Starry sky
朝、千歳は目を覚ますと壁にかけてある時計をボーッと眺めていた。
自身の龍脈である黒い人影と向き合い協力を得てプラチナゴーレムを倒した千歳。ダンテは千歳が龍脈を使いこなしてプラチナゴーレムを倒したこと、そしてなにより紗奈を守ったことを称賛した。
それはそれとして一人で無茶をした罰としてダンテは愛のムチと称し、青い龍脈を纏った拳で千歳を殴り飛ばしたが。
この日の修行はなく二度寝をしようとも考えたが、この日の千歳はすこぶる目覚めが良かった。隣のベッドを見ると紗奈の姿が見えないので先に起きたのだろう、自分も起きようと千歳はひとつ伸びをしてベッドから立ち上がり1階のリビングへと向かった。
「あらおはよう、チトセ。コーヒーは飲む?」
「おはようございますベアトリーチェさん。はい、いただきます。」
リビングではベアトリーチェが朝食の準備をしており、先に起きていた紗奈も椅子に座ってテレビを見ながらコーヒーを飲んでいた。
「おはようちぃちゃん、今日は早いね。」
「おはよう紗奈ちゃん、なんか目覚めがよくてね。」
紗奈と朝の挨拶を交わす千歳にベアトリーチェがコーヒーの入ったカップを渡し、千歳はお礼を言いながらカップを受け取るとミルクと砂糖をコーヒーに入れて混ぜる。
「そうだね、ちぃちゃんよく眠れたみたい。今日は目の下のクマがないもん。」
「・・・ん?」
紗奈の何気ない言葉に千歳は椅子から立ち上がり、リビングから洗面所へと向かうと鏡で自分の顔を見る。
「・・・本当だ。」
今まで十分な睡眠をとっても決して消えることのなかった目の下のクマが綺麗さっぱり無くなっている。
なぜ目の下のクマが突然消えたのか疑問に思いつつも千歳はリビングへ戻ると椅子へと座る、そしてリビングにダンテもやってくるとちょうど朝食が出来上がったので紗奈と千歳は配膳を手伝った。
朝食を食べ終えると紗奈とベアトリーチェは2人で買い物に出かけて行った、リビングでは千歳とダンテがテーブルを挟みお互いに向き合って椅子に座っている。
ダンテは両肘をテーブルに立て両手を口元で組み、真剣な表情で口を開いた。
「チトセ、サナとは・・・どこまでいったんだ?」
「は・・・はい?」
あまりに唐突な問に千歳は思わず声をあげた。
「はじめての海外旅行、そして同じ部屋に若い男女が二人・・・もう告白くらいはしたんじゃないのか?」
「し、してないよ・・・」
千歳の答えにダンテは組んでいた手を解き、がっくりとうなだれるとひとつため息をついた。
「チトセ、いくらなんでも奥手過ぎないか?」
「いや・・・あの、心の準備とかいろいろ・・・」
自信なさげな様子の千歳を見てダンテは顎に手を当てて少し考えると何かを思い出したかのように声をあげ、手をポンと叩くとダンテは千歳に夜に紗奈を誘ってビーチに行くように提案した。
千歳が理由を尋ねるとダンテは頬を赤らめて恥ずかしげに話す、それを聞いた千歳はダンテの提案を受け入れ紗奈を夜のビーチに誘うことにした。
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その日の夜、ビーチに着いた二人は満月と星が輝く空の下の砂浜を横に並んでゆっくりと歩いていた。
「星、綺麗だね。」
紗奈が星空を見上げながら千歳に話しかける。
「そ、そうだね、ほんと・・・綺麗だよ。」
千歳はそう言いながら星空ではなく紗奈の顔を見ていた、星と月の光でうっすらと照らされている紗奈の顔に千歳はつい見惚れてしまっていた。
「っ!もう、私の顔を見ながら言わないでよ。勘違いしちゃうじゃん!」
そのことに気づいた紗奈は照れながら自分の顔を見つめてくる千歳の頬を両手で包み空の方へ向かせようとする。
「いや、あの・・・勘違いとかじゃなくて・・・」
そう言いながら千歳は紗奈の両手を自分の両手でそっと握る。
「星よりも、月よりも、俺にとっては紗奈ちゃんが一番綺麗なんだよ。」
「・・・ふぇ?」
突然な千歳の言葉に紗奈は声をあげて戸惑っている、千歳もいま自分がとても恥ずかしいセリフを言ったことに頬を赤らめている。
「ち、ちぃちゃん、それはどういう・・・」
「いや、あの・・・だから、その・・・」
千歳は次のセリフが頭に浮かばずあたふたするが、意を決して想いを口にした。
「好きなんだよ、紗奈ちゃんのことが。」
「っ!」
千歳の告白に紗奈は驚いて目を見開き頬を赤らめて口も半開きになっている、千歳はそんな紗奈の顔を見つめ彼女の返事を待った。
「え、えっと、ちぃちゃん。その"好き"はLoveの方かな・・・?」
「ら、Loveのほうだよ、もちろん。」
紗奈の問に千歳が答えると紗奈は嬉しそうに微笑み自分の身体を千歳の身体に密着させる、千歳は思わず握っていた紗奈の両手を離し両腕を上にあげた。
「私も・・・ちぃちゃんの事が好き。もちろん、Loveの方ですよ?」
そう言いながら紗奈は解放された自分の両腕で千歳の身体をギュッと抱き締めた、千歳はあまりの多幸感に惚けてしまっている。
「ちぃちゃんも、ギュッてするのです。」
「あっ・・・うん。」
紗奈に抱擁を迫られ、千歳は上にあげていた両腕で紗奈の身体を抱き締める。しばらく抱き合った二人は離れると、お互いの顔を見つめ合う。そして───
「ちぃちゃん、しますか・・・?キス。」
「っ!は、はい。お願いします・・・」
満月が輝く星空の下、二人の顔はゆっくりと近づき千歳と紗奈の唇と唇は触れ合い、重なった。
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『なんで夜のビーチに?』
『今夜はきっと満月で満天の星空だろう。私がビーチェに愛のプロポーズをして指輪を渡したのも、そんな夜のビーチだったんだ。』




