Another Sister
日曜日、千歳と若葉の乗ったバスがショッピングモールの前に到着し、二人が降りるとこの日は映画を観るようで若葉がチケットを千歳に渡す。チケットには『キャプテン・ドラゴン』の題名が描かれており、千歳は一瞬固まった。
(あ、この子も紗奈ちゃんと同じ趣味か!)
そう思いながら千歳は若葉に引っ張られ、映画館の劇場へ入っていく。
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『私の名はキャプテン・ドラゴン!お前たちからこの街を守る者だ!』
キャプテン・ドラゴンの登場シーンで若葉の左手が千歳の右手を興奮で握る。
───ちょっと痛いかな。
『貴様程度の龍脈では俺様には勝てん!』
『龍脈は力の強さではない!龍脈とは心の強さだ!』
キャプテン・ドラゴンとヒュドラの派手な戦闘シーンでも握る。
───あ、ちょっと力強まってきたかな。
『ドラゴン!パアァァンチ!』
戦闘シーンのラストでキャプテン・ドラゴンが必殺技でヒュドラを倒すところでも握る。
───痛い。前にもこんなことあったような?
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「いやーすごかったですね、千歳先輩!今作の戦闘シーンの派手さは!」
興奮が止まないのかずっと若葉が映画の話をしており、映画を観終わった二人はファミレスで昼食を摂っていた。
「やっぱ毎回違うの?」
「え、違うでしょ?」
(そんな『なんでそんな当たり前のことを聞くの?』みたいな顔・・・ていうかやっぱり紗奈ちゃんと話が合いそうだな・・・)
そんなことを思いつつ若葉の話を聞きながら、彼女が明るく振舞っている様子を見て千歳は安心する。
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食後にショッピングモールのテラスで待つ若葉のところに、千歳がアイスクリームが入ったカップを2つもって来て1つを手渡す。アイスをひと口食べると『美味しい♪』と満面の笑みを浮かべ、次に若葉は『あっ』となにかを思い出したかのように声をあげてすぐ真面目な表情になり、話を切り出す。
「千歳先輩、今日はその・・・ありがとうございました。急なお誘いなのに来てくれて、おとといの夜にあんなことがあって、とにかく誰かと一緒に遊びに行きたいなって思ってて」
「あー別に、俺も暇だったし。でも妹達じゃなくてよかったの?」
そもそも千歳は今日、双子姉妹たちも誘われているだろうと思っていたが実際は千歳と若葉の2人だけであった。
「あー・・・えっと、実を言うと今日は千歳先輩に甘えたい気持ちがあったんです。兄妹みたいな感じで、紅葉ちゃんと青葉ちゃんのように」
若葉が照れながら言うと千歳も少し照れくさそうにしながら、今日の若葉が明るく振舞っているのは甘えてくれていたのかと思い返す。
「それに、怖いことがあったこの場所も千歳先輩がいれば怖くないって、自分の恐怖心に対するリベンジみたいなものでもあったんです。そしたら私の理想通り、この場所は楽しい場所なんだって印象が変わりました」
若葉はそう言いながらアイスの入ったカップを見つめ微笑む、そして千歳の方へ顔を向けると満面の笑みを浮かべ───
「今日このあと、行きたいお店があるんです。付き合ってくれますか?」
「あぁ、もちろん」
若葉の誘いに千歳は当たり前と言うように返事をする。若葉は『にひひ』と笑うとカップに残っているアイスを一気に頬張り、その冷たさに『んー!』と声をあげながら空になったカップをゴミ箱に捨てる。そして早くアイスを頬張るよう千歳に催促し、アイスを食べ終えた千歳の手を若葉が引いて歩き出した。
血は繋がっておらずとも、2人は仲の良い兄妹のようだった。
若葉に連れられた先は水着屋であり、千歳は試着室の側のベンチに頬杖をついて座っている。そして若葉は先ほど水着を数着持って試着室に入っていった。
(まさか水着の店に連れてこられるとは。)
そう思いながらひとつため息をつくと試着室のカーテンが開き、水着に着替えた若葉が姿を現す。
「どうですか、千歳先輩!似合います?」
「ん?いや、まあ・・・似合うんじゃないの」
そうは言いながらも自分の方を向かない千歳に若葉は頬を膨らます。
「こっち向いてないじゃないですか、ちゃんと見てくださいよ!」
そう言われ千歳は横目で若葉の水着姿をチラッと見るとすぐに視線を逸らす。
「ちゃんと見てくれないと千歳先輩にはものすっごくダサい水着選びますよ?」
「待って、俺のも選ぶの!?」
千歳が思わず若葉の方をバッと向くと、水着姿の若葉が思いっきり視界に入ってしまい赤面する。
「え、千歳先輩もしかして女の子の水着姿見るの恥ずかしいんですか?」
若葉が唖然としながら聞くと千歳は再び顔を背ける。
「そ、そうだよ、だって露出度が高いじゃんか。妹たちのは、ほら・・・妹だし」
「なーんだ!それなら私だって妹みたいなもんなんですから、気にしないで見てくださいよ『兄さん』!」
そう言いながら水着姿のまま抱きつこうと寄ってくる若葉を千歳は必死に制止する。
「誰が『兄さん』だ!こら!店のもの着た状態で抱きつかない!」
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バスが家の近くのバス停に止まり、買い物袋を持った二人が降りる。あのあと店員さんにも立ち会ってもらい若葉の水着を選んだあと千歳の水着は若葉が選んだのだが、若葉の選んだ水着を見た時の店員の引き攣った顔を千歳は忘れられないでいた。
「それじゃあ、私はここで」
「家まで送っていかないで大丈夫?」
買い物袋を渡しながら千歳が聞くと若葉は微笑み、得意気にピースサインを見せた。
「大丈夫ですよ、ここからなら近いですし。それに、なにかあっても私ひとりなら走って逃げますから。それに、なにかあったら千歳先輩が助けに来てくれますよね?」
「あぁ、それはもちろん」
千歳も自信ありげに言ったあと、若葉がもじもじとしだす。
「あとですね、その・・・妹さんたちみたいに千歳先輩のこと呼んでもいいですか?」
目をギュッと瞑りながら若葉が聞くと、千歳はきょとんとした表情で。
「え、いいよ別に。好きなように呼びなよ」
それを聞いて若葉は満面の笑みを浮かべながら会釈をして家の方向へ小走りしていく、時々振り返っては手を振ってくるので千歳も若葉の姿が見えなくなるまでそこに留まり手を振り返していた。