第78章 HP増幅薬
「…っと、じゃあ俺は賭場で戦力分析してくる。」
「行ってらっしゃ~い。」
俺は急いで賭場に駆け込んだ。
「オヤジさん!!キャメロン校1番手グレッグの5人抜きに金貨1枚!!」
「はいよ!!今のBETを引いて…さっきの配当金、金貨2枚と大銀貨4枚だ。」
「ありがとう!!」
次の試合はラクロン校vsキャメロン校で、勝った方と明日の準決勝で戦うことになる。
しっかり戦力を分析しなければ。
ラクロン校は全員ドワーフで構成されており、対するキャメロン校は全員人間の男で構成されている。
キャメロン校の方が平均Lv5程度高く、ステータス値で勝っている。
ドワーフは種族の特徴で身長が130cmくらいのずんぐりむっくりで、動きにくそうな体型だが逆にそれを生かした戦い方をする。
ステータス値を力と器用さに極振りして全員が両手斧使いなので、ただでさえ小さくて被弾場所の少ない身体を斧で守ることでさらに防御力を高めている。
『まぁ…その分動きが遅いから素早い敵には手も足も出ないだろうな。』
そう、それがキャメロン校1番手の5人抜きにBETした理由だ。
1番手の選手はステータス値をAGIに極振りした、素早さ特化型の短剣使いなのだ。
「それでは第4回戦2試合目に移ります!!両者武器を構えて…試合開始!!」
「はっ!!」
開始と同時に、短剣使いが先制攻撃を仕掛けた。
対するドワーフの選手は身体の前に斧を突き出し、防御の体勢を取っている。
『あー…それは悪手だな。』
短剣使いの人間が短剣Lv.5”ジェットファング”を行使し、瞬時に背後に回り込んで下段から斬り上げた。
その斬撃は見事鎧の隙間にめり込み、相手の右足を斬り落とした。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」
断面から大量の血が流れ、ドワーフは痛みで意識を失ったのち失血死した。
「試合終了ーー!!勝者、キャメロン校グレッグ選手ーー!!!」
それからグレッグは頭脳を駆使して戦った。
背後を警戒したときは正面から、正面と背後を警戒したときは側面から攻撃し、そして見事5人抜きを果たした。
「試合終了ーー!!キャメロン校の勝利ーー!!」
「よっしゃぁ!!!」
ラクロン校に賭けている人が多かったので、グレッグの5人抜きは倍率が3.8倍まで上がっていた。
なので、金貨3枚と大銀貨8枚と言う大金を儲けることができ、脳汁が止まらなかった。
それから3試合目、4試合目が行われた。
スーやグレッグの試合で触発されたのか、3試合目ではコーデル校のルーカスが1番手に、4試合目ではイラプト校のライオネルが1番手になり両者とも5人抜きを果たした。
『はぁ…ルーカスとライオネルが1番手になったせいで全然稼げなかったな…』
倍率が1.2倍と1.1倍だったので、両方に金貨1枚をBETしたが大銀貨3枚しか儲けられなかった。
今日全体の結果としては、金貨5枚と大銀貨15枚(650,000円)のプラスだ。
そんな計算をしながらコロッセオの階段を上り、師範の部屋を訪ねた。
「弟子よ、遅いのじゃ!!」
「すみません。それで、今日はどんな稽古を?」
「うむ!!今日はこの丸薬を飲むのじゃ!!」
「また薬ですか…」
「何か文句でもあるのじゃ?」
「い、いえ…なんでもないです。」
渡された丸薬を”鑑定”してみると、HP増幅薬(A)と表記されていた。
実は今度神様に会ったとき、βテスターとしてHPについて進言しようと思っていたのだ。
TPはTP切れで増やせるからまだ増したが、HPは何故かLvUPでしか増えないのだ。
その上増える数値はたったの5だけなのだ。
『俺なんてLv86なのにHP410しか無いしな…百倍くらいにしても大丈夫だろ。』
「師範、質問してもいいですか?」
「許すのじゃ!!」
「HPを上げる利点って何ですか?」
「よくぞ聞いてくれたのじゃ!!実は…HPが高ければ心臓を貫かれたり頭を潰されても死なないのじゃ!!」
「えっ…」
それはもはや化け物なのでは…?
違法薬物で肥大化したあの化け物より化け物をしているのでは…?
「まぁ普通の人間だったら継続的にHPが減って死ぬのじゃが、吸血鬼だったらHPが尽きる前に傷が再生するのじゃ!!」
「なるほど…」
…やはり化け物では?
しかし、いかにもゲーム世界のような感じで少し好感を覚えた。
「お主は副作用が出ないからこの瓶2つ、全部飲むのじゃ!!」
「は、はい…」
恐る恐る1粒を手に取って口に入れてみた。
「うっ…!!あれ…?あまり不味くない…?」
「お主…TP増幅薬のせいで味覚が壊れてしまったのじゃな…」
「…えっ?」
「それは滅茶苦茶不味いのじゃ…妾はスライムゼリーと一緒じゃなきゃ飲めないのじゃよ…」
『ゼリーと一緒って…前世にいた錠剤が飲めない子供みたいだな。』
「お主また失礼…」
「そんなことないですよ!!それより、TP増幅薬より全然美味しいですね!!」
無理矢理誤魔化すようにして、俺は瓶の中身を全て口に含んで飲み込んだ。
先程は1粒だったので味が薄かったが、やはり一気にとなると相当不味い。
「弟子よ…すまないのじゃ!!妾のせいでそんな味覚音痴にしてしまったのじゃ…」
ようやく罪悪感を感じたのか、目をうるうるさせて涙目になった。
『いや…くそ不味い丸薬何百粒も飲ませたらそうなることは目に見えてるだろ。』
それから罪悪感に苛まれて号泣する師範を傍らに、俺はHP増幅薬を飲み続けた。
結果、391粒服用していたようでHPは1,173,000増加した。
世界中を巡るために冒険者を目指して冒険者学校に入学したはずだったが…
今の俺はどこを目指しているのだろうか…?
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