SAMURAI
血が沸きあがり心臓が高鳴る、相対するは銃を使う若き強者。相手にとって不足はなし、リョーマは戦いの喜びと高揚感に武者震いをしながら刀を構えると大地を蹴って走り出す。
(速ッ!?)
その駆け足の速さに驚きながら千悟が銃弾を数発放つがリョーマはそれらを全て躱しながら接近すると刀を振った、大きく後方へ飛び退いて回避した千悟は銃に弾を再装填し、炎の魔力元素弾を撃ち出した。弾の軌道を見切ったリョーマが刀を薙ぐと真っ二つに斬られた銃弾が足下に転がる。
(マジかよ、魔力使わないでコレか・・・)
心の中で千悟はぼやいた、この戦いでリョーマが魔力を使用したのは千悟の炎の魔力元素弾を防ぐのに水の壁を生成した時のみである、つまりリョーマはここまで純粋な剣術だけで千悟の魔力元素弾を防いでいたのだ。
千悟はリョーマが魔力を使った時の反応を思い出し、彼が魔力を使うことに慣れていないのではないかと考えた。そしてリョーマが魔力を使いはじめる前に決着をつけようと千悟は再び銃を構え、魔力元素弾を1発放った。
千悟は小さい頃から父親である狭間 英世に銃の扱いを教えられており使用している銃も父からのプレゼントである、そして自身が五大属性全ての魔力を使えることを無意識のうちに知った千悟は魔力元素弾を編み出した。
撃ち出された銃弾は蓄積された魔力の属性によって異なる特性を持つ、更に千悟は異なる2つの魔力を1発の銃弾に蓄積させて撃ち出すこともできる。
撃ち出された銃弾がリョーマから離れた地面に着弾すると千悟は続けて2発の銃弾を放った、炎と風の魔力を纏った1発目の銃弾は炎を巻き上げながらリョーマに向かっていく。
リョーマは銃弾を斬り落とそうと刀を構えるが、突然手に握っている刀が『カタカタ』と音を立てて震えはじめた。そしてリョーマは何かに強い力で引っ張られるように刀から手を離すと刀が地面に突き刺さる、そこは千悟が放った魔力元素弾が着弾した場所であった。
地面に着弾した銃弾は雷と岩の魔力を帯びており光を放ちながらリョーマの持つ刀を磁石のように引き寄せた、丸腰になってしまったリョーマは咄嗟に魔力で水の壁を生成する。
水の壁は1発目を防いだが続く2発目の魔力元素弾が着弾した瞬間、水の壁が爆散しリョーマは水飛沫と共に後方へと吹き飛ばされた。
2発目の銃弾には炎と岩の魔力で着弾と同時に爆発する特性を持たせた、1発目に着弾していた銃弾の風属性と合わさり魔力の壁ごとリョーマを吹き飛ばすほどの威力を発揮した。
大の字で地面に倒れているリョーマは空を見上げて雲の流れを見つめる、そして突然大声をあげて笑いはじめると立ち上がった。
「げにまっことおもろい!ワシらの時代にはこないな戦いはなかった!」
心底楽しそうな笑顔を浮かべリョーマは先ほど手放した拳銃を拾い上げると構えた、すると離れている千悟の目にも見えるほどの魔力を拳銃に纏わせる。
『まさか』と思った千悟がさらに距離を取ろうとするとリョーマが拳銃の引き金を引いた、銃声と共に青い魔力を纏った銃弾が放たれ、千悟は咄嗟に身を翻して回避するが銃弾の纏う魔力が頬を掠めた。
リョーマが次の弾を撃ち出そうとするがいま放った一発で拳銃が魔力量に耐えられず銃身が破損してしまっていた。
「ありゃぁ、壊れてもうた。」
そうぼやきながらリョーマは拳銃だったものをポイッと放り投げると地面に突き刺さっている自身の刀のもとへ歩み寄る、そして身体に魔力を纏わせ、刀の柄を握りしめると刀の刀身にも魔力を纏わせる。すると刀身の魔力が地中の銃弾が放つ引力を断ち切り、リョーマは刀を地面から引き抜くと鞘に納めた。
「おおきにな、狭間。」
そして突然リョーマは礼を言った、千悟はなんのことかわからず戸惑う。
「なんのことっすか・・・?」
「おまんがワシのことを"武士"じゃと言ってくれはったおかげで、ワシゃ武士として戦えた。まっこと、満足ぜよ!」
そう言ってリョーマはニカッと笑った。リョーマの生きていた時代、魔力などという不可思議なものを使う侍はいなかった、だからリョーマは魔力を使わずに拳銃と剣術だけで千悟と戦っていたのだ。
しかしそれでは本気で挑みに来ている千悟に対して後ろめたい気持ちもあり、リョーマは武士ではなく星霊として魔力を使って戦うことを決意した。
「狭間、こっからはおまんの知るリョーマとしてではなく・・・」
突如として波の音に混じって『ゴゴゴゴ・・・』と海鳴りが辺りに響く、その海鳴りは段々と大きくなり海中からなにか巨大な物体が浮上してくる。
「星と契約した星霊として、おまんと戦うぜよ。」
そしてその物体は水飛沫と共に姿を露にした、リョーマの背後の海に現れたのは巨大な船であった。リョーマは船の方へ振り向くと地を蹴って飛び上がり船の甲板に着地した。
「さぁ、全力で挑ききーや、狭間!胸貸しちゃる!」
リョーマが舵を握ると船の隅々にまで魔力が漲る、彼の目は刀を握っていた時よりもイキイキとしていた。




