地獄の始まり
お久しぶりです。お待たせいたしました。投稿が遅れて大変申し訳ありません。
糞みたいな内容ですが、よければ楽しんで下さい。
俺はゆっくりと目を開ける。どうやら横たえているようだ。
ひどく、気分が悪い。嫌な夢を見た。
始めの、召喚されたばかりの頃の夢だ。
俺は、あの解析の結果のせいで、散々バカにされた。
クラスメイトたちは勿論のこと、表向きは歓迎しているように振る舞いつつ、国の軍や俺たちを召喚した『聖辿教』からでさえ無能扱いされた。
俺の持つ能力は別にポーションでも代用が出来るし、生き物である以上無茶をすればいずれ壊れる。アイツらからすれば俺は邪魔でしかなかったのかもしれない。
だが、だからってこんな仕打ちはあんまりだろう。何も悪いことはしていない。力不足ながら他の勇者達を援護し、戦線への貢献を俺のできる最良で行ってきた。
仲間だと思っていたアイツらを庇い、死にかけたことだって少なくない。
だと言うのに俺の替わりが見つかったからといって、迷宮に置き去りにするのは可笑しい。せめて上に連れていってもらえれば、キッパリ縁を切ることもできたのに。あまつさえ、地獄と呼ばれるほどの危険地帯に俺を放り出した。
こんなこと許されるのだろうか? ……いや違った。許す許さされるじゃない。そんなことはこの際どうでもいい、俺は兎に角、アイツらを見返してやりたかった。
昏い感情が心から吹き出してくるのを感じる。
俺は、体に力を込めて立ち上がった。
不思議だ。虚穴は目測で確認できないほど暗く長いとされている。にも関わらず、あの穴から落ちた俺は掠り傷程度の怪我しかしていなかった。
もし、骨が折れていてもスキルで治すのだが、今から何が起こるのか分からない以上、ムダな浪費が避けられてラッキーだった。
そこでふと気付く。〝なんで普通に自身の状態を確認できているんだ?〟っと。
そうだ、ここは迷宮の中、それも深部に近い場所のはずだ。虚穴に落ちればどれだけ落下するか分かったものではない。
なのに、だ。俺は照明の類いを持っていないのに、見えている。
俺は疑問に思い、辺りを見渡す。そして驚愕した。
辺りに有ったのは予想だにしない〝樹〟だった。
それも一本ではない。現在俺のいる場所から半径十メートルくらい離れた位置、そこから青々と茂る巨大な木々が視界を埋め尽くしている。それだけに止まらず、あまりの光景に唖然としながらも上を見上げた目には、木々を軽く越すほどの〝異常〟が存在していた。
見上げた先には、〝空〟が有ったのだ。それもさんさんと降り注ぐ暖かな光をたたえた太陽のおまけつき。
こんなのは絶対に可笑しい、あまりにも異常だ。
俺の頭の中は疑問符で埋め尽くされる。
地下に落ちたはずなのに、なぜこんな地上のような場所にいるのか、そもそも本当に俺は生きているのか。分からないことだらけで頭がパンクしそうだ。
が、もしかして地上に飛ばされたんじゃないか? と淡い期待を抱いていた俺の希望は見事に打ち砕かれる。
太陽よりもさらに上。言うなれば俺のちょうど真上に、ポッカリと空いた小さな穴が見えたからだ。
その部分だけ、奇妙に歪んでいる。まるで、空中に歪みができ、その中心を削り取ったかのような見た目。不気味で酷く不安を煽る。
それを見て確信する。やっぱり落ちてきたのだと。
あの穴がいい証拠だ。なら、あの空はなんなのか? よく見ると、違和感がある。たまに、小さな影が空に浮かび上がるのだ。遠目でよく分からないが、何か生物が〝這っている〟。そう、空を、だ。
そこから仮説するに、おそらくあの空は偽物なのだろう。限りなく〝空〟に似た天井。やはりここは迷宮の中なのだ。太陽も、偽物。おそらく発光性の鉱石か何かで形成されているに違いない。
現実を確認すると、心に鉛が覆い被さったように憂鬱な気持ちになる。それもそうだ、ここは〝地獄〟と呼ばれるに相応しい劣悪な環境であると決まったのだから。
そんなとき、ふと空の天井を這っていた影に違和感を覚える。どこか〝大きくなっている〟。そう感じた。
そして理解する。理解した瞬間、冷や汗が止まらなくなった。
ああ、ふざけるな。なんで降ってきてんだよ!
そう、影の正体が天井から剥がれ落ち、こちらに急降下してきているのだ。
正体がナニにせよ生物であるならば不味いことに変わりはない。
なんせ、俺には武器も、戦えるスキルも無いのだから。
近くの樹へと走り、身を潜める。
影の大きさはとどまる所を知らずに大きくなっていく。……そして、〝ソレ〟が着地した。
ズウゥゥゥン! と重低音を発しながら地面に足をつけるソレ。
影の正体は、巨大な蜘蛛だった。 真っ黒い外骨格に赤く光る八つの目。その巨体は軽く一軒家を越えている。
俺がこれまで会った魔物の中で一番強い。そう断言できる程の圧を、巨大蜘蛛は発していた。
ヤバイヤバイヤバイヤバイっ! なんなんだよあれは!
警鐘が頭の中で煩く鳴っている。
巨大蜘蛛がそこにいるだけで、息が詰まる。心臓が破裂しそうなほどに、激しく躍動している。
と、蜘蛛が辺りを見渡した。幹の陰から様子を伺う。本当は今にでも走り出して逃げたかったが、そんなことをすれば死が確定する。
蜘蛛が小首をかしげる。まるで『ここにいたよな? 俺の獲物』とでもいいたげだ。
よかった、バレてない。
そう息をついたのもつかの間、せり上がるような悪寒が身体を襲った。体から力が抜け崩れ落ちる。
普通なら、それは致命的な隙になるだろう。だか、崩れ落ちて、よかったと思う。
なぜなら、崩れ落ちる前。俺の首があった場所に蜘蛛の前足、爪が伸びていたから。
その爪は異様なほどに禍々しい。太くされど鋭く、樹を貫き俺の頭を正確に穿つ軌道だった。
その事実に、恐怖で体が暴れだす。俺の意思とは関係なく、悲鳴を上げながら走り出した。
森の中をひたすらに走る。後ろからメキメキと樹をへし折りながらナニかが近づいてくる。そんなヤツは一匹しかいない。あの巨大蜘蛛だ。
あの巨体で、木々が邪魔して少しはスピードが落ちるかと思ったが、そんなことはなかった。
物凄い速さで追ってきている。怖い。その感情で頭が一杯だ。
がむしゃらに走っていると突然木々の折れる音が止んだ。続いて、俺の頭上をナニかが通りすぎる。
そして、飛来した何かは轟音を立てながら俺の目の前に着地した。
「は、はは。ふざ、けんなよっ」
蜘蛛が俺を飛び越し、退路を塞いだのだ。その口はカタカタと心底嬉しそうに嗤っている。
「か、【鑑定】」
俺は咄嗟に、蜘蛛のステータスを観てしまった。
絶望すると、分かっていたのに…
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
種族:神取蜘蛛
level:2413
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
もう、笑うしかなかった。
お読みいただきありがとうごさいました。
次はもう少し早めに出します。