第172章 新遺跡 開封
翌朝
野宿の片づけや朝食を済ませ、倉庫に向かう準備が完了した。
「さて…それじゃあ向かうぞ。」
「おう!!」
この道に魔物がいないことは分かっているが、自然発生している可能性が無いとは言い切れないので”魔物探知”と”罠探知”を行使して進んだ。
だが1度往復して少し慣れた道なので、クレアとスーは警戒心が緩み金庫の中身に胸を弾ませて鼻歌を歌いながら進んだ。
進むこと数十分
1度も罠に掛からず、無事に倉庫に辿り着いた。
「…相変わらずこの部屋だけ真っ暗じゃな。弟子よ、照明を頼むのじゃ。」
「分かりました。」
金庫の暗号を間違えて敵襲される可能性を考慮し、少し多めに照明の魔道具を”アイテムボックス”から取り出してシャンデリアにかけた。
光量を最大まで引き上げたことで、この広い部屋の隅々まで見えるようになった。
「さて…それじゃあ金庫を開けていくぞ。」
「ちょっといいかしらぁ~」
「どうしたサリーちゃん?」
「昔私が引っかかったのを思い出したんだけどねぇ、これ同時に鍵を解除しないと罠が発動するタイプじゃないかしらぁ?」
「なるほど…念のためそうするか。俺が部屋の入り口で周囲の警戒をするから、6人は同時に解除を頼む。」
「は~い。」
正直なところ、クレアが暗号をうっかり間違えたりしないかが心配だ。
本来ならばクレアに周囲を警戒させて俺が暗号を打ち込みたいところだが、鼻歌を歌うほど楽しみにしていたので言い出せなかった。
確かに天然なところはあるが、地頭はなかなか良いので大丈夫…なはずだ。
アイリス、スー、師範がそれぞれ右奥、右中央、右手前に、クレア、イザベル、サリーちゃんがそれぞれ左奥、左中央、左手前に配置した。
「全員配置に着いたな。それじゃあせーのっ!の”の”の部分で…」
「ガコッ!」
「…ん?」
右手前から重い物が地面に落ちる音が聞こえた。
音源に視線を向けると、そこには冷や汗をかいて目を背ける師範の姿があった。
「す、すまないのじゃ…今のが掛け声かと思ったのじゃ…」
即座に中央に集合し、”魔物探知”を行使しつつ戦闘態勢を取った。
だが、いつまで経っても敵は現れなかった。
「…罠はなかったみたいですね。」
「よ…良かったのじゃぁぁぁ!!!!!!」
「あれはアルフレッドの説明が悪いですね。」
「ああ…師範、すみませんでした。」
「結果オーライじゃし許すのじゃ!!」
せっかくロックが解除されたことだし、右手前から順番に反時計回りになるように見て回ろう。
早速B・G、もといベラッジオ=ゴーケスの金庫の前に足を運んで息を呑んだ。
「それじゃあ…開けるぞ?」
「う、うむ。」
縦横5mはある大きく重い扉を引いて開けた。
中は真っ暗でほとんど何も見えない。
「…明かりをつけるぞ。」
照明の魔道具を使って部屋内を照らすと、そこには真っ白なキャンパスや絵の具などのたくさんの画材が木の箱に入れて置かれていた。
「…何だよ。宝無いじゃん。」
「金庫というより倉庫ですね。最初の予想で合ってたみたいです。」
「…これはアイリスと師範が使ってくれ。要らなかったら売ればいいさ。」
「むっ、助かるのじゃ。」
「ありがとうございます。」
期待を裏切られた事実を忘れ去りたくて、俺はアイリスと師範にさっさと“アイテムボックス“の魔道具に収納させた。
ある程度収納してから宝が隠れていないか探したが、全く見当たらなかった。
潔く諦め、次の金庫前へ移動した。
「ここはA・H、アルディ・フラヴェルの金庫だったよ~」
「…開けるぞ?」
「おう!」
縦横5mはある大きく重い扉を引いて開けて照明の魔道具で部屋内を照らすと、そこには粘土や模型図などの作業道具が木箱に入れて置かれていた。
先程と違う点は金庫の中いっぱいに物が置かれていないことくらいだった。
「まさか…嘘だろ!?」
ここまでくると点と点が結びつき、非常に勘が悪いわけではない限り想像がつく。
いや、想像がついてしまう。
この金庫のような巨大な箱は倉庫で、本物は作業部屋にある隠し部屋だったということに。
この倉庫と隠し部屋の罠や発見難易度を考えれば一目瞭然だ。
倉庫はただアルファベットを1つ選ぶだけだが、隠し部屋はどうだ?
“構造探知“にも反応しない場所を見つけ出し、さらに“罠探知“でも微かにしか反応しない即死級の罠を回避する必要がある。
「はぁ…まじかよ…」
「残念ながら私も同じ考えに至ったわぁ~」
「私もです…」
クレアを除く6人全員が事態を把握し、深くため息をついた。
クレアだけは奇妙なものを見る顔でキョロキョロしている。
「なぁ、オレにも分かるように説明してくれよ。」
「ここは倉庫で、金庫はあの隠し部屋だったのです。」
「…どういうことだ?」
「もう宝は得られないってことじゃな。」
「なっ…!?嘘だろ…」
今まで期待でブンブンと振っていた尻尾が硬直し、しなっとなって地面にペタリと落ちた。
この世界にはいないが、犬猫の尻尾を見ているような気分だ。
「期待は裏切られたが…十分収穫はあったしい良いじゃろう。」
「そうですね。それじゃあちゃっちゃと残りも収納しますか。」
洋裁師シャンディ・ヴィヴィエの倉庫には高級布や裁縫針などの洋裁道具が、装飾師ビリー・グラムの倉庫には金や超硬カッターなどの装飾道具が、宝石職人ティティエ=ウィンクリーフの倉庫には研磨前の宝石やダイヤモンドカッターなどの加工道具が、そしてアルベイン・スミスの倉庫には鍛冶前の鉱石や鍛冶ハンマーがあった。
宝石や鉱石など、売却可能なものが意外と多かったのは嬉しい誤算だった。
「…よし、アルベイン・スミスの持ち物も全部収納できた…ん?」
”アイテムボックス”に収納したはずだったのだが、倉庫の隅に紙が何枚かあることに気が付いた。
武器の模型図かと思って拾うと、そこには文章が書かれていた。
「なになに…タイトルは『我が師範へ』…だと!?」
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