第144章 指名依頼
俺がCランク冒険者になってから早くも1ヶ月が経った。
クレア達は俺に負けじと毎日クエストを達成し続け、この前E→Dランク冒険者に昇格した。
俺は例のように各地を回ってクエスト達成数を稼いだが、それでもあと200回ほど足りなかった。
毎日C、Bランクの討伐クエストを達成しているが、未だCランクのまま停滞している。
今日は冒険者活動を始めて初の大雨で、俺達は今ギルドで時間を潰している最中だ。
修行の旅ではこれより酷い大雨の時でも平気で魔物を狩っていたが、そこまで行き急ぐ必要もないので今日はオフにした。
「あら~!!アルフレッド君も一緒なのは珍しいわね~」
「言われてみれば確かに…ギルドに5人で集まるのは登録したとき以来だな。」
「そうですね。アルフレッドだけランクが違いますから。」
「そんな目で見るなよ…」
冒険者ランクが違うため倒す魔物が異なり、倒す魔物が異なるため魔物の生息地も異なり…
登録して以降、未だにクレア達とパーティーを組んだ冒険ができていないのだ。
「それに魔物討伐ばっかで、冒険者なのに全然冒険してないよね〜」
「まあ…そうだな。」
冒険者は命を担保にしたフリーターのような職業で、対してそこに夢や希望はなかった。
基本的な仕事は街の脅威になるはず魔物の討伐ばかりで、言うなれば“対魔物用の傭兵“である。
街によっては遺跡やダンジョンの探索を行うこともあるが、そのような場所にいる魔物は強くて数が多い。
そういった意味でも、冒険ができるのは力のある上位冒険者のみなのだ。
「サリーちゃん、5人のパーティーで出来るクエストとかあるか?」
「あるわよ〜!!実はそのことを話すために来たのよ〜!!」
「そうだったんですね。」
「さっすがオレ達のサリーちゃんだな!!」
「ボ、ボク達で独占しちゃダメですよ!!」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないの〜!!」
サリーちゃんが俺の方を見てウインクしてくるのは見なかったことにしよう。
手入れ中の短剣に視線を移し、すっと視界から外した。
「じゃあ上の部屋に着いてきてちょうだ〜い!!」
「ああ。」
上の部屋とはギルドマスターの部屋だろう。
極秘に行いたいクエストの指名依頼や、疑わしい冒険者の取調べを行うと噂されている。
階段を上ってギルマスの部屋に入ると、そこは質素な場所だった。
必要最低限の家具しか置かれておらず、机には書類が山のように積み上がっている。
「そこに座ってちょうだ〜い!」
「…うわっ、この椅子めっちゃ沈むな!!」
「ほんとだ〜!!」
「うふふっ!!かわいいわね〜!!」
俺としてはサリーちゃんから送られてくる視線が少しゾッとするので、早く帰りたいんだがなかなか話が進まない。
性的な目で舐め回すように見られるのは、こうも気持ち悪いのか。
『女性の不満の一部が分かったような気がする…』
そんなことを考えていると、サリーちゃんが真面目な表情をした。
先程まで楽しげに話していたクレアとスーもそれを察し、緊迫した雰囲気が訪れた。
「実は、アインザスとの街道沿いに盗賊が住み着いたのよ。」
「何か情報は?」
「それが分からないの…偵察に出した斥候が戻ってこなかったのよ…」
「なるほど…」
「では、私達に依頼した理由はなんですか?」
「もちろんみんなの実力もあるわ。…けど、1番はアルフレッド君の持つ探知能力よ。あなたなら遠くからでも情報を得られるんでしょう?」
『…っ!!隠してるつもりは無かったが…何処から漏れた?』
「あー、あれは本当に便利だよね〜!!」
「おう!!着いてすぐにサリーちゃんに自慢しちまったぜ!!」
『クレア…やっぱりお前か…』
だがサリーちゃんは俺の情報を不用意にばら撒いたりしないはず。
ここまでは想定の範囲内だ。
それに、盗賊退治は俺達への利益が大きい。
クエスト達成報酬以外にも、運が良ければ賞金首の提出報酬や盗賊が溜め込んだ財宝を貰えるのだ。
「…俺は構わないけど、4人は?」
「もちろんやります。」
アイリスの答えに3人も首を縦に振っている。
「助かるわ〜!!けど、油断しちゃだめよ?」
「おう!!オレ達に任せろ!!」
盗賊退治はこれで2回目だ。
1回目は確か1年次剣闘祭に向かう途中。
盗賊の人数は少なくて装備は粗悪、練度も低くて一般人と大差なかった。
『あの時の盗賊とはまるで違うだろうな…』
「助かるわ〜!!…でも、絶対に無理しちゃダメよ?」
「危険だと思ったらすぐに逃げます。クレアも、それでいいですよね?」
「サリーちゃんに心配かけたくないし…いいぜ!!」
「本当にありがとうね〜!!」
4人は話が終わってこの部屋から出ようとしたところへ、俺が呼び止めた。
そして、深呼吸して気持ちを切り替えた。
「おいアルフレッド、なんだよ?」
「…サリーちゃんは分かってるだろうが、ここからは報酬の話だ。」
「もちろんよ。アイリスちゃんも部屋を出ようとした時は驚いちゃったけど…アルフレッド君が居て良かったわ〜」
「…この盗賊退治はクエストとして引き受けるって理解でいいのか?」
「ええ、その通りよ〜」
笑顔で返事をすると、サリーちゃんは書類の山から1枚の紙を取って手渡した。
Bランククエスト“盗賊退治“と書いてあるその紙を、俺は一読した
「Bランククエストだが…俺しか受けられないんじゃないか?」
「アルフレッド君が引き受けたクエストに助力を求めて…」
「…なるほど。そう言う筋書きか。」
『賞金首と見つけた宝の所有権は原則通り、俺達にあるようだな。報酬は…金貨1枚か。妥当だな。』
「…分かった。引き受けよう。」
「嫌な予感をビンビン感じるから…本当に気をつけるのよ?」
「ああ。任せろ。」
俺達は自信満々な表情で、ギルマス部屋を後にした。
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