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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Emergency

 突如として空に現れた魔法陣、そこから人間が召喚されたことで周囲の人々がざわめきだした。一般人を巻き込むわけにもいかず、千尋たちがこの場から離れる方法を考えていると近くのショッピングモールや辺りに備え付けられているスピーカーからサイレンが響き渡る。


『緊急事態 緊急事態 紫ヶ丘(むらさきがおか)に緊急事態警報。付近の皆様は速やかにこの場から離れてください。これは訓練ではありません。緊急事態 緊急事態───』


 聞き慣れないサイレンの音やスピーカーから聞こえてくる警報に辺りの人々はもちろん、ショッピングモールの中からも人々が飛び出してきてパニックになりながらもこの場から走り去っていく。


 逃げていく人々とは逆にこちらへ近づいてくる人々もいた。その者たちは黒いスーツに身を包み、映画やドラマで見るような"エージェント"と呼ばれる者達を彷彿とさせる風貌であった。


 やがてこの場には千尋たちやイザナミ、天翁とその同志たち、そしてその周りを囲む黒服の集団だけが残った。突然あらわれた黒服たちに千尋たちは戸惑うが集団の先頭に見慣れた顔があった。その人物こそ千歳(ちとせ)の父親である長門(ながと) 玄信(はるのぶ)であった。玄信も千尋たちに気づき、急いでこの場から逃げるよう促した。


 すると突然、周りを見渡したイザナミが大声をあげて笑いはじめた。人間の口から出されたとは思えない不気味な声色で楽しげに笑っている。


「ふぅ、あー笑った笑った。塵芥どもがいなくなって拍子抜けしたが、またゾロゾロと目の前に現れたじゃないか。」


 そう言ってイザナミは星霊降臨(せいれいこうりん)で召喚した鎧を纏った男の方を向く。


「全盛期の姿で呼んでやったんだ、暴れてもらうぞ。」


 その言葉に鎧の男はゆっくりと振り返るとイザナミを睨んだ。


「小娘が、俺の全盛期を知っていると?」


「いや?だからこそ見せてくれ、かつて"双璧"と呼ばれた力を。」


 イザナミの物怖じしない態度に鎧の男は小さく微笑み、『いいだろう。』と返しながら千尋たちに歩み寄ろうとするがそれを阻むように周囲の黒服たちが鎧の男の前に立ちはだかった。


「下がっていなさい、君たち子供を守るのが私たちの役目だ。」


 そう言って黒服たちは千尋たちを鎧の男から遠ざけるように後ろへと下がらせた、千尋は慌てて前に戻ろうとする。


「無茶だ!星霊の強さは常軌を逸している、それに"双璧"ってことは───!」


「わかってるさ、俺たちが誰を相手にしようとしているのかはな。」


 鎧の男の正体に気づいている玄信は覚悟を決めた表情で黒服の仲間たちと共に鎧の男に立ち向かっていく、そして瞬きをひとつすると両眼が霊写(たまうつ)しの眼に変異した。


「まったく、いつの世も戦いか・・・」


 鎧の男はぼやきながら悠々と歩を進める。その歩き姿からも威圧感が伝わり、黒服たちの中には武器を持つ手が震えている者、恐怖に慄く者、手を合わせて祈る者、励ましの言葉を自身にかけて奮い立たせる者がいた。


 そして鎧の男は武器を持つ者もいる黒服の集団の中に素手で飛び込んだ、四方八方から黒服の攻撃が迫るもそれらを全て見切り、躱し、反撃する。背後からの攻撃にも後ろに眼があるかのように身を翻して躱す。視線を動かし、あらゆる方向からのあらゆる攻撃に対応する。徒手での格闘術が得意な者を除き、武器を持った黒服たちが数十人攻撃を仕掛けたが鎧の男は素手でそれらを一蹴していた。


 鎧の男は素手で戦うことに飽きたのか1人の黒服から刀を1本奪い、斬りかかると玄信が刀でその刃を防ぐ。鍔迫り合いになりながら鎧の男の星映しの眼と玄信の霊写しの眼、二つの視線が交差する。


「その眼───長門の人間か。」


「長門家現当主、長門 玄信です。」


そこから二人は激しく打ち合い、互角かと思われたが鎧の男の徐々に速度を増す剣筋に反応しきれず玄信は後方へ飛び退いた。


「いい腕だ、貴様が当主であらば長門家は安泰であろう。」


「お褒めに預かり光栄です。」


 余裕の笑みを見せる鎧の男に対し、玄信は切迫した表情を浮かべる。そこへ大量の砂が鎧の男めがけて押し寄せ、躱した鎧の男の脚を別方向からの砂が掴み動きを封じた。


千悟(ちさと)ッ!」


「合点!」


 千晶(ちあき)の呼び掛けに千悟が銃を取り出して構えると魔力元素弾(まりょくげんそだん)を弾倉が空になるまで撃ち出した。しかし鎧の男に迫る銃弾は突如あらわれた巨大な腕によって阻まれ、白銀色の影が巨大な龍の姿を(かたちど)り鎧の男を覆うように具現化した。


「ナガトが使ってたアレか、なら───!」


 千晶は鎧の男の脚を掴んだ砂を操り、鎧の男を阿修羅の外の空中へと放り投げた。その先では既に紫電を纏った千尋が手刀を構えていた。


「いけ、千尋ッ!」


雷切(らいきり)───紫電(しでん)!」


 千尋が手刀を鎧の男に向けて薙ぎ払うと紫色の稲妻が一閃する、初代有間の帝釈天(インドラ)の鎧すらも切り裂いた紫電の一閃を鎧の男は刀の一振りで消し去った。


 鎧の男は地面に着地すると紫電を斬り裂き刀身が灼けた刀を放り投げた、そして楽しげな笑みを浮かべながら空を睨む。両眼の星映しの眼は模様が波紋の模様へと変異しており、その視界に魔力の影は映らなくなっていた。

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