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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Legacy

 人間は邪龍(じゃりゅう)を大地に封印し、その封印を守るための社を東西南北の4ヶ所に建てた。ドス黒く異臭を放つ泥が大地の底から止め処なく湧き出し、邪龍の怨念の深さを物語っていた。


 そこで人間は邪龍の好物であったという酒と祈祷を捧げ、鎮魂に努めた。やがて泥は止み、紫色の蓮華が咲き乱れると大地を埋め尽くした。紫一色に染まったその土地を人々は『紫ヶ丘(むらさきがおか)』と名付けた。


─────

───


「建てられた4つの社には邪龍を封印した人間の名前が付けられて、邪龍の怨念を鎮めるために供えられた酒の製造を担うとった酒蔵(さかぐら)は村の名前を『神酒円(みきまる)』ちゅうんに変えたんやで」


 ひと通り話し終え、日輪(ひのわ)が甘酒を啜る。いま自分たちがいるここも、花火大会で訪れた結月大社(ゆづきおおやしろ)も、邪龍という天災に匹敵する存在の封印を守るための神社だったのだ。話の壮大さについてゆけず、千歳(ちとせ)紗奈(さな)は唖然としている。


「坊や、お嬢さん、神酒円の地から離れたところにある山はわかるかい?」


「はい、龍慈山(りゅうなりやま)・・・ですよね?たしか」


 そこへ一人の老婆が歩み寄り、千歳と紗奈に問いかけた。千歳が山の名前を答えると老婆は感心したようにうんうんと頷く。


「邪龍が封印され、白龍は姿を消してしまった。酒蔵の人々は村を救ってくれた恩人を忘れぬように、白龍が棲んでいた山にその名前を付けたのよ」


 老婆の話を聞き、千歳と紗奈が『へぇ』と声をあげながら感心している。その隣で日輪が意外そうな表情を浮かべていた。


「あら、おばあちゃん珍しいなぁ。よそ者に話しかけるやなんて」


「近頃の子たちは昔話なんぞに興味を示さん。だから日輪ちゃんの話を黙々と、真面目に聞いてる若者を見てたら嬉しくなってのぉ」


 そして老婆は千歳と紗奈に笑顔を向ける。この境目(さかいめ)町に来てはじめて、敵意のない優しい眼差しに出会った。


「いま日輪ちゃんが話していた昔話はワシも親や祖父母から聞いたもの、坊やたちの子供にも聞かせてくれたら嬉しいねぇ」


「「───はい。」」


 千歳と紗奈は顔を見合わせ、揃って笑みを浮かべながら頷く。


「ほっほっほ、さて、邪魔したね。ワシはそろそろ行くとするよ、ところで・・・少年(ボン)や、名前はなんて言うんだい?」


長門(ながと) 千歳(ちとせ)です」


 老婆は満足気に笑い、この場を立ち去ろうとするがその前に千歳の名前を尋ねた。千歳が名を名乗ると老婆は一瞬驚いたように目を見開き、すぐに穏やかな表情に戻る。


「そうかいそうかい、長門の・・・わかったよ。村の者たちには言っておくから、ゆっくりしておいき」


「あ、ありがとうございます・・・」


 千歳がお辞儀をすると老婆は立ち去り、日輪が笑みを浮かべながら千歳と紗奈の方を向いた。


「よかったなぁ。あのおばあちゃん、古茶(こちゃ)さん言うてこの村でお偉いさんやさかい、あんさんらをけったいな目で見る村の人も減る思うで」


 あの謎の敵意に満ちた眼差しを向けられながら帰り道を歩くことに億劫な気持ちを抱いていた千歳はその言葉に安堵の表情を見せる。


「それはよかったです。あと、日輪さんもありがとうございます。巫女さんのお仕事忙しいでしょうに・・・」


「あー全然気にせんといてな。ここへお参りに来る言うたら、村の人たちくらいやさかい。ウチ一人がこうして千歳はんたちとお話しててもどうってことあらへんよ」


 日輪が高笑いしているとそこへ若葉(わかば)と双子姉妹が屋台で買ったであろう食べ物と飲み物を持って戻ってくる。


「あれ、若葉ちゃんそれって焼きおにぎり?」


「はい、むこうで屋台出てるので買ってきたらいいのです」


 朝食を摂っておらず、千歳は空腹であった。若葉の持っている竹皮の包みを目にすると立ち上がり、紗奈になにか買ってくるか尋ねると千歳と同じものでいいと言われ、千歳は屋台の集まっている境内へと歩いて行った。


 焼きおにぎりの屋台へ向かう途中で見覚えのある女性を見つけ、その女性は千歳の顔を見ると駆け寄ってきた。


「長門・・・千歳」


「はい、そうですけど・・・あっ」


 千歳は思い出した。紫ヶ丘での天翁(てんおう)たちとの戦いの後、若葉を家まで送った時に若葉を抱えた日輪に呼ばれて家の扉を開けた女性である。一瞬ではあるが扉の隙間から顔を見合わせていたのであった。


「若葉ちゃんの・・・えっと」


「姉、(たちばな) 月詠(つくよ)。日輪姉ちゃんの妹」


 女性はゆっくりとした口調で名を名乗り、腕を回せば抱擁できそうな程にまで千歳に接近した。


「どこか行くの?」


「えっと、朝ごはん食べてなくてお腹空いちゃって・・・」


 千歳は以前の花火大会で食べてから屋台の焼きおにぎりが気に入り、この北の結月大社でも屋台が出ているので買いに行くことを告げると月詠はコクコクと頷いた。


「ないすちょいす、あそこはずっと昔からここで屋台を出してる」


 月詠はそう言うと千歳の服の袖をクイクイっと引っ張り、ここの初詣にはじめて来た千歳にオススメの屋台を教えるからついてきてと言ってきた。巫女服姿の月詠に千歳が仕事は大丈夫なのか聞くと、『よゆう』と言って得意げに両手でピースサインをした。


─────

───


「この焼き鳥屋は肝が美味い・・・」


「おっ、橘の嬢ちゃん嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか!ほれ、1本サービスだ!」


 自分と紗奈の分の焼きおにぎりを買い、次に千歳は月詠に焼き鳥の屋台につれてこられた。店主から焼き鳥を1本もらい、月詠は両手を上げて喜びを表現すると焼き鳥を食べ始める。千歳がメニューを見ながら悩んでいると険しい表情で店主が話しかけてきた。


「お前さん、長門んとこの坊ちゃんか?」


「え!?は、はい・・・」


 初対面であるはずの店主に苗字を『坊ちゃん』付けで呼ばれ、千歳は思わず身構える。目の前の少年が千歳だということがわかり、店主はニカッとした笑顔を浮かべた。


「古茶の婆さまから話は聞いてるからよ、好きなもん頼んでくんな!」


「あ、はい。それじゃ・・・」


 千歳が2人分の焼き鳥を注文すると店主は『焼きたてを渡す』と張り切って鶏肉を焼き始め、待っているあいだ千歳は月詠と共に別の屋台にやってきていた。


「橘の嬢ちゃん、いらっしゃい!と、そちらは・・・」


「長門 千歳、私の友達・・・」


 クレープの屋台で訝しげな表情の店主に月詠が千歳の名前を教えると、店主は『あぁ!』と手をポンと叩いてにこやかな笑みを浮かべた。


「あなたがそうでしたか、古茶さんから伺っておりますよ。さぁさ、どうぞご注文ください!」


「それじゃですね・・・」


 クレープを2人分注文するとこの屋台でも『出来たてを』と店主に言われ、千歳は月詠と屋台を見て回っていたがまた別の屋台の店主から声をかけられる。


「長門の坊ちゃん!ジュースいらないかい!?」


(ボン)、雑煮食え」


「坊ちゃん!お面持ってって〜!」


─────

───


「た、ただいま〜・・・」


「おかえりちぃちゃ・・・どうしたのその量!?なにそのお面!?」


 買い出しを終え、紗奈のいるベンチに戻る頃には千歳の両腕の手首に食べ物や飲み物が入った袋が提げられており、頭にはお面を付けていた。そんな千歳の姿を見た日輪が声をあげて涙を浮かべるほど笑っている。

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