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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Genius

 魔力には炎、水、風、雷、岩といった五大属性がある。1人で複数の属性の魔力を持っている者もおり、二つ以上の属性の魔力を組み合わせることで新たな属性の魔力を生み出すこともできる、これを"属性変化(ぞくせいへんか)"といい様々な組み合わせが存在する。


 開賀(ひらが)家の先代、開賀(ひらが) 鐘理(しょうり)は五つすべての属性の魔力を持ち、岩の属性が突出して強かった彼は属性変化で地形を変えられる程の力を持っていた。


 いつしか彼の魔力は"岩"という属性を超え、"大地"という属性へと昇華させた。




 "石を通じて大地を識る"




 開賀家に代々伝わる教えのもとに彼も鍛錬を積み重ねた、そして開賀家は古くから大地の魔力によってのみ発現する大魔術、"地皇権唱(ちおうごんしょう)"を有していた。


 いま千晶が使用しているのがそのうちのひとつ、"璧立千刃(へきりつせんじん)"である。


─────

───


 千晶(ちあき)は現れた剣の柄を握りしめ、振りかざすと剣身に黄金の光が輝き出す。


 その神々しい光に目を細めながら(すすむ)は感嘆の声をもらした。




───今なら自信と誇りを持って言える。




 黄金の光を目にした鬼頭(きとう)が咆哮をあげると爪を振りかざし千晶に向けて突進する、そして千晶が剣を振り下ろすと黄金の斬撃が鬼頭に向けて飛翔した。




───私の息子は、千晶は天才だ。




 黄金の斬撃は巨大化した黒い闘気ごと鬼頭の身体を呑み込むと彼の身体から黒い影を斬り離していく、そして辺りに衝撃波を発しながら光は収束し消えていくとそこには鬼頭が倒れていた。


 纏っていた黒い闘気は消えており、少しして鬼頭はゆっくり目を開けると寝ている自分に驚きすぐに上体を起こした、しかし先程まで人間離れした無理な動きをしていた影響で全身に筋肉痛のような激しい痛みが走る。


「・・・負けたんだな、俺。」


 状況を理解したのか鬼頭は落胆のため息をつくと一言つぶやいた、そして横に立っている進の方を向くと暗い表情で声をかける。


「博士、悪い・・・負けちまった。」


「鬼頭くん・・・私こそすまない、君を危険な目に合わせてしまった・・・!」


 鬼頭の謝罪の言葉を聞き、進は膝を地面に着けると鬼頭に頭を下げた。しかし鬼頭が進を責めることはなかった。


「博士、俺はアンタのおかげで開賀千晶と戦えることができたんだ。まぁ途中から変になっちまったけど、俺はアンタを恨んじゃいないさ。」


そう言って鬼頭は千晶の方を見る、身体に傷は無く疲れた様子も見せない千晶に対して鬼頭は『ふっ』と鼻で笑うしかなかった。


「さすがだな、開賀千晶。やっぱり俺はお前には勝てないらしい。」


「・・・どうだろうな。」


 千晶なりの気遣いなのか曖昧な言葉を返すと鬼頭と進に背を向けた。


「鬼頭。」


「・・・なんだ?」


 名前を呼ばれ返事をする鬼頭に千晶は振り返ることも無く話し始める。


「お前、天翁の所なんかにいないで格闘技の選手にでもなったらどうだ?才能あるぜ。」


「・・・ふっ、考えとくよ。」


 鬼頭の答えを聞いた千晶は満足そうな声色で『そうか』と言い残して歩き出した。


─────

───


「お疲れ様でございます、坊ちゃんらしい優雅な勝利でしたね。」


「ちょっとだけ予想外なことがあったけどな。」


 戦いに勝利した千晶を桐江(きりえ)が出迎える、手には水の入ったペットボトルを持っておりそれを千晶に差し出すと、千晶はお礼を言いながら受け取り蓋を開けて水を一気飲みした。


 そして目の前にここに来た時と同じ空間の裂け目が現れた、千晶は桐江に声をかけると二人でその裂け目へと足を踏み入れこの場から去っていった。


 戦いに敗れ残された鬼頭は地面へ寝転ぶと千晶から言われた言葉を思い出していた。


(格闘技の選手か・・・)


 千晶からの提案に先程は適当に答えたが、最後に言われた『才能がある』という言葉に鬼頭の胸が高鳴ったのを覚えている。


 鬼頭は再びバッと上体を起こすと進の方を向いて口を開いた。


「博士、俺───」


「わかっているさ、私も評議会を抜ける。息子との約束だからね。天翁と話をつけてくる、君は休むといい。もう()()()に戻ってはいけないよ。」


 そう言い残して進は立ち上がると歩き出した。


「博士?おいっ・・・くそ、博士・・・博士ッ!」


全身の痛みで動けない鬼頭が何度呼んでも立ち止まることはなく進はその場から去っていった。


─────

───



 天翁から持たされていた空間の裂け目を生み出せる装置を使い私は研究所へと帰還した、そして自身の研究室に入り椅子に座るとひとつため息をつきキーボードを叩き始める。


 しばらくしてひと仕事終えた私はひとつ伸びをすると再び大きなため息をついた、これから私は天翁に評議会を抜けることを告げなければならないのだ。


 息子との約束のためとはいえ気分が重い、せめて彼が初めて会った時のような温和な老人であれば幾分か話しやすかったというのに・・・


「ここにいましたか、開賀博士。」


 突然後ろから声をかけられ、その聞き覚えのある声に私は振り向くと驚愕した。


 10年前、あの料亭で出会った老人がそこに立っていたのだ。


「天翁・・・か?」


「これはおかしな事を仰る、同志の顔をお忘れかな?」


 忘れるはずもない、彼と出会ったあの日、私の運命は大きく変わったのだから。


 しかしどういうつもりだろう、たしかに私は"あの時の彼であれば"などと思いはしたがまさか本当にその姿でここに現れるとは。


「本当に・・・鏡のようだね、君は。」


 思わずそんな言葉が口から出てしまった。


「して、彼はどうでしたか?鬼頭・・・でしたっけ。」


「・・・負けたよ、私たちの敗北だ。」


 私の報告に天翁は特に落胆する様子はなかった、むしろ当然だと思っているようにも見えた。


「まぁ、そんなことだろうとは思いました。やはり凡人の彼には荷が重かったようですね。」


「・・・っ」


 彼の言葉に私は思わず反論しそうになるが拳を握りしめグッとこらえる、ここで雰囲気を荒らげると話しづらくなってしまう。


「博士、ここではなにを?パソコンを使用していたようですが。」


 天翁は私とその背後にあるパソコンを交互に見て尋ねてくる。


「あぁ、今さっき最後の仕事を終えたところでね。」


「最後?最後とはいったいどういうことです?」


 "最後"という言葉に反応して天翁が問いかけてくる、私は握った拳をそのままに意を決して話を切り出す。


「私と鬼頭くんを評議会から除名してほしいんだ。」


 私の申し出を聞いた天翁は表情が一変し、次の瞬間には温和な老人の姿からいつもの彼の姿へと変わっていた。


「評議会を抜ける・・・ということか。」


「今日の戦いで息子と約束してしまってね、家に帰らないといけないんだ。」


 

 しばらくの沈黙の後、天翁は口を開いた。



「・・・()()()()()、というのは?」


 そしてパソコンを指さし私に問いかけてきた、おそらく私がこれまでの実験や研究のデータを消していたのではないかと疑っているのだろう。


 そんな事をするつもりは全く無かったが。


「たいしたことじゃない、今日の戦闘で得たデータを入力した。あとはデータを閲覧しやすくするのに少しレイアウトを変えただけだ。なんだったら見てみるといい。」


 そう言って私はデータを閲覧できるページを開きパソコンから離れた。


 天翁はパソコンに近づき画面を見る、そして見終わると彼は不思議そうな表情を浮かべながら私の方を見た。


「なぜこんなことを、お前たちは評議会から抜けるのだろう?」


「私は科学ありきの人間でね、交渉の道具なんかに使いたくはない。そしてなにより・・・」


 私は言葉を詰まらせ俯いたがすぐに顔を上げて彼に思いを伝える。


「君には恩がある、だから私はあくまで一人の"友人"として誠意をもって君にお願いすることにしたんだ。」


 再び訪れる沈黙、天翁は『ふっ』と小さく笑った。


「いいだろう、その誠意とやらに免じ今をもってお前と鬼頭の両名を評議会から除名する。」


 そう言って天翁は手をかざすと空間の裂け目が現れた、私は彼に向けて深々と頭を下げる。


「すまない、そして・・・ありがとう。」


 私が口にした"ありがとう"には様々な思いがある。しかし彼らと(たもと)を分かつ私がそれらを語ったところで無意味だろう。


 裂け目に足を踏み入れた私は意識が暗闇へと沈んでいき、そのまま眠るように気を失った。


 目を覚ますと私は公園のベンチに座っていた、あの研究所で起きたことや見たことを思い出そうとしても思い出せない。


 思慮深い彼のことだ、私が外の者に情報を言わないようにでもしたのだろう。元々私は誰にも言うつもりはなかったのだが・・・。


「さて・・・と。」


 私は声をあげてベンチから立ち上がると家族のもとへ帰るために歩き出す、長いあいだ帰りを待たせてしまった妻に思いを馳せながら私は公園をあとにした。

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