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ナガトとの戦いを終えた千歳は紗奈の影が視える紫ヶ丘に向かって駆け出していた。
───あの時の俺は、紗奈ちゃんを守ることができなかった・・・
千歳は視界に映る紗奈の影を見据えながら幼き頃の記憶を思い起こす。
───だから・・・今度こそ!
そしてナガトとの戦いの中で芽生えた覚悟が、あの白い部屋で出会った少女との約束が、千歳の身体と心を奮い立たせる。千歳の思いに呼応するかのように左眼の変異した霊写しの眼が眼光と共に波動を放ち、黒と白の龍脈が渦を巻くと千歳の身体を覆った。
───力が欲しい。あの子が寂しがっている時、傍にいてあげられる。あの子が危機の時、すぐに駆けつけてあげられる。そんな力が・・・!
心の中でそう願いながら飛び立つように強く大地を蹴ると千歳の姿が龍脈の粒子と共に消え、空から巨大な岩の残骸が雨のように降り注いだ。
─────
───
─
紗奈に向けて鎧の男が刀を振るい、その行く手を阻むかのように黒い影が渦を巻いてその中からひとつの黒い人影が姿を現すと棒状の黒い影で鎧の男の一振を防いだ。
「おもしろい小僧だ、名乗ってみろ。」
「長門───千歳」
鍔迫り合いの中、黒い人影───千歳は黒と白の眼差しで鎧の男を睨みながら名乗った。二人の視線は交差し、イザナミの拘束が解けた鎧の男は後ろへ退がる。
身に纏っていた黒い影が晴れ、千歳の姿が露になると紗奈が背後から歩み寄る。そして紗奈は千歳の名前を呼んだ。
「ちぃちゃん・・・」
その声に千歳が後ろを振り返ると紗奈の顔が視界に映り、安堵のあまり一筋の涙を流す。
───今度は、間に合った・・・
千歳は涙を拭きながら周りを見渡し、親友たちの無事を喜んだ。千尋たちは突然この場に姿を現した千歳の右眼に星映しの眼が開眼していることに動揺する。
「御前は千歳・・・だよな、ナガトじゃないよな?」
思わず千尋がこのように問い掛けると千歳は『ふっ』と微笑んだ。
「俺は千歳だよ。」
そう答えながら千歳は千尋たちの後方に見慣れた顔を見つけた。
「父さん・・・?」
千歳の父、玄信は息子に歩み寄ると名前を呼ぶ。『どうしてここに?』と、玄信は問いたいところであったが自分がこういった異形や妖魔、神秘が現れた際の状況に携わる危険な仕事をしていることを子供たちに話していなかった。
千歳も自分たちがイザナミや天翁とその同志たち、そして星霊降臨によって現世に召喚された星霊と戦うことを話していなかった。二人の間になんとも気まずい沈黙が流れる。
「貴様、再びあのようなふざけたものを落とすのであればただではおかんぞ。」
天翁が釘を刺すかのように言うと鎧の男は声をあげて笑った。
「安心しろ、そもそもあんなものを落とすよりも俺が戦った方が速い。」
まるでなだめるかのように言葉を返すと鎧の男は力を練り上げ、両眼の魔眼からは眼光が放たれる。ただならぬ雰囲気を感じた千歳が正面へ向き直すと巨大な白銀色の龍が鎧の男を覆うように具現化していた。
「阿修羅か・・・!」
「お前も使えるのだろう?」
鎧の男はさも楽しげな笑みを浮かべる。千歳の黒い龍脈は龍の姿を象り、千歳と紗奈を守るように具現化した。
「紗奈ちゃん、俺から離れないで」
そう言って千歳は紗奈の身体を抱き寄せる。紗奈は頬を赤らめながら『うん!』と強く頷いた。
鎧の男の変異した両眼の魔眼から眼光が放たれ、白銀色の阿修羅が具現化を完了すると威圧の咆哮をあげる。千歳の黒い阿修羅も咆哮をあげ、双方ともに臨戦態勢であった。
「さぁ来い、長門の末裔よ。お前の力、長門家初代当主であるこの長門 弌月が見定めてやる!」
黒と白銀の阿修羅が睨み合い、剣を振るった。その剣戟は辺りに金属質な音を響かせると共に暴風を巻き起こす。玄信は息子の千歳が突然この場に現れたこと、なによりも阿修羅を発現し、弌月と渡り合っていることに驚きを隠せずにいた。
しかし弌月の阿修羅は両手に握られた剣による卓越した剣技で千歳の黒い阿修羅を追い詰めていく。すると千歳の右眼に宿る星映しの眼が眼光を放ち、白銀色の阿修羅が千歳の身体から発現すると二体の阿修羅は共に弌月へ斬りかかった。自身に刃を向ける二体の阿修羅を見詰め、弌月は感嘆の声をもらす。
「つくづく面白い小僧だ・・・だが!」
迫りくる刃を弾き、弌月が手を合わせると阿修羅も同じように掌を合わせた。すると弌月と阿修羅を覆うように白銀色の影が渦を巻きはじめる。
「アレは・・・龍脈!?ということは───」
練り上げられた龍脈は龍装となり、弌月は自身だけではなく阿修羅にも纏わせる。
「長門 千歳、俺があのアリマと並び"双璧"と称された所以は魔眼だけではない。龍装を纏うことで完全体となった阿修羅をお前に見せてやろう。」
ただでさえ巨大な弌月の阿修羅は龍装の鎧を纏い、神々しさと共に威圧感を放っていた。紗奈は不安そうな表情を浮かべながら千歳の身体にしがみつく。
「大丈夫だよ、紗奈ちゃん。君だけは・・・俺が守る。絶対に!」
千歳は少しでも安心させようと優しく言葉をかけ、その言葉に呼応するかのように、黒と白の阿修羅は猛々しい咆哮をあげた。




