2話
殺し屋だった頃ーーー。
乾く前に新たな血で手が赤く染まる毎日。
そんな血生臭い日々を送っていた僕は、小さな田舎町でサラに出会った。
他の女とは何かが違う。一瞬で僕の全てを見透かされた気がした。今までに感じたことのない頭の痺れ。
僕はこの日、醜悪な裸の自分を彼女にさらけ出した。
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殺し屋を引退して二年ーー。
僕は、ボロアパートでサラと二人で幸せに暮らしている。初めてアルバイトにも挑戦し、毎日社員さんに怒られながらも何とか仕事を続けている。
昼休み。作業着の繋ぎ姿のまま、唯一の楽しみであるサラの手作り弁当を公園のベンチに座り、食べていた。
「………………」
その時、日陰から誰かの視線を感じた。
「隠れてないで出てきなよ。……エム」
「どうして分かったん? 気配は消していたのに」
細い木の影から黒ワンピース姿の少女が、姿を現した。
「引退しても勘はある程度働くし。それにエムの匂いがしたから」
「にぃッ!? 匂いって。そ、そ、そんなに臭い、わたし? お風呂ちゃんと入ったのに。えぇ、嘘。もう帰るッ!」
「いやいやいや、そういう嫌な匂いじゃなくてさ。……何て言うか、どこか懐かして安心する匂い」
「………バ…カ」
なぜか上機嫌なエムは、ドカッと僕の隣に座った。珍しそうに僕の腕に抱かれた弁当箱を覗き込んでいる。
「卵焼き食べる? 美味しいよ」
「フンッ! そんなのいらないもん。カップ麺あるし」
いつの間にか、エムの手には小さなカップ麺が一つ。美味しそうな魚介の香りがした。腕時計で昼休みの残り時間を確認する。慌てて、ご飯を口に放り込んだ。
食事を終え、立ち上がった僕に。
「やけに幸せそうだな……」
「うん、幸せだよ。またね、エム。これから仕事だからさ。遅れると怒られる」
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…………………。
……………。
一人だけになった公園に少女の悲しい声が響いた。
「ほんと……ムカつくな、アイツ」