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届かぬ想い

由愛視点のお話です。

「じゃ、由愛はゆっくり休んでてな。俺はちょっと行くところがあるけど、すぐ戻ってくるから。今日は、一緒に帰ろう」


「う、うん、ありがとう……」


 私を助けに来てくれた時から、卓くんが優しくてかっこよすぎる! 話しかけられると、緊張して目が合わせられないよぅ……。おんぶしてもらった時、卓くんの背中、とっても大きくて温かかったな……。ずっとあそこで包まれていたかったな……。


「じゃあ、先生。お願いします」


 保健の先生に卓くんはぺこりと小さく頭を下げると、そのままどこかへ行ってしまった。ずっとそばにいてほしかったけど、彼にだって用事があるのだから仕方ない。きっと、私を助けたのもそのついでなんだろう。だから彼は、ずっとあんなにも平然としていたんだ。


「岩永さんと言ったかしら?」


 考え事をしていると、保健室の先生に話しかけられた。


「は、はい」


「さっきの男の子と仲いいの? 一緒に帰ろうだなんて」


 ニコニコしながら聞いてくる先生は、きっと私たちを恋人だとかそんな風に思っているのだろう。私だってそう答えたい。……でも、彼には迷惑をかけられないから。


「幼馴染なんです。家が隣同士で、もうずっと長い付き合いなんですよ」


 もはや定型文となりつつあるこの返答。こう返すたびに、私は何度泣きそうになってしまったことか……。何度、それ以上の関係になりたいと思ったことか……。


「きっと彼は、あなたのことをとても大切に思ってくれているんでしょうね。あんなに親身になってくれている生徒、私は初めて見ましたよ」


 先生は感心したようにそう言った。私のことが大切、それはとても嬉しい言葉であると同時に、とても苦しい言葉ともなる。彼の言う大切は幼馴染としてなのだ。そこから動くことはありえない。


「きっと、幼馴染だから仕方なくですよ……」


 こんなこと、言うつもりなかったのに。私も彼が大切なのに……。


 言葉にすると、その重みが私に一気にのしかかってくる。その重みに耐えきれず、私の目から一筋の涙がこぼれ落ちた。


「あ、あれ……?」


「岩永さん、どうかしたの? どこか痛む?」


 ――心が、痛いです。どうしようもないくらい彼が好きなのに、想いを伝えることのできない、この状況が辛いです。でも、これは鎮痛剤や薬ではどうすることもできない。私が、自分で頑張らないといけない。


 考えれば考えるほど、その辛さは涙という形になって私の目から溢れ出てくる。


「由愛、戻ったよ。だいじょう……ぶ……」


 タイミング悪く、卓くんが戻ってきてしまった。こんな泣いているところを見られてしまうなんて、最悪だ。


 卓くんは私のすぐ近くに駆け寄ってきた。


「由愛、どうしたんだ? どこか痛むのか? せ、先生! 由愛は、どうしたって言うんですか⁉」


 卓くんの声が、段々と大きくなっていく。本当に私のことを心配してくれているんだ。それなのに、仕方なくだなんて、私なんてひどいことを……。


「由愛、落ち着いて。家に帰ろう。きっと学校にいるとまた思い出してそうなっちゃうんだろう? 早く帰って、ゆっくりしたほうが良い。先生、ありがとうございました。彼女を連れて帰ります」


「君一人で大丈夫? ちょっと待ってくれれば私ももう仕事終わるけど……」


「いえ、大丈夫です。彼女を早く、楽にさせてあげたいので」


 卓くんの優しい声が、私の耳元で響いている。少し低めの、きれいな声。まるでそれはBGMのように私の耳の中に入ってきて、美しいメロディーを奏でている。彼と先生が話している内容は、全く聞いていなかった。



「それでは、失礼します」


 再び彼におぶってもらって、私は保健室を後にした。彼の背中から感じる温かさがさっきまでよりも少し、温かさが増したように感じた。




「あんなに心配してくれるっていうのは、あなたのことが好きっていうことなんだよ。でも、それに気づかず泣くほどだなんて……。二人がお互いにお互いの気持ちに気づくのはいつになるのかしらねぇ……」


 保健の先生に全て見抜かれていたなんて、二人には知る由もないのであった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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