情けない」
そういえば、今は日本円とカードしか持ってない。エムを見ると、この世界の紙幣らしき札束で顔を扇いでいた。
「それ、どうした? 盗んだ?」
「お前と一緒にするな。さっき、腕時計を換金したんだ。質屋で。そしたら、この五万ルックになった」
「やることが早い。さっすが、エム」
「もっと誉めて~」
ビーフシチューのような食べ物とパンで腹が膨れた僕達は、会計を済ませようとレジに行く。
「あのぉ………お客さん。冗談は、やめて下さい。会計は、三十万ルックですよ?」
僕達は、顔を見合せ。
そしてーーー。
二人で仲良く土下座しました。