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時は遡り千歳と紗奈がダンテと共にアメリカへ旅立つ前日、千尋はあの公園に現れた星霊の一人である鎧の男の正体に心当たりがあり、それを確かめるために有間の御隠居こと有間 万歳のいる部屋の前に立っていた。
「祖父さん、千尋です。今大丈夫ですか?」
「おぉ千尋か、大丈夫だ。入っておくれ。」
万歳に招かれ千尋は襖を開け間に入ると万歳の前で正座をする、万歳は読んでいた新聞を折りたたんで床に置いた。
「ちょっと祖父さんに聞きたいことがありまして。」
「御前が儂に?珍しい・・・」
この千尋の言葉に万歳は意外そうな表情を浮かべ、目の前の膳の上に置いてある緑茶を一口飲んだ。
「はい。有間家の人間で、鎧を着て戦ってた人達っていますか?」
「鎧?まぁ、いるにはいるが・・・」
千尋の問に万歳は腕を組んで少し考えると『よいしょ』と声をあげて立ち上がった。
「どれ、直接見た方が早いだろう。久しぶりに書物庫へ行こうか。」
「わかりました。」
そして千尋は万歳と共に間を出ると有間の屋敷の横にある書物庫へとやってきた、書物庫の中は埃が舞っておりしばらく掃除をされていない様子だった。
「魁がいた頃は、あやつがよく自分から進んで書物庫の掃除をしてくれたもんじゃな。」
「・・・そうでしたね。」
天翁の同志であり人間を嫌悪していた魁だったが、そんな魁でも有間家の使用人として真摯に務めてきた。いま千尋と万歳がいる書物庫も魁が掃除をしていたのだが、鬼恐山での件から魁が有間家から離れ書物庫を掃除する者がいなくなってしまった。
万歳は舞っている埃を手で払いながら奥にある棚から1冊の古い資料を手に取ると千尋に資料を開いて渡す、千尋が資料を見ると当時は写真などなく鎧を着た男たちが戦場を駆け回っている様子が絵となって残っていた。しかしその中に千尋が公園で会ったあの鎧の男はおらず、千尋はページをめくりながら探す。
「千尋、御前の探している者のなにか特徴はないのか?」
「特徴・・・炎を纏っている人です、加具土命のような。」
千尋はふと鎧の男が纏っていた紅蓮の炎を思い出し万歳に告げる、すると万歳は千尋が見ているものより一層古い資料を取り出し埃を払うとページをめくり始める。
「いま御前が言った通りの者であれば、この御方のはずだが。」
万歳から渡された資料を見て千尋は目を見開いた、絵なので顔立ちは明確ではないが描かれていたその立ち姿は間違いなく公園に現れた鎧の男であった。絵の中の男の足元の大地には炎が燃え盛り天には稲妻が走っている。そして男は神々しい光を纏っているような描写がなされていた。
「炎は大地を、雷は天を焼いた。しかし纏う光は人々を守り、照らした。と言われておる。その御方が我々の始祖、初代有間じゃよ。」
「やっぱりそうだったのか・・・」
男の絵の隅にも『アリマノ姿絵』と書かれていた、万歳は真面目な表情で絵を見つめる千尋を不思議に思った。
「して、初代様がどうかしたのか?」
「え、あぁ・・・いえ、初代有間も加具土命を纏っていたのかなと。」
千尋は万歳に悟られないように笑顔を作りながら資料を閉じ棚に戻す、そして空気が悪いということを理由に千尋は万歳と共に書物庫を後にした。
「儂も話を聞いただけで直接見たわけではないからわからんがの、初代様は加具土命も建御雷も纏っておらんかったらしい。」
万歳は部屋に戻る道中、自分が先祖から聞いたことを千尋に話していた。先程見た姿絵でも炎や雷が描かれていたのを覚えている、現にあの公園でも炎を纏っていたのを千尋は見ており鎧の男の神性は加具土命だと思い込んでいた。
「加具土命ではなく、建御雷でもない。別の神性を宿しているってことですか。」
「そういう事になるな。」
そうして話しているうちに万歳の部屋に到着し、万歳は襖に手をかける。
「祖父さん、わざわざ書物庫にも一緒に行ってもらってありがとうございました。」
と、千尋が頭を下げてお礼を言うと万歳はどこか寂しげな表情を浮かべる。
「千尋、儂はただ孫の疑問に答えただけじゃ。あと、その畏まった敬語も不要じゃ。」
「あ、あぁ、わかっ・・・たよ、ありがとう。祖父さん、助かったよ。」
千尋の言葉に万歳は満足気な笑みを浮かべて頷き、襖を開けて部屋へと戻って行った。
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自身の相手がどれほど強大なのかを再認識した千尋はリビングに入ると道雪に歩み寄った。
「ど、どうしたんだ千尋。そんな表情で・・・」
「頼みがある。俺に雷切を教えて欲しい・・・強くなりたいんだ。」
千尋は自分が星霊───初代有間と戦うことは家族の誰にも話していなかった。道雪は珍しく自分を頼ってくる千尋に驚いたが、その表情を見て余程の事があったのだろうと真剣な面持ちで答えた。
「なにがあったのかは聞かないでおくよ。でも僕は御前を信じている、それだけは肝に銘じてくれ。」
「あぁ、わかってるよ、父さん。」
道雪の心遣いに千尋は内心、感謝しながら頷いた。後日、二人は修行のためにあの鬼恐山に足を踏み入れることとなる。




