第177章 保釈
数日後
俺とソフィアはオークションを終え、馬車でコルセアの大熊宿に帰還した。
「ただいま。」
「お、おかえりなのです…」
「おかえり~…」
「おかえりなさい…」
てっきりクレア辺りが勢いよくオークションの収益を聞いてくると思ったのだが、違った。
それどころかクレアの姿は見えないし、3人とも非常に暗い表情をしている。
「…?何かあったのか?」
「…それは部屋で話します。」
トボトボと歩く3人の後に続いて階段を上り、俺の部屋に入った。
そこには小さな紙切れを握りしめて地面に手をついているクレアがいた。
「クレア…?どうしたんだ?」
「アルフレッド…アルフレッドぉぉぉぉ!!!!!」
「うわっ!!」
大粒の涙を流しながら俺に抱きついてきた。
そして小さな紙切れを渡してきた。
「これは…っ!!!まじかぁ…」
それは決してメモ書きなどではなく、莫大な金額の書かれた小切手だった。
そこには”白金貨2,300枚 ※エレノア=ブラッドボーンの保釈金及び遺跡の賠償金”と書かれていた。
「払わないと死刑にはならないけど、代金に見合う労働で支払うことになるって~…」
「い、一体何年強制労働させられるかと思うとつらいのです…」
「はぁ…やってくれたな師範…」
小切手の説明に師範が全財産である白金貨1,700枚を支払い、残りを弟子に払わせるよう要求したと書かれていた。
師範は昔、世界で1、2位を争うほどの超大金持ちだったという。
それこそ今回の要求金額である白金貨4,000枚などポンと一括で払えるほどだ。
そんな師範だったが、ある時を境にあまりお金を持たなくなった。
それは275年前、貨幣が現在の大陸共通貨幣に代わって旧来の貨幣がゴミの山になってしまったときだ。
金や銀として売ったが、大陸共通貨幣で言うところの白金貨数万枚の価値は数十枚まで落ちたという。
これによって師範は貨幣に対する信頼を失ったのだ。
それからはお金を手に入れたらすぐに消費し、ほとんど貯金することはなかった。
そんな師範が白金貨1,700枚を支払ったということは、きっと家やアイテムを大量に売却したのだろう。
『…仕方ない。今までの恩もあるしな。』
「それで…オークションの売上はどうでしたか?」
「ああ。大成功だったぞ。」
”アイテムボックス”から金貨の入った6つの袋をドスドスとテーブルの上に置いていく。
そのあまりの重量にテーブルがぎしぎしと軋む音を立てた。
「おぉ…おおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
「クレアうるさい。近所迷惑だ。」
「す、すまん。だが大量だな!!一体いくらなんだ!?」
「占めて金貨32,444枚です。これでエレノア様の保釈金及び賠償金は払うことが可能です。」
「良かった~!!」
「早速留置場に行って払いましょう!!」
他の人達ならば他人のために莫大なお金を払うことに躊躇ったり嫌がったりしたかもしれない。
だが、流石は俺の仲間たちだ。
一切嫌な顔をせず、むしろ師範が助かることに安堵の溜め息をついた。
「ちょ、待て待て。その留置場の場所は知ってるのか?」
「帝都なのです。」
「えっ!?オークション会場の近くじゃないか!!」
「エレノア様はブルーノ帝国の総ギルドマスターですしね。私もオークションに精一杯で考えが至りませんでした…」
「俺もだ。帝都なら全力で向かえば夕暮れ前には着くだろう。ソフィア、留守番は任せた。」
「かしこまりました。」
「帝都に急ぐぞ!!」
「おう!!」
それから支度を終え、門を出てすぐに全員”闘気操術”を全力で行使し、街道を駆け抜けていった。
数時間後
「着いたな。」
「はぁ…はぁ…疲れたぁぁ…」
「どうして…アルフレッドは…息が…切れてない…のですか?」
「そう…なのです…」
「まあ皆とLv差もあるし、何より体力トレーニングは10年以上欠かしてないからな。」
「ずるい…よ~…」
罵声を浴びつつ4人の息が整うのを待った。
その間に俺は逃した昼食を軽く取った。
「さて…じゃあ行くぞ。」
冒険者カードを提出して帝都の門をくぐった。
そして留置場の周辺地図を脳裏に描いて進んだ。
「…ここだな。」
「地下に広がってるのでしょうか?」
「そうみたいだな。」
「貴様ら!!ここに何の用だ!!」
留置場の前でたむろっていると、入り口にいる門番に話しかけられた。
確かにじろじろ観察しては話し合っていたので、我ながら怪しげだっただろう。
「俺はBランク冒険者のアルフレッドだ。師範…エレノア=ブラッドボーンの保釈金及び遺跡の賠償金を払いに来た。」
「…間違いないようだな。留置場にはお前しか入ることを許さん。お前の仲間達はここで待っていろ。」
「分かった。…行ってくる。」
「頼んだぞ!!」
入り口で装備を外し、荷物置き場に置いた。
とはいっても、こうなることを見越して普段使いの装備は”アイテムボックス”に収納済みだ。
今提出したのはあくまで盗まれてもいいような低ランク装備である。
「…ついて来い。」
「ああ。」
役員の案内に従い、前世の銀行のような場所に案内された。
今は誰もいないようなので番号札は渡されず、受付に直行した。
「エレノア=ブラッドボーンの保釈金及び賠償金、白金貨2,300枚です。」
”アイテムボックス”で枚数を設定し、ぴったり金貨23,000枚を袋に入れて提出した。
すると枚数を数える魔道具があるらしく、その道具に金貨の山を投入した。
待つこと数分
「…ぴったりお支払いいただきました。これでエレノア=ブラッドボーンは保釈です。」
「良かった…」
「…本人の元へ行く。ついて来い。」
今度はどんどん階段を下っていく。
”構造探知”によると、この建物は地下10階まであるようだ。
当の師範は地下10階、最下階にいるようだ。
「…ここだ。」
そこは扉も窓も鉄格子で出来ており、夏や冬であればつらそうな場所だった。
師範の能力値ならいつでも破壊できるだろうが、留置所がこの程度でいいのだろうか?
「で、弟子よぉぉ!!!」
「師範…!!今解放します!!」
鍵を開け、実に数週間ぶりに師範と再会した。
留置所の生活は意外と悪くないらしく、空腹でもなければ不潔にもなって居なかった。
「…コルセアに帰りましょうか。」
「うむ!!」
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