Beach
霊写しの眼が変異し影が視えなくなってから1週間が経ち、この日も朝から修行のために千歳はダンテと共にレリクスバレーを訪れていた。
千歳はダンテから指導を受け龍脈の使い方が以前よりも上達し、あれほど苦戦していたプラチナゴーレムも今では霊写しの眼で影が視えずとも刀の一振りで倒せるようになっていた。
「チトセ、あの飛ぶ斬撃に名前は無いのか?」
「え、名前?あぁ、特に気にしたことないなぁ・・・」
以前であれば使いこなせなかった、というより原理もわからなかったあの黒い飛ぶ斬撃も今ではどういうわけか千歳の意思で自由に使えるようになっている。
千尋の建御雷やナガトの阿修羅のような技を持たない千歳にとっての唯一にして最大の技とも言えるので名前などは気にせずに"奥の手"として使っていた。
「名前は重要だぞ、技を発する時に乗せる思いの強さが変わるからな。」
「・・・なるほど。」
ダンテは技名を叫びながら戦ってあのナガトを圧倒していたのだから言葉に説得力がある、千歳は腕を組み少し考えるがすぐには思いつかなかった。
しかしふと、千尋の父親である道雪が魁との戦いで見せた"雷切"を思い出し、ひとつの名前が頭に思い浮かんだ。
「・・・"断風"とか?」
「Good!あとは・・・そう、その刀の名は?」
ダンテは千歳が左手に持つ刀を指差し尋ねる。初めてプラチナゴーレムを倒した時に千歳が身体に龍脈を纏った時に現れた刀なのだが、千歳が影を解いても消えずに現界に留まっているのだ。
そのまま千歳が使用しているが日本の家に置いてきた木刀よりも不思議と手に馴染む、千歳は刀を鞘から抜き刃の部分を見ると氷のような冷ややかな印象を受ける。
「そういえばその刀、プラチナゴーレムを一太刀で斬り倒して刃こぼれひとつしていないな。日本では優れた斬れ味を持つ刀の刃を"秋"の頃の澄み切った"水"のようだと讃える風習があると聞く、それに倣い"秋水"なんてどうだろうか?」
「秋水か・・・いいね。」
千歳はその名前に満足気な笑みを浮かべ、秋水の刃を鞘に納める。そしてダンテは日の落ち始めた空を見たあと腕時計に視線を移す。
「っと、チトセ。そろそろ帰ろう、もうすぐディナーの時間だ。」
「もうそんな時間か、早いなぁ・・・」
そうは言いながら千歳は夕食が楽しみで仕方なかった、なぜならこの日の夕食は紗奈がベアトリーチェに教わりながら作るからだ。
「修行もそろそろラストスパートだ。明日・・・は休みで明後日からビシバシいくぞ、チトセ。」
「Yes Master!・・・え、休み?」
─────
───
─
翌朝、千歳は紗奈やエヴァンス夫妻と共にダンテの運転する車でビーチにやってきていた、男女で交代しながら車内で水着に着替えた一行は砂浜で場所を取り荷物を置く。
そしてダンテは荷物から浮き輪と空気入れを取り出し、浮き輪を膨らませはじめた。
「せっかく夏のアメリカに来たんだ、今日はビーチで遊ぼうじゃないか。」
そう言ってダンテは膨らませた浮き輪を紗奈に、千歳にはゴーグルを手渡し、ダンテ自身もゴーグルを着けて海に向かって1番に走っていった。紗奈も千歳の手を握り、ビーチパラソルが作る影の中から陽射しが照りつける海の方へと千歳を引っ張って行った。
海の水は冷たく風も吹いているが太陽の陽射しが強くダンテのテンションにつられて全力で遊んでいた千歳はあまりの暑さに耐えかねてビーチパラソルの下の日陰に逃げ込むように戻ってきた。すると先に戻り日陰で座って休んでいた紗奈がクーラーボックスの中から冷たい飲み物を取り出し千歳に差し出す、千歳は礼を言いながら飲み物を受け取り蓋を開けて一気飲みする。
「ごめんなさいね、チトセ。夫のテンションに付き合わせちゃって・・・」
「あぁ、いえいえ。全然・・・」
千歳はベアトリーチェに気を遣わせないように笑みを浮かべながら手をヒラヒラと振る、一方そのダンテはと言うと・・・
「Spike!」
「おぉー!」
他の海水浴客と混じってビーチバレーを楽しんでいた、ダンテが点を決める度に千歳の隣に座っている紗奈が拍手して喜んでいる。
そしてビーチバレーの試合が終わったのかダンテは対戦相手と握手をしたあと千歳たちのいるビーチパラソルの場所へと戻ってくる。
「いやぁ暑いな!夏はこうでなくてはな!」
「すごい体力だな・・・ん?」
ベアトリーチェから手渡された冷えたドリンクを一気飲みしているダンテの身体を見るとあれだけ陽射しの中にいたというのに大量に汗をかいてはいるものの肌が赤くなっておらず日焼けした様子が見られないことに千歳は気づいた、水着に着替えたあとすぐ砂浜で場所を取りそのまま海に向かって走り出してそのまま今まで遊んでいたので日焼け止めを塗る暇は無かったはずだった。
「ダンテ、全然日焼けしてないな。日焼け止め塗ってたっけ?」
「ん、あぁ・・・俳優をやっていると、自分の都合で肌を焼くわけにもいかないからな。龍脈で肌を保護しているんだ。」
そう言われ千歳はダンテの身体を凝視するが、青い龍脈がダンテの身体を保護している様子は見受けられない。よほど薄い龍脈を身体に纏っているのだろうと、霊写しの眼で影を視ることのできなくなった千歳はそう納得するしかなかった。
「それを言うならチトセも日焼けしていないじゃないか、同じことをしているのだろうなと思っていたのだが・・・」
「いや俺は・・・どういうわけだか、日焼けとかしたことないな。」
ダンテも千歳の身体を見渡すが、千歳の身体にも日焼けした様子は見られなかった。ダンテは千歳の龍脈が本人の意思に関係なく千歳を守ろうとする特性が関係しているのだろうと推測する。
「まぁいいさ、これを既にできるようになっているのならキミに伝授できる。チトセ、次がLast Lessonだ。」
Last Lesson
その言葉に千歳の表情が強ばった、ダンテは立ち上がるとそんな千歳の肩をポンと叩く。
「大丈夫さチトセ、今はとにかく楽しもう!」
ダンテはニカッと笑顔を浮かべながら手を差し伸べた。千歳が笑みを返しながらその手を握ると引っ張られるように立ち上がる。そして二人は再び砂浜へと駆け出していった。




