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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Olden

 体力と天力を使い果たした千尋(ちひろ)は膝をつき息を切らす、そこへ壱陽(いちよ)が歩み寄り不思議そうな目つきで千尋を見つめている。


「なぜだ、今の一振りで俺を殺すこともできたはず。」


「・・・アナタからは一度も殺気を感じなかった。」


 壱陽からの問いに千尋は大きく深呼吸をして目線を合わせようと立ち上がって答える。


「アナタは実力も、神性も俺より上だった。なのにどういうわけか俺の成長を望んでいるかのような戦い方だった、なぜです?」


 千尋に問い返され壱陽は腕を組んで考えはじめる、その様子から戦う意志は感じられなかった。


星霊降臨(せいれいこうりん)によって呼び出される星霊(せいれい)は、全盛期の姿で現世に現れる。俺のこの姿も、"有間(ありま) 一陽(いちよ)"という人間の全盛期の姿に過ぎん。」


 そして壱陽の口からは自身をこの世界に呼び出した星霊降臨のことについて語られた。


「人間である以上、歳をとる。そしていつしか人間の身体はその摩耗に耐えきれず死んでいく。俺も、そしてもう一人の"双璧"───ナガトでさえも例外ではなかった。」


 初代有間と並び称されたもう一人の双璧、初代長門。彼もまた人間であるがゆえに歳をとり、壱陽の言う摩耗によってこの世を去っていったのだ。


「双璧としての役目を後代に継がなければならぬ、そう思い俺たちはお互いの息子たちに後を託したのだ。」


「それが二代目の有間と長門・・・」


 千尋がポツリと言った言葉に壱陽は『そうだ』と頷き話を続けた。


「息子たちは俺たちの期待以上に双璧としての役目を果たしていた。しかし思想が合わなかった二代目が諍いを起こした時、俺たちは衰えてしまっていた。当時の俺たちには───止められなかったのだ。」


 そして二代目の有間と長門は和解することなくその代から対立関係となってしまい、それは千尋と千歳が産まれる時まで続いていた。アリマとナガトが一体どのような心境でこの世を去ったのか、千尋には想像も出来なかった。


「だが、御前を見るに、その心配は無いようだな。」


「・・・えぇ。」


 壱陽の先程までの憂いを帯びた表情は安堵へと変わり千尋も笑みを浮かべた、そして二人の前に空間の裂け目が現れる。壱陽が『行け』と声をかけると千尋は頷き、深くお辞儀をした。


「御指導、ありがとうございました。」


 そう言って千尋は頭を上げると裂け目の向こう側へと歩いていった。残された壱陽は雲が漂う静かな青空を見上げて思いを馳せる、そしてその身体は星の粒子となって霧散していく。


 その中で壱陽はまだ双璧として協力しあっていた息子たちのことを思い出す、その頃から思想が合わずとも『国を守るため』にと掲げていた信念をお互いに認め合っていた。


 そして二代目有間には人を惹きつける才能があり信頼できる仲間たちもいたようであった、この国の平和も安泰なように見受けられた。


 しかしある時、二代目有間は鬼のような形相でこう言い放った。


「二代目長門は災いを大地に封じた、災いは(ことごと)く滅するのが双璧の役目。彼奴(あやつ)はその務めを果たさなかった、長門は双璧に非ず。」


 その頃、国の長であった二代目有間は二代目長門の行動に怒髪天を衝かんばかりの怒りを露わにしていた。


 二代目長門というのはつかみどころがない風や雲のような飄々とした人間であった、国の長を決める際には二代目有間か、二代目長門かという事になったのだが、二代目長門が自ら辞退して議論する間もなく国の長は二代目有間に決まったのである。


 初代から託された"双璧"という役目にも興味無さげであり、それでも二代目有間は自身と並ぶ実力と才能を持つ二代目長門を信頼していたし、親友だとも思っていた。


 しかしその件から二人の間には深い溝が生まれてしまった、そして後世にまで続く因縁が始まりを告げたのである。そのあまりにも深い溝は二人の生涯をもってしても埋まることはなかった、確執は二人の子孫にも引き継がれ長きに渡って両家は対立し続けた。


 だがその対立関係も有間と長門の現当主である道雪(どうせつ)玄信(はるのぶ)によって終わりを迎えた、二人は両家の友好の証としてお互いの御隠居の名前から一文字ずつもらい息子たちに名前を授けた。こうして二代目から続いた因縁を断ち切ることとなった。


 壱陽の抱えていた懸念は此度の戦いで払拭された、これで心置き無く星の記憶に還ることができると胸を撫で下ろす。


(有間千尋、我が末裔よ。御前たちなら道を違えたとしても、もしかすれば───)


 そして千尋に希望を託し壱陽の身体と意識はこの世界をあとにした。

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