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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Monochrome

 千歳(ちとせ)がいなくなり、この白い部屋には紗奈(さな)と目の前に現れた黒い人影の二人だけとなった。紗奈は二人掛けのソファーに腰掛けると隣のクッションを手でポンポンと叩き、『座ったら?』と黒い人影に声をかけた。黒い人影が隣に座ると二人の間に暫くの沈黙が訪れる。


「ありがとう、彼と話す時間をくれて。」


 沈黙を破り紗奈が黒い人影に感謝の意を伝える、言葉は返ってこなかったがその様子から黒い人影がなにを伝えようとしているのか紗奈にはわかっているようであった。


「私もアナタと同じだよ、長門(ながと) 千歳(ちとせ)がいなければ存在することもできない。つまり私とアナタは一蓮托生ってわけ。だから、二人で一緒に彼を見守りましょう?」


 そう言って紗奈は手を差し伸べた、黒い人影が顔を見合わせると紗奈は笑みを浮かべて頷く。そして黒い人影は視線を紗奈の手に移し、その手をそっと握った。


─────

───


 風を切る音と共に千歳とナガトが超高速で移動しながら激しい剣戟を響かせていた、その中で鍔迫り合いになった二人は同時に後方へ跳び退くと刀の刀身に龍脈を纏わせる。


「「断風(たちかぜ)!!」」


 二人が刀を振り下ろすと黒と白の斬撃が飛翔する、衝突した二つの斬撃は渦を巻きながら突風となって霧散した。


(剣術では互角・・・それなら!)


 ナガトは身体に纏った龍脈を巨大な龍の姿へと変化させていく、そして───


阿修羅(アシュラ)───!」


 ナガトの解号と共に阿修羅の発現が完了し、その鋭い眼光が千歳を睨む。千歳はナガトと同じように膨大な量の龍脈を巨大な龍の姿へと変化させていく、そして自分に戦うための"力"と"勇気"をくれたあの白い部屋で出会った二人の少女に心の中で感謝しながら千歳は解号を唱えた。


「阿修羅───!」


 右眼の星映しの眼から眼光が瞬き、千歳を覆うように阿修羅が発現を完了した。千歳の阿修羅はナガトとは対照的な黒い龍の姿で発現し、千歳が龍装を纏った際に現れる黒い龍よりも巨大で不気味な威圧感を纏っている。


 そして千歳とナガトが手をかざすと睨み合う黒と白の龍は手に剣を持ち振り払い巨大な斬撃が飛翔した。放たれた斬撃は衝突すると辺りに突風を撒き散らしそれを合図に二柱の阿修羅はお互いの敵を撃滅せんと剣を振るう。千歳とナガトも刀を構えると駆け出し、剣戟と突風が舞う中で刃を交える。互角の打ち合いを繰り広げる中、ナガトが千歳と距離をとると阿修羅と共に断風を放った。


 すると黒い阿修羅が千歳を覆い、剣を薙ぎ払うと迫る斬撃を二発とも弾き飛ばした。そして千歳が刀を構えると駆け出し、ナガトとの距離を詰めようとするが白い阿修羅が千歳に迫り巨大な剣を振り下ろす。すると右眼の星映しの眼から眼光が瞬き、千歳の黒い龍脈から白銀色の龍脈が滲み出す。そして白銀色の龍脈は龍の姿を(かたちど)り、阿修羅の刃から千歳を守った。


「白い───阿修羅!?」


 その光景にナガトは驚愕の表情を浮かべたが龍脈を纏わせた刀を構えながら千歳が迫ってくる、迎え撃つべくナガトも龍脈を纏わせた刀を振りかざした。そして千歳の左眼の変異した霊写(たまうつ)しの眼が黒い眼光を放つと見覚えのあるその眼差しにナガトは一瞬動揺した。


(あの眼・・・まさか!)


 次の瞬間、まるでワープしたかのように千歳がナガトの目の前に現れると刀を振るう。咄嗟にナガトも刀を振り下ろすが、その刃が千歳に届くよりも速く黒い斬撃がナガトの身体を一閃した。


 傷口からは黒い血が流れており口からも黒い血が垂れ落ちている。龍装と阿修羅も解かれ、倒れないように刀を杖がわりにしながらナガトはその場に膝をつく。


「まさか、二色の阿修羅とはな・・・」


 口惜しげな響きを孕んだ声でそう言いながらナガトは自分を見下ろしている千歳を睨む、千歳は阿修羅と龍装を解き刀を鞘に納めると喜ぶ様子もなくただ憂いを帯びた眼差しをナガトに向けた。


「この星映しの眼は紗奈ちゃんにもらったんだ・・・」


 千歳の口から紗奈の名前が出た瞬間、ナガトは明らかに動揺した。


「まぁ、信じられないよな。こんな話───」


「・・・いや、信じるよ。」


 その反応を見た千歳の言葉の途中でナガトが頷く、そして険しい表情から一変して穏やかな表情で『ふっ』と微笑むと静かに語り出した。


「俺の元いた世界、イザナミになったのは・・・紗奈なんだ。」


 その言葉に千歳は驚愕の表情を浮かべた、ナガトは話を続ける。


「俺のいた世界のイザナミはこっちのイザナミのように星霊降臨(せいれいこうりん)を使うことはなかった。目覚めたイザナミは『命を根絶やしにする』と宣言した、そのとき紗奈の傍にいた俺はイザナミの最初の殺戮対象になった。」


 『殺す』ということを楽しんでいる、イザナミという神に対して千歳はそういった印象を受けていた。しかしナガトのいた世界のイザナミは命に対してなんの感情も抱いていない、『ただ殺したいから殺す』という無機質な殺意、ナガトは紗奈の姿をしたイザナミからそんな殺意を向けられていたのだ。


 そして千歳はふと、ナガトの言葉を思い出す。


『俺が元いたこことは違う世界、そこで俺は伊邪奈美命(イザナミノミコト)を殺したんだよ。』


 長門(ながと) 千歳(ちとせ)という無名の人間が星霊のナガトとなったきっかけ。星の命を根絶やしにしようとした邪神を殺した英雄はその実、愛する人を殺めてしまった哀しき人間だったのだ。

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