第92章 修行の旅 出発
閉会式が終わり、俺は師範に連れられて選手控室に行った。
すると、そこにはアランがいた。
「アランよ、久しいのじゃ。」
「エレノア様…お久しぶりです。」
「えっ…⁉知り合いだったんですか?」
「うむ。たまたま通りかかったらスタンピードに巻き込まれて死にそうになってたから助けたのじゃよ。」
「まぁ…助けてすぐに消えたから俺がスタンピードを解決させたなんて噂が立って、『不死身のアラン』って異名を付けられたんだがな。」
「えっ…?じゃあ称号詐欺じゃん。」
「いやいや、ちゃんと努力して異名に相応しい冒険者になってるだろうが。」
「まぁ…そうだな。」
最近は酒と賭博で金を溶かしまくっているダメ人間としか認識していないが…
そこは突っ込まないでおこう。
「してアランよ、単刀直入に言うのじゃが…アルフレッドを妾に預けて欲しいのじゃ。」
「…それはアルフレッドを冒険者学校を退学させるということですか?」
「うむ。」
「ちょっ、師範⁉︎どういうことですか…⁉︎」
そんな話は聞いていない。
てっきり俺は両立するものだとばかり…
「妾が実技も筆記も教えるからわざわざ学校に通う必要はないのじゃ。」
「ちょっ…待ってくれよ!!」
「そうです!!急すぎます!!」
「クレア…?アイリスも…」
アランはこういった状況になることを予測していたのだろうか…?
どうやら話を始める時から4人を後ろの部屋に待機させ、内容を聞かせていたようだ。
「学生でいられるのはこの3年間だけなんだぞ…⁉︎」
「冒険者学校は完全に足枷じゃ。これは弟子のためを思っての行動なのじゃよ。」
「アルフレッドの意思は尊重しないのですか…!!」
「ふむ…確かにその通りじゃな。弟子よ、お主はどうしたい?」
「俺は…」
論理的に考えて、師範の元へ行った方が今後のためにもなる。
だがどうしてだろう…?
そう答えようとすると、胸がモヤモヤする。
『…そうか。学校生活を結構気に入ってたんだな…』
前世では考えられなかった変化だ。
とはいえ、学校を優先して師範の稽古を受けないのはあまりにも愚かだ。
だがせめて学校には…クレア達には顔を出したい…
優柔不断な性格が邪魔をした。
「俺は…やっぱり両立させたい!!これだけは譲れない!!」
「ふむ…困ったのじゃ。」
「待て待て!!教授の俺を差し置いて勝手に話を進めるな!!」
「アラン…?」
今まで空気を読んで黙っていたのだと思っていたが、会話に置いていかれていたらしい。
「エレノア様、特例を設けて両立させるのはダメでしょうか…?」
「特例とは…具体的にどんな内容じゃ?」
「エレノア様の稽古を授業の単位とし、定期考査と卒業試験だけ受けるのはどうですか?」
「ふむ…卒業試験だけじゃ。お主はどうじゃ?」
次4人に会えるのは2年半後ということか…
正直に言うともっと頻繁に顔を出したいが、これ以上の譲歩は難しそうだ。
「…それで良いです。」
「ならこれで決定じゃ。別れの挨拶もあるじゃろうし、明日妾の元を訪ねるのじゃ。」
「分かりました。」
話がまとまると、師範は自室へ帰って行った。
アランも気を遣ってどこかへ消えていった。
俺たちは何と言葉をかければいいのか分からず、言葉も交わさないまま宿へ戻った。
「おかえりなさいませ、アルフレッド様。」
「あっ…ただいまソフィア。」
「皆さん表情が暗いですけど…どうかしたんですか?」
「…ソフィアさん、アルフレッドの部屋でみんなで話しましょう。」
「…?分かりました。」
部屋に着き、アイリスが状況を説明した。
「なるほど…なかなか会えないのは悲しいですが、卒業試験でまた会えるのでしょう?」
「…ああ。」
「なら自身の成長を見せるために、お互いその日を楽しみにして頑張りましょう!!」
「あっ…そうか。」
どうして思い付かなかったのだろう?
ネガティブなことばかり考えてポジティブ思考を失っていた。
「アルフレッド!!次会った時は絶対負けないからな!!」
「私もです!!」
「あたしも!!ボコボコにしてやる〜!!」
「ボ、ボクも!!」
「俺の方こそ…もっと強くなって誰にも負けないからな!!」
ソフィアの機転のおかげで、それからは暗い雰囲気にならなかった。
夜はアランも交えて送別会を開き、楽しく過ごした。
翌朝
「じゃあ小僧、学校で待ってるからな!!」
「オレも待ってる!!」
「気をつけてくださいね。」
「行ってらっしゃ〜い!!」
「が、頑張ってなのです!!」
「私も…アルフレッド様の帰還を心よりお待ちしております!!」
「ああ!!行ってくる!!」
5人に見送られて俺はコロッセオの方に、5人はアインザスの方に歩き出した。
「もう良いのじゃ?」
「…はい。気持ちの整理はつきました。」
「なら早速旅に出るのじゃ!!」
「…えっ⁉︎ここでマンツーマン授業をするんじゃ無いんですか⁉︎」
「実践経験より大事なものはないじゃろ?なに、知識など実践のついでに教えてやるのじゃ!!」
「えぇ…」
確かにその通りなのだが、不安しかない。
選択を間違えた感が否めなくなってきた。
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