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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Meeting

 入学式翌日の土曜日の朝、千歳(ちとせ)と双子姉妹達は父親の運転する車で千尋(ちひろ)の家である有間(ありま)家に向かっていた。この日は長門、有間、椎名(しいな)狭間(はざま)、そしてあともう一家が参加する会合の日である。


 参加者は基本的にその家の現当主、そして次期当主であるが長門家の双子姉妹はそれぞれが自分の得意分野で功績を残しているために、主催の1人である有間家元当主、有間の御隠居からの招待で参加している。主に親睦を深めるのと自身の家の近況報告が目的であるが、先ほどの五家は異形の存在を認知している者達でもあり異形による被害、それらの対応策を考えるためでもある。



 有間家の前に着き千歳と双子姉妹が車から降りると父の玄信(はるのぶ)は車を駐車場に停めにその場をあとにした。チャイムを鳴らすと千尋が出迎え、家に上がった千歳と双子姉妹を大広間まで案内すると襖を開けた。するとすでに狭間家と椎名家の面子は揃って座っており、千歳は部屋の中央の奥に座している御老人、有間の御隠居に挨拶の言葉を述べて横に立っているスーツ姿の使用人、(かい)に土産を渡し自分達の場所に座る。


 そのあとすぐ玄信も部屋に入ってくると魁が有間の御隠居に耳打ちをする、どうやらもう1人の主催である長門家の元当主、長門の御隠居が遅れているようだ。有間の御隠居が『いつものことだ』と呆れながらため息をつき、双子姉妹の方を向く。長門の御隠居が来るまで雑談で時間をつぶすようだ。


「長門家の姉妹よ、高校入学おめでとう。中学同様に高校でも精進と努力を惜しまぬようにな」


 いつも明るい双子姉妹もさすがに有間の御隠居相手には少し怖気づきながら『ありがとうございます』と言いながらお辞儀をする。そして次に有間の御隠居は厳しめの表情で千歳を睨む。


「千歳、お前は未だに目立った功績を上げておらぬが。同じ高校に通う妹達の名を落とさぬように精進せよ」


「はい、努力します。」


 有間の御隠居からの厳しい言葉にも千歳は素直に聞き入れるとお辞儀をして返事をする、姉妹達と比べ特に目立った功績をあげない千歳は以前より実力主義者である有間の御隠居に前から叱責を受けていた。少し重い空気になっていた所に襖がバッと開き、1人の老人が笑いながら入ってくる。


「いやぁ!すまんすまん!遅れてしまった!」


 そう言いながら老人は有間のご隠居の横に座る、この人物こそ長門家の元当主で千歳の祖父である。


「ん?なんだこの空気、千歳~また万歳(ばんさい)になんか言われたか!?」


「いや、別にそんなんじゃないよ、祖父さん」


 長門の御隠居の言葉に千歳が返事をすると有間の御隠居が『ふんっ』と鼻で笑う。


万尋(まひろ)よ、ワシは千歳に優秀な妹達が後輩になるのだから努力をしろと言っただけだが?」


「お前なぁ、俺の孫をいじめるなよ・・・」


 お互いがお互いに呆れたようなため息をつく。


 長門の御隠居、長門(ながと) 万尋(まひろ)


 有間の御隠居、有間(ありま) 万歳(ばんさい)


 この二人は若い頃からこのように言い争っていたらしい、なんでも千歳達が産まれる前は長門家と有間家の両家は対立関係にあったとか。


 万尋の登場で場は和み、乾杯の挨拶を行うとそれぞれの家の膳の上に料理が運ばれ会合が始まった。ただ一つ、誰も座っておらず料理も配膳されていないお膳を見て万尋は『今回もか』と残念そうにぼやく。この場にいる四家の他に、元々会合に参加していたのがもう一家がいるのだがもう何年も会合に参加していない。


 その家にも千歳と同い年の子がおり千歳達と仲が良く、よく遊んでいたのだがある時突然この町から引っ越してしまいそれ以降姿を見せていない。引っ越した先も連絡先も、この場にいる誰も知らないのだ。


─────

───


「昨夜、この近辺に異形が現れたそうだ」


 盃の酒を一口飲み万歳がそう言うと千尋の方を向き、頷いた彼はその時の状況を語り始めた。


「俺が見た時には共食いをするほどに弱っていて、どうやらそいつは俺に斃される前に長門家の人間に深手を負わされていたらしいです」



 それを聞いて千歳は昨夜妹達を襲い自分が撃退した異形が斃されたことにひとまず安心する、そして若葉を自宅に見送ったあと落ちた雷、そして霊写しの眼で視た青白い影の主は千尋であることも理解した。


─────

───



 夕方になり会合が終わると千歳達は有間家の屋敷から外に出た。玄信が駐車場まで車を取りに行き、それを待つ千歳と双子姉妹のところに千尋が歩み寄る。


「千歳、悪かったな祖父さんがまた・・・」


「え、あぁ気にすんな。いつもの事だしそれに───有間の御隠居は間違ってることは言ってないしな」


 それを聞いて千尋はため息をつく、言葉は厳しいが自身はやるべき事はやっており間違っていることは言わない。祖父の性分を理解しているだけに、千尋もなんとも言い難いのだろう。そして車のクラクションが鳴り、玄信の運転する車が来たのを見ると千歳は千尋に挨拶をして双子姉妹と一緒に車に乗る。そのあとすぐは家に着き、千歳達は部屋着に着替えくつろいでいた。


 千歳が居間の冷蔵庫からアイスを取り出し自室に戻ろうとすると玄信に呼び止められ、玄信も冷蔵庫からアイスを取り出して接客間に千歳を招くと二人で向かい合って座った。


「あれでよかったのか?千歳」


 アイスの蓋を開けながら玄信が千歳に問いかける。


「ん?」


「異形を撃退した話、お前に言われたから俺がやったことにしたが。正直に話してれば有間の御隠居だってお前を見直してたかもしれないのに」


 アイスを一口食べながら父親が千歳に問いかける、千歳もアイスの蓋を開ける。


「まあちょっとね、その手の話を聞かせたくない人があの場にいたっていうか」


 千歳もアイスを一口食べながら言い淀む、玄信は『そうか』とそれ以降なにも言わなかった。アイスを食べ終わり自室に戻った千歳が自分の携帯を見るとメッセージが1件着信していた。メッセージの主は若葉で明日遊びに行かないかというお誘いだった、千歳はすぐ『喜んで』と返信し待ち合わせの時間と場所を決める。

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