Xmas
文化祭が終われば特にこれといった行事も無く、期末テストも乗り切った千歳は冬休みに入った。そしてこの日はクリスマス、両親は夫婦水入らずで朝から外出している。妹たちも橘家のクリスマスパーティーに呼ばれ、出掛けて行った。
「「メリークリスマ〜ス!!」」
千歳はというと自宅のリビングで紗奈と二人きりで夕食を楽しんでいた。ケーキとローストチキン以外の料理は紗奈の手作りであり、キッチンで料理をする紗奈のエプロン姿を時おり思い出しては千歳の顔がにやけてしまう。そこへ紗奈がテーブルに身を乗り出し、手に持っているローストチキンを千歳に向けて差し出した。
「ちぃちゃん、『あーん』するのです」
「あ、あーん・・・」
紗奈に言われるまま千歳は照れ気味に口を開けるとローストチキンに齧り付き、肉を食いちぎると『もぐもぐ』と咀嚼して味わう。座り直した紗奈が『おいしい?』と首を傾げると千歳は『おいしい』と頷いた。
そして千歳も自分のローストチキンを手に持つと身を乗り出し、紗奈に向けて差し出すと『あーん』と言う。紗奈は嬉しそうに口を大きく開け、同じようにローストチキンに齧り付くと肉を食いちぎった。満面の笑みを浮かべて『美味しい』と言う紗奈に千歳も思わず笑みが溢れる。
『この幸せな時間がずっと続けばいいのに───』
そんなことを思いながら紗奈は儚げな表情を浮かべ、千歳が心配して尋ねても紗奈は『なんでもない』と言って明るい笑顔を見せた。
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関西の高級レストラン、その個室では正装の千晶と桐江が向かい合ってテーブルに座っている。そしてウェイターが二人のグラスにドリンク(高級のぶどうジュース)を注ぎ、二人はグラスを合わせて乾杯する。
次々と現れる味わい深い料理に感心しながら桐江は不思議に思うことがあり、千晶に問い掛けることにした。
「なぁ千晶、なんで毎年ウチをクリスマスに誘うん?アンタモテるんやから、好きな女子誘ったらええやんか」
「・・・家とか生徒会が忙しくてクラスの女子と恋愛してる余裕ないよ、特に今年は親父が帰ってきたからな」
千晶の答えに桐江は『あー』と納得し、今度は千晶が桐江に問い掛けた。
「桐江こそ、大学に進学するのか?」
「せやね〜ウチって学生やからアルバイトやんか?『大学卒業したら正式に就職せんか?』て千晶のお祖母様から言われてるんよね、せやからこのまま進学かなぁ。ウチ、使用人の仕事気に入ってるし」
桐江は高校3年生であり、進路によっては彼女が使用人を辞めてしまうのでは無いかと千晶は不安に思っていた。しかし桐江は辞めないどころか使用人の仕事を『気に入っている』とまで言ってくれたことに安堵し、思わず表情が緩んでしまう。
「ふっ、なんやその表情。もしかしてウチが辞めるとか思ったん?千晶坊ちゃんは私がやめると寂しいですか?」
「あぁ寂しいね、桐江にいなくなられたら俺は困る」
その表情を見た桐江がからかうようにニヤニヤと笑い、メイドの時の口調で問い掛けると千晶は即答した。
「まったく、メイド離れせんとウチが千晶のお嫁さんになってまうで?」
「そうだな、そうなってくれれば嬉しい」
千晶がまたも即答で返し、桐江は戸惑いの表情を浮かべる。
「な、なんや今日はやけに素直やな、どないしたん・・・?」
「いや、今日はクリスマスだからさ。たまにはこうやって素直になるのもいいよなって思っただけさ」
そう言って千晶はグラスのぶどうジュースを一気に飲み干し、喉を潤すと真剣な眼差しで桐江を見詰めた。
「桐江、俺はお前が好きだ。メイドとしてじゃなく、妻としてずっと俺の傍にいてほしい」
「・・・」
突然な千晶の告白に桐江は驚き、唖然としている。桐江も幼馴染みとして意識はしていたが千晶は名家『開賀』の当主、学生の身でありながらその大役を背負う彼を傍で見守ることしかできず桐江はもどかしい思いをしていた。そんな自分が今、千晶から愛の告白を受けていることに戸惑いを感じている。
「ウチは、アンタを見守ることしかできんかった女やで?それなのに・・・」
「桐江も案外、恋には鈍感なのかもな。君が傍にいてくれたおかげで、俺がどんなに救われたか。だから俺は桐江を手離したくない」
千晶はそう言いながら手をそっと桐江に向けて差し伸べた。
「だから桐江、俺と結婚を前提に付き合ってくれ」
「っ!ど、ド直球すぎるやろ・・・」
ドラマや漫画などで見るキザな言い回しや回りくどい告白とプロポーズに桐江は苦手意識を抱いており、もちろん千晶はそのことを把握している。だからこそ千晶は素直な気持ちを桐江に告白したのだ。桐江は頬を桜色に染めながら胸を高鳴らせ、差し伸べられた千晶の手を両手でギュッと握った。
「こ、こちらこそよろしくお願いします・・・」
「よっっしゃあぁ!!!」
桐江の返事を聞き、千晶は喜びのあまりに叫んでしまう。その次の瞬間、桐江の平手打ちが千晶の頬を直撃した。
「やかましいわ!」
「へぶっ!」
叫び声の直後に『パァンッ!』という小気味よい音が響き、何事かとウェイターが慌てて駆けつけると千晶が『大丈夫』とヘラヘラ笑っており頬には赤い紅葉の跡がついていた。気まずい雰囲気なのかと勘違いしたウェイターが『失礼致しました』とおずおずしながらその場を後にする。
静かになった個室で千晶と桐江はたまらず吹き出してしまう。
「絶対修羅場かなんかと勘違いされたやん、アレ・・・」
「そうだな、見ての通りのおしどり夫婦なんだけどな」
千晶と桐江は見つめ合うと小さく笑い、グラスを持つとあらためて乾杯をした。
「これからも末永くよろしくな、桐江」
「まずウチを名前で呼ぶとこからやな、坊ちゃん」
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澪と付き合いはじめ、初めて迎えるクリスマス。千悟はなぜか待ち合わせの時間より早く櫛田家に呼ばれていた。そしてリビングに通されるとテーブルに座り、向かいには澪の父親と思われる男性が座っている。
「君が澪の恋人か」
「はい、狭間 千悟です。はじめまして」
千悟は名前を名乗り挨拶をすると礼儀よくお辞儀をし、それが好印象を与えたのか男性の険しい表情が少々緩む。
「狭間くん、澪には君から告白したそうだが。娘のどこに惚れたのかね?」
向かいの男性はやはり澪の父親であり、聞かれたことに対して誠意をもって答えなければと千悟に緊張が走る。
「きっかけはちょっとした事です。中学の時にふと見た彼女の笑顔に一目惚れしました」
「なるほど、見たところ君はモテそうだが澪の前から付き合っていた子はいるのか?」
「いません、澪さんがはじめての恋人です」
千悟の即答に澪の父親は意外そうな表情を浮かべ、『ふむ』と声をあげながら両肘をテーブルにつきながら手を顔の前で組んだ。
「知っていると思うが澪はとても大人しく、優しい子だ。娘がどのような男と付き合っているのか、気になるのは親としての人情だと理解してくれるね?」
「はい、もちろんです」
二人の雰囲気に離れて見ている澪と澪の母親にも緊張感が走り、父親は一瞬、澪の方を見ると千悟を厳しい表情で睨んだ。
「親にとって、子供は宝だ。もし君が娘を悲しませるような男であったなら・・・」
「澪さんは僕の想いを受け入れてくれました、僕は彼女を・・・いや、彼女と一緒に幸せになります」
親として子供を守りたいのは人情であると理解しているうえで千悟は父親の言葉を遮り、自分が澪と共に添い遂げることを誓った。その嘘偽りない眼差しと言葉に込められた感情に澪の父親は安堵したかのように表情から険しさが無くなっていき、穏やかな表情で澪の母親と目を合わせると微笑みながら頷き合った。
「澪、千悟くん、せっかくのクリスマスだというのにすまなかったね。俺からの話は終わりだ」
そう言って澪の父親は立ち上がるとリビングから玄関へと通じる扉を開く、そして口を開いて大きな声で叫んだ。
『二人とも、行ってよしっっっ!!!!!』
その勢いに思わず千悟は頭を深々と下げ、『ありがとうございますっ!』と同じくらいの大声を張り上げると澪と共に櫛田家を後にした。
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一方その頃、千尋は美琴と共にクリスマスの街に繰り出しておりイルミネーションに彩られた風景を眺めながらデートを楽しんでいた。
美琴の進路希望は進学、関東の大学に推薦で合格しており、この日も千尋は美琴の合格祝いも兼ねて高級レストランのディナーを予約していた。
美琴は楽しそうな笑顔を見せることも多くなり、千尋は自分たちが幼く無邪気だった頃のことを思い出す。
「今なら"みこ姉ちゃん"って呼んでもいいですかね?」
「っ!は、恥ずかしいからダメだ」
『ですよね』と少し残念そうにつぶやく千尋であったが腕に美琴が抱きつき、そっとつぶやく。
「"美琴"って、呼んでくれたら・・・嬉しい」
「い、いきなり呼び捨ては俺も恥ずかしいですね」
千尋は頬を赤らめ、『そうだろう?』と美琴も頬を桜色に染めた。そして二人は笑みを浮かべ、お互いの体温を感じながら夜の街を歩いていった。




