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ジュラシック・ペット 

作者: みぶ真也

「あなた、ふくにご飯あげて!」

 せっかくの日曜日だというのに、早い時間から妻に起こされた。

 しかたなく起き上がり、ガレージにある大きな袋から木の実や木の葉を取り出し、大皿に入れて屋上へ  持って上がる。

ウォーーーッ!

と、嬉しそうな声で鳴き、庭に居るふくが屋上の皿に首を突っ込んで食事を始めた。

 ふくは体長26メートルのブラキオサウルスなのだ。

 息子が小学生の頃、夏休みに夜店で恐竜の卵なるものを買ってきたのがふくとの出会いだった。

 その時は眉唾物だと思っていたのだが、数日後、小さな四本足の恐竜が生まれてよちよち歩き出してからは、可愛くて家族全員で大事に育て始めたのだ。

 あれよあれよという間に成長していき、体長が5メートルを超える頃にはさすがに息子の手には負えなくなった。

 結局、餌をやったり、散歩に連れて行くのはぼくの仕事となり、一日の大半はふくの世話に費やされることになってしまった。

 噂を聞きつけて大学の偉い先生などがやって来て、ふくの生態を調べたりして行ったが、結局、大学でも、動物園でも、行政でも引き取ることが出来ないのでうちで飼い続けるしかないのだそうだ。

「みぶさ~ん、バーベキューの用意が出来ましたよ」

 隣の高柳さんが、屋上にいるぼくに向かって呼びかける。

 そうか、今日は近所の人が集まって高柳さんの庭でバーベキューをする予定だった。

 ふくが満腹したのを見計らって、庭に下りて行く。

「いい肉が手に入ったんですよ」

 鉄板を準備しながら高柳さんは嬉しそうに言った。

グオ~~~~~ッ!

 後からうなり声が響く。

 振り向くと、村上のおばあちゃんがリードを引っ張ってペットのピー子を連れて来た。

 ピー子は体長12メートル、史上最大の肉食恐竜ティラノサウルスなのだ。

 アルファベットの大文字の「P」という刺繍が入った、おばあちゃん手編みの黄色いカーディガンを着せられている。

「お邪魔しますね。ひじきを煮たの持ってきました」

 ピー子とおばあちゃんも参加し、バーベキューの準備が始まった。

ピシャ!

 突然、鋭い音が響く。

 振り返ると、村上のおばあちゃんが、ピー子のほっぺたを叩いたところだ。

「なんてお行儀の悪い。お肉が焼けるまで待てないの?」

 どうやら、高柳さんがトレイに並べてあった生肉を、ピー子がそのまま食べようとしたらしい。

 おばあちゃんに叱られて、体長12メートルのティラノサウルスは涙目になり、うなだれて地べたに頭をこすりつける。

「よしよし、わかればいいわよ」

 おばあちゃんは背伸びをしてピー子の頭を撫でた。

 恐竜の卵を売る業者が近所で夜店を出したのは、数年前の夏休みだった。

 その時買った卵にはニセ物もずい分混ざっていたようだが、ピー子やうちのふくのようにちゃんとした恐竜に育ったものもあり、もはや家族の一員として手放すことも出来ない。

 業者は、条約違反で摘発され、もう恐竜の卵を販売することは出来なくなったのだが、育ってしまった恐竜は飼主が自己責任で面倒を見ろというのが政府の見解だそうだ。

「全く、大き過ぎるペットも困りものですね」

 皆が満腹になり、バーベキューが終わった時、鉄板に焦げ付いた残飯をバケツに入れながら高柳さんが話しかける。

「ええ、高柳さんのとこは恐竜がいなくて助かりますよね」

「それが、そうでもないんですよ」

 高柳さんがバケツの残飯を庭の池に放り込むと、いきなり池の中から巨大な影が飛び出しパクッと一口で飲み込んだ。

 ぼくが唖然としていると、

「モササウルスなんです。子供が熱帯魚の店で見つけて買って来た時は5センチくらいの大きさだったんですが、今じゃ、18メートルに成長しました」

 高柳さんがため息をつきながら説明してくれた。

 その時、

「すげえ、村上のおばあちゃんが、ピー子が産んだ卵くれた!」

 うちの庭の方から、息子の声が聞こえた気がしたが、空耳であったことを祈る。


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