尤魔と言うもの
いやぁ、文章力が無くてすみません。日々努力しているのですが、今一上手くならないですね。才能が無いのでしょうか?w
本編始まります。
目の前に、死を具現化したような生物が佇んでいる。
冷や汗が止まらない。
なんで、こんなことになったんだよ。
俺が悪かったのか? 弱くなければ、よかったのか?
不思議な感覚だ。目の前の生物を、神取蜘蛛を前に思考する余裕なんて無いはずなのに、恐怖心を上書きするかのようにドロドロとした感情が貯まっていく。
神取蜘蛛が前足を振り上げる。まさしく突きの構え。
見てから反応しては百パーセント間に合わないだろう。そう、見てからならば、だ。
「集中しろ、式見透。お前はこんなところで死にたくないだろ?」
自分自身を鼓舞する言葉。
言葉通り、全神経を精神を総動員して神取蜘蛛の一手に注意する。
酷く、気が重い。
コイツが構えをとってから、どれくらいの時間が立ったのだろうか。十秒? 一分? いや、おそらくまだ数秒。研ぎ澄まされた感覚により、体感時間が引き伸ばされているだけなのだろう。
――――来る。
刹那、俺は横に跳んだ。
ボッ!
という音と共に俺がもといた位置に神取蜘蛛の腕が突き刺さる。
避けた、避けられた。
が、こんな一発の攻撃で神取蜘蛛の攻撃が終わるわけがない。
ヤツは一瞬、不思議そうに突き出した腕を眺めた後、即座に空いている腕で突きを放ってくる。
横に跳び、体制が僅かながらに崩れていた俺は、何とか体をよじり、避けようとする。しかし、抵抗むなしく俺の体は弾き跳ばされた。
そのまま樹に激突し、停止する。
遅れて、右半身に猛烈な痛みが加わった。
「ぐがっっっ!?」
ゆっくりと激痛の元を確認。
予想通りというか、そこには抉れた横腹と肘から先の無くなった腕があった。
出血が酷い。
だが―――
〝だからどうした?〟
攻撃を食らえば痛い。当たり前だ。
今だって意識が飛びそうな程の苦痛に頭がおかしくなりそうだ。が、だからどうしたというのだ。
元を辿ればこんな思いをするはめになったのは廣斗たちのせいだ。なら、苦しんだぶんアイツらにし返せば言いというもの。
それに。
「……【超回復】」
俺にはこれがある。
スキルを発動すると、グヂュグヂュと音を立てながら損傷していた部分が修復される。欠損していた腕でさえ、メキメキと血肉が構成されていく。
俺の【超回復】は、生きてさえいればどんな状態の生物でも万全の状態へと治すことができる。失った部位、血液でさえ完全に再生させられるのだ。
なら、一撃死さえ避けていれば、死ぬことはない。そして、俺の【超回復】は、なぜか効果に対して使用魔力が少ない。いや、少なすぎる。これまで幾度となく魔力切れを起こしたことはあるが、その全てがスキルを百発以上使ったときだった。
そう、この異常な回復力のあるスキルを俺の平凡な魔力量で百発。どれだけ燃費が良いのか、思わず苦笑いが零れる程だ。
つまり、だ。
「根比べといこうか。お前が隙を見せるのが先か、俺がへばるのが先か」
不思議と口角が上がる。こんな状況なのに、なぜか笑えてくる自分がいる。
いや、絶対に死ねない状況だからこそなのかもしれない。
「上等だ。不条理なんか全部はね除けてやる。だから、お前ら全員俺が戻るまで死ぬんじゃねぇぞ! 絶対に見返してやるからな!」
俺は、こんな危機的状況にもかかやらず、アイツらに対する決意を固めた。
*
あれから何分たった? もう時間の感覚が分からない。
言えることがあるとすれば、辺りは既に暗くなっているということか。
つーか、迷宮内でも朝と昼が分けられてるんだな。っと、何処か他人事のように考える。
着ていた服は幾度と無く攻撃を受けたせいでボロボロだ。
俺の左足が吹き飛ぶ。
【リカバリー】
千切れたそばから、すぐに修復。
この状況を見れば分かる通り、目の前の神取蜘蛛は健在だ。いい加減、心の傷が大きい。あんなに見栄っ張りなことをほざいていたのに。くそ、殆ど切れたことの無い魔力が底を尽き始めた。
ヤバイな、このままじゃ。
途中、巨大な蛙の魔物が乱入してきたが、神取蜘蛛が一瞬にして細切れにしていた。その巨体ゆえ、前足の刺突を避けられなかったのだろう。
やはり、ここの魔物は規格外にも程がある。細切れにされた蛙でさえレベル千を超えていた。
俺たちが大迷宮三十階層前後で戦っていた魔物は大体七十から八十前後。そんな魔物にすら俺たちのパーティーは苦戦していたのだ。というか、歴代最高レベルの勇者でも千とちょっと位と聞く。ならば、二千レベルもある目の前のモンスターはなんなのか、考えれば考えるほど謎が深まる。
と、蜘蛛が腕を振り上げた。幾度目か分からない攻撃。疲弊した体で、次は避けれないかもしれない。
冷や汗が頬を伝う。随分と汗を流しすぎた。もし生き残っても脱水症状で死ぬかもしれないな。
そして、蜘蛛が前足を突き出すその瞬間。
何かが飛来した。
恐ろしく速い。肌色の何か。
それが、蜘蛛を絡めながら転がる。
木々を薙ぎ倒し、地を穿つその光景は、さながら天変地異を彷彿させる。
むくり、と。
蜘蛛とナニカが起き上がった。
ナニカが咆哮を上げる。
「ぎよろっぇえぇぇえぇえぎゃよろるぽぉおごぁぁぁあああぁっっっ!!!!!!!!」
その、高圧的なプレッシャーだけで、命が刈り取られそうだ。
そして、俺はナニカの姿を見て、更なる絶望の淵に立たされたのだと知った。
ナニカは肉塊、そう表現するのがよく似合った見た目をしていた。
全体的に人肌で構築されたまるっこい体躯。前屈みになっているようで千切れんばかりに垂れ下がった口から人間の手のような赤黒い物体が大量にはみ出ている。極めつけは、全身に赤黒く変色した部分が存在しており、その付近に大小さまざまな人間系の目玉がついている。
絶え間なく動くその眼球。大きいもので半径五メートルはある。
からだ全体は、神取蜘蛛の二倍はありそうだ。
ソレは、地上にも出現することがある魔物だ。いや、ソレは魔物とは呼ばれない。
そいつらの名前は〝尤魔〟。種族としての強さは世界二位とされる、最恐の生物だ。
「か、【鑑定】」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
種族:尤魔
level:4271
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
なんで、こうなるんだよっ。
尤魔とは、人間が付けたコイツらの総称だ。コイツらの起源が何か、そもそもコイツらの生態自体があまり解明されていない。ただ、恐ろしく強い。一体で小国を潰したと聞くほどには、異常な強さだ。故に尤なる魔物、尤魔なのだ。
だが、その性質上レベルが上がりにくいと聞く。もしそれが本当なら、コイツはそれだけの戦いを生き延びた歴戦の個体と言えるのだろう。
心なしか、神取蜘蛛も怯えている。
ヒリつくような殺気が充満している。
そんな状況下に、俺は耐えられなかった。
疲弊した肉体にムチ打ち、走り出す。
あの二匹から、出来るだけ離れるために。
恐怖で気が狂いそうだ。
最後に一度振り返る。
そこには、体の半分を尤魔によって飲み込まれつつある、神取蜘蛛の姿があった。
次話投稿は十九日(月)の18:00頃予定です。