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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Ancestor

 千尋(ちひろ)天翁(てんおう)の同志である(かい)の案内で空間の裂け目に足を踏み入れ、その先の世界で鎧の男が腕を組み、仁王立ちで千尋を待ち構えていた。


 魁は二人にお辞儀をするとどちらに言ったのか、『ご武運を。』という言葉を残してこの場から去っていった。二人は少しの間お互いに顔を見合わせていたが鎧の男が口を開いた。


「小僧、名は?」


「千尋です、有間(ありま) 千尋(ちひろ)。」


 千尋の名を聞き、鎧の男は意味ありげに『ふむ』と声をあげた。


「あの木刀の小僧は長門(ながと)だったか、なぜ有間の御前が長門の小僧と友になっている?」


「二代目の時に生じた有間と長門の対立関係は俺たちの父の代で解消されました、アナタの言っている長門(ながと) 千歳(ちとせ)と俺は親友です。」


 "親友"───この言葉に反応して鎧の男が眉をピクっと動かした。


「そして、俺も千歳も次期当主です、お互いが当主になった時も俺たちの友情は変わりません。」


 この千尋の言葉に鎧の男が疑念を抱き、問いかける。


「御前たち二人、どちらかが道を(たが)えた時、果たして同じことが言えるか?」


「───俺は一度、道を外れそうになったことがあります。」


 鎧の男の問に千尋は間を置いて語りはじめた、魁の計画した有間家の建て直し、その騒動の中で千尋は魁の思惑で古くから有間と対立関係にあった長門の次期当主である千歳と戦った。


 結果として戦いは引き分けに終わり、二人の友情は有間と長門の友好関係の象徴として現在も揺らがぬものとなっている。


「その時に俺を今の道に連れ戻してくれたのは千歳です。もしアイツが道を外れそうになった時は、今度は俺が連れ戻します。」


 自信に満ちた表情で答えた千尋を見た鎧の男は満足気にうっすらと笑みを浮かべた。そして───


「いらぬ杞憂だったようだな・・・」


 と、千尋には聞こえない小声でつぶやいた。


「よかろう、御前の"力"がその意志にふさわしいものかどうか、御前たち有間家の創設者であるこの有間(ありま) 壱陽(いちよ)が見定めてやる。」


 そう言って壱陽は『大地を焼いた』と伝えられる紅蓮の炎を身に纏うと辺りに熱風が吹き荒れる、その姿は加具土命(カグツチ)を身に纏っているようであった。


 千尋も建御雷を身に纏いファイティングポーズをとる、壱陽は構えをとる様子を見せずまるで『かかってこい』と言わんばかりに笑みを浮かべている。


 次の瞬間、千尋の姿が消え、バチッ!という雷鳴と共に壱陽の眼前に現れると拳を突き出した。壱陽は身を翻して回避すると蹴りを繰り出し、千尋は刀の一振りのような鋭い蹴りを躱すと後方へと大きく飛び退いた。


(千歳より速く俺の動きに対応してきた、なんて反応の速さだ。)


 鬼恐山での戦いにおいて千歳は霊写(たまうつ)しの眼という長門家の人間が発現する魔眼の視力によって雷神を見に宿した千尋の速度に反応することができたのである。しかし有間家の人間であり魔眼を持たないはずである壱陽は千尋の動きに即座に反応し、回避しながら反撃までしてきたのだ。


 千尋はひとつ深呼吸をすると体勢を立て直す、壱陽から攻撃を仕掛けてくる様子はなく、まるで稽古をつけているかのように千尋の攻撃を待っている。


「さて、まずはアナタに本気を出させるところからってとこですかね、初代様。」


「俺の本気か・・・出させてみろ。」


 千尋の挑発ともとれる言葉に壱陽は『ふっ』と小さく微笑んだ、千尋が意識を集中させると身体に纏っている雷が青から紫へと変わっていき、目の色も赤紫色へと変色した。


 そして千尋の纏う紫電は仏のような形状へと姿を変えた、その変貌ぶりを見た壱陽は感嘆の声をもらした。


─────

───


 書物庫にて鎧の男が初代有間だということを突き止めた千尋は父親である道雪(どうせつ)と共に鬼恐山の屋敷にて"雷切(らいきり)"を習得するための修行に励んでいた。


 元々格闘術に長けていたこともあり、あっという間にコツを掴んだ千尋は短期間で雷切を習得した。


「さすが、やっぱり御前は天才だな千尋。僕が教えなくともひとりで会得していたんじゃないか?」


 息子の才能に道雪は感嘆の声をあげた、千尋の周りには雷切によって両断された岩がいくつも転がっている。


「そんなことはない、父さんの教え方が丁寧だったからだよ。」


「そうか・・・それはよかった。さて千尋、次は少しだけ難しいぞ。」


 汗を拭いながら千尋は言葉を返す、道雪は嬉しそうな笑みを浮かべるがもうひとつ千尋に伝授することがあった。


「次・・・?」


「覚えてるかい?魁の黒い雷を切った時の僕の雷を。」


 そう言われ千尋は『あっ』と声をあげた。


「紫色・・・」


「そう、あれは建御雷(タケミカヅチ)の雷を右腕一本に集中させた時の熱量で───という単純なものではないんだ。」


 そう言って道雪は右手に建御雷の雷を纏って千尋に見せる、この時点ではまだ青白い雷のままである。


「この雷に炎の属性を掛け合わせる、すると・・・」


 道雪が集中した様子で右手の雷を見つめていると青白い雷は光は紫色へと変色していく、紫電の正体は雷の魔力に炎の属性を掛け合わせることにより起こる属性変化だったのだ。


 千尋も道雪に倣い左手に建御雷の雷を纏う、そして自身の身体に宿る炎の属性を掛け合わせると色を変え、青白い雷から紫電へと昇華した。


 煌びやかな光を放つ千尋の紫電は雷というよりも"光"のようであった。

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