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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
98/155

The new year

 3……2……1……


『ちぃちゃんあけましておめでとう!』


 時刻が午前0時になり、年が明けたと同時に紗奈(さな)からRAIL(レール)のメッセージが送られてきた。千歳は『ふふっ』と微笑み、メッセージの文章を打っていく。


『あけましておめでとう、今年もよろしくね紗奈ちゃん』


 千歳(ちとせ)がメッセージを返信するとリビングには長門(ながと)家の家族全員が揃って新年を迎えており、互いにお辞儀をして新年の挨拶をした。そして千歳と双子姉妹は早朝から初詣のため、自室へ戻ると眠りについた。


 翌朝、眠そうな妹たちと外に出た千歳は隣の椎名(しいな)家のインターホンを鳴らし、扉から紗奈が出てくると千歳たちのもとへ歩み寄る。


 年明けの瞬間、千歳と紗奈はRAIL(レール)のメッセージで挨拶をしていたが顔をあわせ、あらためて新年の挨拶を交わす。そこへ紅葉(もみじ)青葉(あおば)も駆け寄り、紗奈の腕に抱きつきながら同じように新年の挨拶を交わした。


 年末頃に若葉(わかば)の姉である日輪(ひのわ)と会った際に正月は結月大社(ゆづきおおやしろ)で巫女のアルバイトをしていると聞き、正月の初詣にぜひ来てほしいと言われていたのだ。別れ際、地味に遠いから着物で来るのはやめた方がいいと言われていたのでみんな私服である。


 アメリカへの出発前や花火大会にも訪れていたため馴染みのある神社のはずなのだが、千歳は日輪からもらった地図に記されている結月大社の場所が自分の知っている場所と違うことに戸惑う。一瞬、巫女や関係者だけが知っている近道を使うのかと思ったが明らかに方向が違うので悩んでいると紗奈が横から千歳の持っている地図を覗き込んだ。


「あーこれ()()結月大社だね」


「え、紗奈ちゃんわかるの?」


 紗奈は千歳から地図を受け取ると先導して歩き出し、千歳と双子姉妹は後ろについていく。


 出発してからしばらく経ち、千歳たちの住む神酒円(みきまる)町の住宅街から風景がガラッと変わった。地図を見ると今いる場所は"境目(さかいめ)町"とあるが、"町"というよりは"村"である。人々に訝しげな視線で睨まれ、千歳たちは不気味に思いながらも歩を進めるとついに目的地に到着した。


 神額(しんがく)にも『結月大社 北』と印されており、大晦日だというのに人も少なかったので千歳たちは早速お参りを終わらせ、ベンチに座り込んで歩き疲れた身体を休めているとそこへ一人の巫女服姿の女性が駆け寄ってきた。


「千歳はん、お嬢さん方もあけましておめでとうございます。結月大社にようこそおいでやす〜」


 聞き覚えのある声に振り向くとそこには巫女服に身を包んだ日輪が立っており、似合い過ぎる装いに千歳も紗奈も思わず『おぉ』と感嘆の声をあげながら拍手した。


「ぐぁっ!?皆さん、なんでここに・・・?」


 その後ろでは巫女服姿の若葉が千歳たちの存在に両手をあげて驚き、逃げるように走り去っていく若葉を紅葉と青葉が笑い声をあげながら追いかけていった。その様子を微笑ましく眺めながらも先程と同じように周りの人々からの異様な視線を感じ、千歳は思わず身構えてしまう。


「ほらほら、この子たちはウチの友達やさかい、怖がらせんといや〜」


 日輪が声をあげると人々はそそくさと視線を逸らし、千歳と後ろに隠れていた紗奈は安堵した。


「ほんま堪忍な、ここって人少ないから穴場なんやけど、村の人たちがよそ者好かんさかい」


「なるほど・・・」


 駐車場も無くバスも走っていない、交通が不便なのは実際歩いてきてわかってはいた。それにしても人が少なすぎると千歳は不思議に思っていたが今の日輪の言葉で納得した。道中やこの結月大社でも周りの人々から敵意に満ちた視線で睨まれながらお参りをするのはいくら人混みを避けたいからと言っても生きた心地がしないだろう。


「それにしてもちょっと驚きました、結月大社って言ってたんでいつも行ってる所に行こうとしたら方向がまるっきり違かったので」


「あんさんらが住んでるとこからやと西の方やんな、うちも説明するの忘れとったわ」


 日輪は自分の額を掌で軽くポンと叩き、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。


「紗奈ちゃんのおかげで辿り着けましたし、気にしないでください。同じ名前の神社が2つあるっていうのは少し驚きましたけど・・・」


「正確に言うと4つやね、東西南北の4つ」


 2つでも戸惑っていたというのに更に2つ、合わせて4つの結月大社があると聞いて千歳は驚き不思議に思った。


「もしかして千歳はん、興味あったりするん?なんで結月大社が4つあるのか」


「まぁそりゃ・・・ありますよ」


 千歳の答えを聞いて日輪は嬉しそうにニヤニヤと笑みを浮かべ、一度その場から離れると両手にコップを持って戻ってきた。そして千歳と紗奈にひとつずつ渡すとコップの中身は暖かい緑茶であり二人は日輪にお礼を言う。そして日輪は千歳の隣に座り、どこから取り出したのか手に持っているコップから暖かい甘酒を啜るとこの結月大社ができた経緯(いきさつ)を語り出した。


─────

───


 遥か昔、とある山に一柱の白龍が棲んでいた。山麓の平野には大きな集落があり、酒造が盛んであったことからそこを『酒蔵(さかぐら)』と呼んだ。白龍は異形や妖魔たちを村から遠ざけることで平穏をもたらし、酒蔵の人々から村の守り神として愛されていた。


 しかしある時、龍たちの長である"邪龍(じゃりゅう)"が瘴気で大地を穢し、酒蔵は疫病に見舞われてしまう。病に倒れ、苦しみ、ついには死んでいく人々を目にした白龍は哀しみを覚え、自らの力を大地に捧げると瘴気に穢された大地を浄化し、これを鎮めた。


 同胞の裏切りに激昂した邪龍は酒蔵と裏切り者である白龍を自らの手で滅ぼさんと大地に降臨した。山よりも大きなその姿に人々は恐れ慄くが、邪龍を討ち倒したのはある一人の人間であった。

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